平凡に3つの袋
其の22
突然広場に現れた俺達に周りに居た村人達や縛られたままの山賊達も驚いていたが、すぐに婆ちゃんに気付いた村人が近寄って来て
『お帰りなさい導士様』
と話し掛けてきた。
瓦礫などは片付けられていたが、焼け落ちた家々はそのままで未だ復旧には程遠いようだが、2日前よりも村人達の表情は幾分明るいようにも感じられる。
そうした村の様子とは反対に、縛られたままの山賊達は酷い有り様だ。
手足を縛られたままなので、糞尿はその場でタレ流され食事も水だけだったらしく全員が一様に憔悴しきっている。
これも自業自得なのだが、出発前に婆ちゃんが言っていたように死んだ者はいないようである。
婆ちゃんは挨拶してきた村人に村の代表と成り得る人を数人集めるように頼むと
『さて、仕上げをするかの』
と言って俺に山賊達を一列に並ばせた。
村の代表者達が婆ちゃんの前に集まり、2日前に話しをした者もいるようだ。
婆ちゃんは代表者達の前に金貨や銀貨が詰まった袋を並べて
『ここに金がある。提案なんじゃが、この金でこいつらの命をわしに売ってくれんかの』
『肉親を殺されて怨んでいる者もいるじゃろうが、降参した者を殺してはこいつらと同じになると思うんじゃがどうじゃろ』
『もちろんわしなりの罰は与えるつもりじゃ』
と代表者達に提案をしたのだが、代表者達も急な提案にお互いの顔を見るばかりで答えが出る様子は無かった。
そんな代表者達の様子に婆ちゃんは並べていた袋を開けて中身が見えるようにして
『これだけ有れば村の復旧にも役に立つじゃろう。幸い役人はまだ戻って来て無いようじゃから、取り上げられる前に皆で分け与えてもええじゃろうし』
と袋の中身をジャラジャラと音を響かせてみせた。
すると1人の村人が婆ちゃんの前に進み出て
『確かにこれだけ有れば村人達も救われます。このローソン村は導士様達に救って頂いたのですから、導士様の仰る通りにしたいと思います』
と言って他の代表者達を見回すと、一様にウンウンと頷いていた。
賛同が得られたと認識した婆ちゃんは
『そうか。すまないの』
『それとな。道案内で連れ出した山賊なんじゃが…』
『うっかり逃げらてしもうてな。すまんのぉ』
と村の代表者達に礼を述べ、クンヨウには逃げられたと嘘の報告まで怠りない。
「導士の仰る通り」と言ってるぐらいだからこれ以上の詮索は大丈夫であろう。
そうして山賊達に向き直ると
『そういう事じゃ。お前さんらの命はわしが買い取った』
『他人を売り買いしちょったお前さんらに文句を言う奴は、まさかとは思うがおるまいの』
そう冷たく言い放つと、【雷撃】の魔法を地面に向けて放ち山賊達の前に一本の線を引いた。
『この線が運命の別れ道じゃ。これからわしの質問に心して答えるが良いぞ』
と言って俺とシュウソウを呼びこれから行う選別の詳細を話してくれた。
『では1人目の者前へ』
そう言って列の一番前の者を呼ぶと
『名前は?この村では人を殺したか?以前には人を殺したか?』
