平凡にフリーズ
其の29
5日目の朝、彼女は突然現れた。
クールビューティーな顔立ちにプラチナブロンドの髪を一つに束ね、深紅の鎧を身に付け、手には黒く光りうねった形状で先端もうねるような刃を備えた異形の槍を持ち、抜群のスタイルはリュウビをも凌駕する双丘を自己主張させる小さな子?
身長は150cmにも満たない小ささだが、その身長とはアンバランスなダイナマイトボディーの女性。
年齢は20代後半ぐらいだろうか…
突然現れた謎の美女に警戒していると女性が
『カンや。準備はええか?』
と言い放つ。
『婆ちゃん!?』
『その姿はどうしたの?』
俺は当然絶賛混乱中だが、リョウ君は自分の師匠の若返りにこれでもかと大きく口をポカーンと開けたままフリーズしていた。
そこに遅れて現れたリュウビが
『誰?』
『私の殿に何か用なの?』
『まさか!?』
『殿!私という存在が居ながら別の女性に!?』
などと1人昼ドラの修羅場を演出し始める有り様だ。
『リュウちゃん違うよ』
『信じられないかもしれないけど婆ちゃんだよ』
俺も未だに信じてはいないのだが、女性の正体をリュウビに教えると
『そんな嘘が通じるものですか!』
『こんなデカパイがお好みでしたの?』
『私のではご不満?』
『それにこれほどの年上がお好きだったなんて一言も…』
未だに1人昼ドラを続けるご様子に
『うるさい娘じゃの。胸が小さいぐらいでギャーギャー騒ぐな』
と正体をバラしながらも胸について付け加えた辺りは女性としての対抗意識の表れか?
『えっ?』
『えぇぇぇーっ!?』
リュウビも当然のリアクションとなり1人昼ドラはどうやら終わったようだが、まだ婆ちゃんなのか信じられない様子だ。
『とりあえずどういうことか説明してよ』
俺が事態の終息を計って多分婆ちゃんらしい女性に訴えると、やっと事態の説明をしてくれるのであった。
◆◇◇◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇◇◇◆
『えっ?』
『チョウ妃?』
婆ちゃんは自分を「チョウ妃」と名乗ったのだった。
婆ちゃんの説明によると、仙人である自分はなるべく人間の争い事には関わりたくないので弟子役の俺を使って乱れた世の中を平穏にしようと企てていた。
しかし、俺達だけでは少し不安になり、今回の「チョウ妃」に化けて仙人の弟子の1人として参軍するとのことだった。
元々気功も達人級の仙人ならこんな変身も可能だったのだが「疲れるから」との理由で今までちっちゃな婆ちゃんの姿のままだったらしい。
なんとも気分屋仙人らしい理由だが、何もこれ程にも化けるのって絶対リュウビに何らかの対抗意識があるはずだ。
ローソン村でリュウビを見た村人達がザワついていた辺りから考えていたか?
それにしても「チョウ妃」って…
俺の姿は関羽で婆ちゃんが張飛を名乗る。
リュウちゃんは当然劉備でリョウ君は諸葛亮。
オマケに雀は周倉か。
本当の三国志なら負けそうにないメンツだが、中身はポンコツ悪魔に残念な龍と子供に加えて俺だからな…
婆ちゃんが不安になる気持ちも理解出来るよ。
俺達は一応婆ちゃん改め「チョウ妃」の説明に納得はしないものの、やはり婆ちゃんが一緒なのは心強いので了承する。
『まぁええ。早速じゃがこれに着替えるのじゃ』
魔法の袋から俺達の分であろう鎧や魔道具等を取り出した。
もはや拒否権等あるはずも無い俺達はそれぞれ与えられた鎧や武具を装着する。
俺の鎧は鋼真鍮製で大人の姿にちょうど良いサイズのほぼフルプレートメイルだ。
色は婆ちゃんと同じ深紅。
状態異常防止効果がある兜には額の部分にルビーのような宝石が埋め込んである。
リュウビの鎧も鋼真鍮製だが、婆ちゃんの鎧と同じタイプのようで、重量を加味して胸部と腰部はセパレートになっていて、腕には肘当て、脚には脛当てとなっている。
色はやはり深紅だが、頭部は兜では無くティアラのような冠状で中央にはサファイアのような宝石が埋め込んであった。
ちなみに婆ちゃんの頭部は炎が燃えているようなデザインの兜で、やはり中央にはピンク色の宝石…
ピンクダイヤだろうか?が埋め込んである。
リョウ君は鎧では無く白銀紘製の鎖帷子が縫い合わされた純白の着物で、襟と袖と裾は俺達と同じ深紅に塗り分けられていた。
それぞれが装備をし終えたのを確認すると
『動き難くは無いかの?』
と自分の作った武具の具合を案じている婆ちゃん。
ずっと自分の部屋に込もっていたのはこれらの装備を作っていたようだ。
普段は気分屋の仙人だが、やはり「デキル女」である。
そこに今まで無反応だったシュウソウが
『これで揃いましたな』
と俺の知る三国志を知っているかのような意味深な言葉をほざいている。
どういう意味か突っ込みたかったのだが、
『あと、これはお前さんに』
と言ってリュウビに二本の剣を渡す婆ちゃんに遮られてしまった。
『それは魔法の剣じゃ』
『一本づつなら切れ味が良い普通の剣じゃが、二本を合わせると、大抵の金属を弾く効果があるのじゃ』
と自分が作った魔法の剣の説明をする婆ちゃん。
良く見ると、剣の根元にそれぞれ赤と黒の宝石のような石が埋め込んであった。
『婆ちゃん。この石って』
俺はリュウビの剣に埋め込まれた石に見覚えがある。
『ほう。わかったか』
『山賊からの戦利品じゃ』
『この石はな、元は一つの石なんじゃが、色の違う部分で別けてやると、反発する性質があっての』
と少し自慢気に説明する婆ちゃんだが、どうやら反発する石の性質を利用して防具にもなる武器を作ってしまったようである。
これも【雌雄一対の剣】とも呼ぶべき見事な剣だが、やはり俺の【転生者固有技能】によってこのような形状の剣に…
まてよ。
婆ちゃん愛用の黒壇製杖がチョウ妃が持つ槍になって見た目は【蛇矛】に見えなくも無い。
やはりそんな風に俺が周りを巻き込んでいるのか…
『それで最後はお前さんにじゃ』
そう言って婆ちゃんは真っ赤な羽の付いたウチワのような物をリョウ君に渡し
『それはわしが昔、異国で捕まえた不死鳥の羽を使っちょる魔道具じゃ』
『不死鳥は喰ってしもうたが、不思議な事に不死鳥の羽は羽だけになっても生え代わるのじゃ』
『じゃから、風の魔法でその羽を飛ばし矢のように使ってもまた羽が生えてくる魔道具じゃ』
といきなり不死鳥を食べた逸話をぶち込んできた仙人だが、補充のいらない弓矢のようなウチワとはチート過ぎる魔道具だ。
本物の諸葛亮の逸話に連弩の開発があったはずだが、発明者は婆ちゃんでしたか。
リョウ君は驚きのあまりウチワを見つめたまま、またもやフリーズしている。
『それじゃ準備もええじゃろうから作戦会議じゃ』
そう言って婆ちゃんはダイナマイトボディーにクールビューティーな顔立ちからは似つかわしくない何やら企んでいる様子の不敵な笑みを浮かべるのであった。
次回投稿予定 【10月22日】




