平凡にバカップル
其の23
草原の中の街道を一路南へと進む3人と一羽の雀。
俺は前の世界から転生し、見た目は中学生ぐらいだが中身は34歳のオッサンだ。
隣の美女は
俺より身長(160cm)が少し高い見た目20歳前後のナイスバディーだが性格残念な龍。
昨日、俺と結婚ではなく婚約をしたリュウビ。
先頭を歩く小さなお婆さんが推定年齢千歳以上の気分屋仙人のチョウ。
そして俺達の頭上を飛び回る雀が俺と契約した悪魔のシュウソウ。
端から見たらお婆さんが孫2人と歩いているか、お婆さんとお母さんに付いて行く息子のようにしか見えない俺達だが、実際はまともな人間が誰一人として存在しない異色の組み合わせである。
『カンや。そろそろ昼飯かの』
婆ちゃんの腹時計では昼飯刻のようだが、俺の感覚だと少し早いようだ。
朝から歩いているのだから腹も減るだろうと俺が考えていると
『はいっ』
俺の隣から元気な返事が。
リュウビは飯の時には元気がいい。
元鯉のリュウビは人間の食事が大層お気に入りのご様子だった。
リュウビの返事に応えるように婆ちゃんが転移魔法を発動させ、森の婆ちゃんの家に帰って昼飯である。
◆◇◇◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇◇◇◆
『リュウちゃんは危ないから包丁持っちゃダメだよ』
リュウビが料理を手伝おうと包丁を持つが、刃に添えた指を今にも切りそうで怖い。
元鯉なのだから料理自体の経験はゼロで仕方ないのだが、もう少し慎重さを身に付けて欲しい。
『リュウちゃんには味見を頼むから少し待ってて』
『その間、俺の料理の仕方を良く視て覚えてくれたら良いからさ』
料理で流血の事態をなんとか回避し昼食の準備をする俺の隣で少し残念そうに俺の手元を観察する美人。
昨夜から食事の支度の度に繰り返される件だが、例の「3つの袋」の1つである「胃袋」を掴む努力だとわかっている俺も強くは言えなかった。
ちなみに俺とリュウビが結婚では無く婚約になった理由は、リュウビの中身が見た目とは逆で幼いのと、俺の見た目がまだ子供なので、お互いがもう少し成長するまでは結婚しない方が良いとの婆ちゃんの提案を甘受したからである。
リュウビと今の俺ではある意味ショタの匂いもあるし…
俺はリュウビを「リュウちゃん」リュウビは俺を「カンちゃん」と呼ぶこともその時に決めたのだが、端から見たら新婚のバカップルにしか見えないかもしれない…
リュウビの中身が幼いとは、実は産まれて一年も経っていない事実を昨日聞かされたからである。
金魚のような見た目だったことからも、まだ幼い世間知らずのお子ちゃまだから発言や行動に残念さがにじみ出ていた理由だった。
『カンちゃんのイジワル…』
『私も包丁使いたいし…』
恨めしそうにオレを見ながらそう言う姿は、確かにタイシキョウちゃんが背伸びをして俺にちょっかいを出す姿にも似ていた。
見た目は超絶美人に化けているが、中身はやっぱりお子ちゃまである。
なんとか料理の邪魔をしながらも昼食が出来ると、婆ちゃんが
『お前さんは何か得意なことは無いのか?』
『こんなご時世にわしらと一緒におったら、面倒事に巻き込まれたりもするからの』
『護身術ぐらい出来たら安心なんじゃがの』
と言ってリュウビを心配している様子だった。
確かに婆ちゃんの言ってる事にも一理ある。
実際、面倒事のてんこ盛りで今なのだから。
『私は龍の化身ですから剣術程度は出来ますわ』
なんともアッサリ答えたが、元鯉が剣術って。
『ほぉ~』
そう言って手頃な木の棒をリュウビに渡し
『それで打ち込んでみ』
余裕の構えで言い放つ仙人の婆ちゃん。
龍の化身VS仙人の戦いだが、リュウビが婆ちゃんに敵う道理がないと思った瞬間、見事な踏み込みで一気に婆ちゃんとの距離を詰めるリュウビ。