と同じ質問を山賊31人全員にし、その様子を俺の肩に乗ったシュウソウが嘘発見器の役割で判別し、その結果に応じて俺が線の左右に山賊を振り分けた。
全員に質問が終わると婆ちゃんは正直に答えた者の中で、過去に殺人を犯して無い者達に
『お前さんらに罰を与えるでの』
と言って魔法の袋の中から宝箱に入っていた小ぶりな剣を取り出し気を込め始める。
剣に気が伝わると1人の肩に大きく「賊」の一字を焼き付けた。
その調子で殺人を犯していない8人全員に「賊」の焼き印を付け終わると
『これでお前さん達は元山賊になった訳じゃ』
『この先今回のようなことをせねように肩の焼き印を見て反省せい』
と言って8人の縄を切ってやる。
次に正直に過去の殺人を認めた者達に
『お前さんらにはちいとキツイ罰を与えるでの』
と言って剣を1人目の男の手に当てると、両手の親指を切り取ってしまった。
当然指を切られた男は痛みの余り叫び声を上げたが
『お前さんは人の人生を奪ったのじゃ。わしはお前さんに不自由を与えて罰とする』
『自分の不自由さを噛み締めて生きるとええ』
そう厳しい口調で言い放ち次の男の指も切り取っていった。
そうして5人の指を切り取ってから質問に嘘を答えた残りの者達に歩み寄り
『お前さんらの罰は覚悟せいよ』
と震える男達を凄むと、無言のまま男の目線に剣を一閃。
両目から血が吹き出し叫び苦しむ男を無視するかのように2人目の男の前に進みまた剣を一閃にする。
こうなっては3人目以降は逃げようとする者が続出したが、手足を縛られていては逃げることも叶わず、18人全員の視力を奪い山賊達を解放してやった。
◆◇◇◇◇◆◇◇◇◇◆◇◇◇◇◆
なんだか婆ちゃんがちょっと怖いと感じたが、シュウソウの一言で考えを改めた。
シュウソウ曰く
『ああでもしなければ、山賊の中にはまた山賊になり同じ事を繰り返す者も出たでしょう』
『それに村人の中には肉親を殺されて怨んでいる者もいるでしょうし。しかし無力の村人が両手の親指を切り落とされ満足に物を掴めない者や、視力を失ってまさに手探りで歩む者を殺したり出来ますかね?』
『誰も死なないで収めるには多少は厳しく罰する必要もあった訳ですね』
ポンコツ推理の雀がなんとも心理を突いた説明に驚愕していると、ずっと俺達の様子を見守っていた美女が俺の隣に来て
『人とは怖い生き物ですね』
と呟き俺の袖口をギュッと摘まんでいた。
元は鯉なのだからこのような惨状は初めてなのだろう。
そういう俺自身も平和な前の世界で平凡極まりない暮らしをしていた訳だからこのような惨状は初めてだった。
俺達が村の広場でたたずんでいると、村のあちこちから何やらこちらを向いて話す声が聞こえてきた。
その声の一方からこっちに走って来る少女と男性の姿が。
先日助けたコウちゃんとそのお兄さんだった。
『この前は助けてくれてありがとう』
笑顔で礼を言うコウちゃんと耳まで赤くしながら俺の隣の美女をチラ見するお兄さん。
そう言えばコウちゃんの両親も山賊に殺されたのだった。
コウちゃん達は婆ちゃんの罰をどう捉えたのだろう?
俺が先ほどのシュウソウの説明も踏まえて思い切って聞いて見ると
『導士様にはスッキリしましたよ。両親を殺されて怨んではいますが、さすがに私達で仇討ちも出来ませんでしたから』
とお兄さんがアッサリと答えてくれて、やっぱりそういうものかと納得させられた。
コウちゃん達は婆ちゃんから貰ったお金を元に隣村の親戚の家に行くことになったと教えてくれ、少しは役に立てた様で安心したところでお兄さんが
『あの…そちらの美しい方は…どちらのお姫様ですか?』
と俺の隣の美女をお姫様呼ばわりしてきた。
性格が大変残念だとは見た目からは想像出来ないのだから仕方ないが、お姫様とは…
俺が何と紹介しようか考えていると
『私はこの者達の連れの武人の許嫁ですわ』
『姫と言えば姫ですね』
と嘘八百をシレ~っと言い放ちやがった。
お兄さんは「許嫁」に敏感に反応したらしく
『そうでしたか…』
と残念そうに囁くと、コウちゃんと頭を下げて皆の方へ戻って行った。
その後、コウちゃん達が戻った方向から
『えぇぇぇ~っ!』
と驚くような野太い声が聞こえたがスルーしておこう。
婆ちゃんが村の代表者の人達との話しを終えて戻って来ると
『赤頭巾の奴等はもう少し南の方の町に行けばいるらしいの』
と当初の目的である「赤頭巾」の情報収集をしてきたようだ。
色々あったが、この村でやることも終わり町に向かおうと村の中を進んでいると
『カンや。腹が減らねか?』
『久しぶりの人里じゃから何か食ってみるか?』
婆ちゃんから外食のお誘いだ。
転生して初めての外食に嬉しさが込み上げていると
『はいっ』
と俺の隣で元気な返事が。
なんであんたが答えるかな?とジト目で俺が美女を見ると
『エヘヘ』
と笑顔の美女の破壊力に俺の反撃の意思は根元からポキッとへし折られてしまった。
ちょうど街道沿いの店が開いていたので俺達は店に入った。
喫茶店と定食屋を一緒にしたような庶民的な店で、色々なメニューが壁に張ってあった。
完全には文字を把握出来ない俺は「麺」に似た文字を注文し、婆ちゃんと美女は野菜炒め定食のようなモノを注文していたが、ちゃっかりデザートも注文する辺りは女同士気が合ってる様子だ。
注文を待つ間に婆ちゃんが
『お前さんは今朝、カンの寝所で何をしていたのじゃ?』
と美女に向かって多少ニヤついた顔で今朝の一件の真相を問いただした。
『はい。私は「昇龍の滝」に挑む前に母から云われた事がありまして、それを実践しようかとしておりました』
と明確な理由があるらしい。
『ほぉ~。それで何と云われたのじゃ?』
婆ちゃんが空かさず理由とやらを聞くと
『母には
「龍になり人間の姿に化けられるようになれば、好いた殿方も出来るでしょう。その時は3つの袋を掴まえなさい」
と教わりました』
ん?
結婚式でのお約束で聞いたような…
美女の説明に
『ほぉ~。その3つの袋とはなんじゃ?』
婆ちゃんが問うと
『はい。「胃袋」「お袋」「キン◯マ袋」です』
お約束の中でもオヤジバージョンの方を客が少ないとは言え飲食店の店内で大きな声でハッキリと仰りました。
残念さもここに極まりな発言に、店員の女中さんも「ギョ」っとした表情だった。
『ハアッハッハッハァァ~』
『なんじゃそれは』
涙目で笑い転げながら婆ちゃんが改めて問うと
『私の母は博識で、人間の生活にも精通しております』
『そんな母が云うことですから恐らく大切なことだと思いますわ』
『しかしながら、私も元は鯉。「胃袋」とは「食」だと思い料理をしようと昨夜お手伝いを試みるも、元は鯉の私では初めて見る料理に手も足もでませんでした。ならばと後片付けを試みましたが、これも初めてが故に難しゅうございました』
『次の「お袋」とは母上様のことと思いましたが、どうやら母上様はいないご様子でしたので、母上様の母上様であられるお婆様と親密に成るべく努力しましたが、これも1日では難しゅうございました』
『最後の「キン◯マ袋」ですが、これだけは私にはわからなかったので、母の言い付け通りに「殿方の寝所で添い寝をすれば分かる」を実践し今朝のようなことになりました』
と美女がハキハキと少しドヤ顔で残念な話しをする様に婆ちゃんは椅子から転げ落ちそうに大笑いをし、シュウソウまでもケタケタと笑っていた。