木の棒が素早く振り下ろされ「あっ」と思ったが、婆ちゃんが居た場所を空振りする。
『なるほどの』
そう言って婆ちゃんが俺の後ろに立っていた。
どうやらリュウビ相手に卑怯にも転移魔法を使い攻撃をかわしたようだ。
『えっ?』
驚くリュウビだが、驚いた顔もまた可愛いかった。
その後、昼食を済ませた婆ちゃんは山賊の宝箱から唯一取り出した石を眺めて何やら考え事をしている。
後片付けを終えた俺とリュウビが婆ちゃんのところに来ると
『さて、行くか』
と考え事などしていなかったのように転移魔法を発動させ昼前に居た街道に戻ったのだが…
転移して直ぐにシュウソウが
『大勢の者がこっちに向かって来ます』
と早速嫌な予感。
面倒事なら勘弁して欲しいけど…
◆◇◇◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇◇◇◆
どうやら何処かの軍が進行中のようで、何本もの旗をなびかせ俺達の方に向かって来る。
やがて、旗には[ユウ]の文字が見えることから、[ユウ州]の軍だとわかった。
行軍の邪魔にならないように俺達が街道の端に立っていると、馬に乗ったちょっと強そうな兵士が馬上から
『お前達はどこから来た?』
と横柄な態度で聞いてくる。
軍人とはこんなものなのか?と初めて見る異世界の軍人に少し興味もあったが、その態度にどう答えたら面倒事にならないか思案していると婆ちゃんが
『ローソン村からじゃ』
と素直に答えていた。
『ワシらはこれからそのローソン村に現れた赤頭巾を討伐に向かうユウ州軍だ。ローソン村はどうなっておるか詳しく説明しろ』
とまた横柄な態度で詰問する兵士に
『そいつらならわしらが倒した。今さらローソン村に行っても何もする事が無いぞ』
とアッサリ答える婆ちゃん。
『なっ!?』
『お前達が赤頭巾を倒しただと?』
驚きの表情で俺達を見回す兵士だが、老婆と子供と女性の3人で倒したと言ってるのだから驚くのも無理は無い。
しかし次の瞬間
『これでな』
と言って婆ちゃんは手の平に小さな炎を出して、魔法を使い倒したことをアピールしてみせた。
『それにじゃ。奴等は赤頭巾なんぞじゃなく、山賊が赤頭巾に成り済ましておったのじゃ』
と真実を告げると
『山賊が…』
『なるほど…』
兵士はそう呟き暫く馬上で思案した後
『導士殿。ここで暫くお待ちくださらぬか?』
先ほどとは口調を改め軍列の後方に馬を走らせて行ってしまった。
婆ちゃんが魔法を使えると知った途端に態度を変える辺りは、導士の存在がこの異世界において貴重な存在だと如実に表している。
暫くすると、先ほどの兵士と一緒に随分立派な鎧を身に付けた兵士がやって来て
俺達の前で馬から下りると
『その方らが賊を倒した導士の一行であるな』
『私はユウ州候エンリュウ様の配下でスウセイと申す』
と自己紹介をしローソン村の様子や賊のこと等を聞いてきた。
一通りの説明をしたところで婆ちゃんが魔法の袋から例の宝箱の中身にあった王冠と剣を取り出して
『山賊から奪った戦利品じゃ。これをお前さんの主に献上しようと思うのじゃがどうじゃ?』
と婆ちゃんが意外な提案をすると、スウセイと名乗った兵士は驚いた表情で王冠と剣を見つめ
『導士殿の申し出に感謝する。出来たらこの先のタクケンに居る我が主に会ってはくださらねか?』
と言って近くの兵士に馬車の用意を指示し、先ほどの横柄な態度の兵士には行軍の中止とローソン村への偵察を命じている。
どうやらこのスウセイと言う兵士はこの軍の大将のような存在らしい。
こうしてスウセイさんに促されるまま馬車に乗り俺達はタクケンに向かうことになったのである。
次回投稿予定 【9月12日】