ただ俺は美女が話している内容は残念極まり無かったのだが、何か一生懸命さが伝わりちょっと微笑ましく思えていた。
婆ちゃんが大爆笑をしていると、苦笑いをした女中さんが注文の品を運んできてくれて、俺が注文した「麺」は野菜が乗ったタンメンのような麺だった。
久しぶりのラーメンモドキに興奮気味な俺は婆ちゃん達のことなど忘れて一気に掻き込むと、味は塩味のラーメンそのものだった。
『美味い!』
思わず口から出た感想に興味を持った美女が俺の器を覗き込む。
元鯉ならラーメンも食べたことがあるはずも無いだろうと、器を美女の前に差し出すとツルツルと麺をすすり
『美味しいですね』
と破壊力抜群の笑顔で俺を見つめてくる。
見つめられた俺は逆に直視出来なくて、視線を反らせて器を奪い無言で残りのラーメンを完食し、うっかりシュウソウの分まで食べてしまったのだった。
拗ねてるシュウソウには婆ちゃんが少しのご飯と野菜を分け与え許して貰った。
久しぶりのラーメンに大満足な俺とデザートの胡麻団子を完食した美女がそろそろ店を出るのかと思っていると
『改めてお前さんはこれからどうするのじゃ?』
婆ちゃんが美女に問うと
『私はこれから先、殿の助けになるべく、ご一緒させてください』
とハッキリ言い切った。
『お前さんが言う「殿」とはカンなんじゃぞ』
婆ちゃんが誤解の無いように念を押すと
『わかっております。姿は違えども、私を助けてくれたのは間違いなくカン殿です』
『ですから、私はカン殿の妻になりとうございます』
超絶美人からの逆プロポーズに
『えっ?』
『だって』
『俺…』
言葉にならない俺。
前の世界ならアイドルか女優のような美女に求婚され、女性に対する免疫力が極めて乏しい俺(見た目中学生。中身34歳)は絶賛混乱中だった。
『そうか。カンや。美人の嫁なら文句はあるまい』
アッサリ了承を促す婆ちゃんだが未だ答えに困る俺に
『なんじゃ?不満か?確かに性格には問題も有りそうじゃが、嫌なのか?』
と言うなり
『問題とか無いですから!私の性格のどこに問題があると言います!?』
とやっぱり残念感が漂ったのだが
『名前。名前も知らないし…』
俺がやっとの思いで言葉にすると
『カン殿が良い名を付けてください』
とまた笑顔で答える。
この笑顔の破壊力には何の抵抗も無意味だった。
『美人で…』
『龍だから…』
『「ビリュウ」は?』
安易過ぎるかと思ったが美女はすっくと立ち上がり
『私のどこが微乳なんですの?』
『この胸を今朝触りましたよね?』
と何故か両手で推定Dの双丘を鷲掴みにしながらご立腹のご様子。
その姿は最早お約束の美女が台無しの残念そのものだった。
でもなんでご立腹?
『あっ』
この残念な美女はやっちまってやがる。
「ビリュウ」と「ビニュウ」を聞き間違えたのだろう。
俺は慌てて
『「リュウビ」でどうでしょう』
と訂正すると
『「リュウビ」ね。龍が美しいからかしら』
となんとかお気に召したご様子だった。
『わたくし「リュウビ」は死ぬまで殿のお側を離れません』
結婚の宣誓のようなことを定食屋で言い放つ辺りが残念だったが、それもリュウビの一生懸命さの表れだろうと解釈し
『よろしくな。リュウビ』
そう言って店を出たのであった。
空を飛びながらなんだか妙な成り行きで結婚する運びになった俺達を祝福するかのようなシュウソウ。
その後ろにあった定食屋の看板には
【桃園】
とあったのである。
次回投稿予定 【9月6日】
今回で第二章は終わりとなります。
22話はかなりの文量で2話に別けようかとも考えましたが、書いた勢いのまま投稿しました。
第一章に引き続き沢山の方々に読んで頂きましてありがとうございます。
かなりネタバレですが、「赤頭巾」は「黄巾賊」となります。
こんな感じで「ローソン村」は「楼桑村」となり、なんとなく三国志の世界観を私なりに混ぜながら今後も試行錯誤を繰り返すと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
次章から「赤頭巾」との戦いも始まりますが、題名にあるように「平凡」ですから期待を裏切った際はご容赦ください。




