平凡に唐揚げ
其の20
『しかし、間の悪い白蛇じゃな』
婆ちゃんが美女の話しを聞いて笑いながら言い放つ。
やはり、龍とは認めぬようで未だ「白蛇」呼ばわりだ。
『もう白蛇で良いです…』
力無く美女が投げ遣りに言うが、ある意味仕方ないのかもしれない。
この元鯉で現在自称龍の美女が言うには、鯉の中から稀に魔力が高い鯉が産まれ、「昇龍の滝」に挑み最上段まで一気に昇れた鯉は龍に成れるそうだ。
そしてこの美女も「昇龍の滝」を一気に昇れたので龍には成れたのだが、何故見た目が「白蛇」にしか見えないほど小さいかと言うと、本来なら滝の下で滝を一気に昇れるようになるまで数年から十数年を掛けた後に成長した鯉が龍へと成るのが通常らしが、その成長の期間が無いまま龍に成った為、見た目が「白蛇」のようにまだ小さいのだと説明してくれた。
昨日の一件のせいでなんとも間抜けなタイミングで昇龍してしまった訳である。
まぁ元々岩の隙間から出られなくなった自業自得な面もあるのだから、やはり残念な龍は「白蛇」呼ばわりされても仕方ないようだ。
『それでじゃ。改めてお前さんはどうするのじゃ?』
婆ちゃんが美女に問うと、上目遣いで困ったように俺を見つめた後に
『少し考えさせてください』
とだけ言って家の奥へ行ってしまった。
その後ろ姿に俺は同情にも似た少し可哀想な感情を抱いたのであった。
俺がそんな気分でいると
『カンや。森で鶏を狩ってきておくれ』
婆ちゃんから狩りの指示が出された。
恐らくクンヨウ達に唐揚げの作り方を教える為だ。
1刻ばかり掛かったが鶏を捕まえた俺が家に戻ると、魔法障壁から出たクンヨウとチンゲンサイの3人が婆ちゃんと唐揚げの準備をしていた。
もちろんチンゲンサイの3人は縛ってあった縄も解かれた姿だ。
俺は鶏をクンヨウに渡し、肉に捌くように指示を出し、チンゲンサイの3人には漬け込み用のタレの作り方を教えた。
クンヨウが捌いた肉を持って来たので、肉の筋の切り方を教えながら、この鶏は味が良いのでそのまま揚げたが、商売で使う鶏肉にはタレに漬け込んだ方が良いだろうと提案した。
クンヨウ達が実際に漬け込んだ肉を寝かせている間に俺は必殺技のマヨネーズを作った。
1刻ほど寝かせ肉を揚げさせて揚げたてを食べさせたところクンヨウとチンゲンサイ達は絶賛してくれた。
そこに外で何かやってた婆ちゃんがシュウソウと来てクンヨウ達が揚げた唐揚げを食べさせたところ、いつもと違った味に大満足の様子だ。
婆ちゃんは年齢の割に濃い目の味付けの方が好みだったようなので、マヨネーズを奨めてみると、まるで取り付かれたように一心不乱に唐揚げを食べている。
その姿にクンヨウ達にもマヨネーズを奨めたら婆ちゃんと同じ状態になり、唐揚げはあっという間に無くなってしまった。
『ミキオ殿!素晴らしい!素晴らしい味です!』
クンヨウの大絶賛な様子からこの異世界でも「マヨ最強説」は当てはまるようだ。
残りの肉を揚げるようにクンヨウ達に指示を出して俺は家の奥に引き籠った美女を呼びに行った。
『早くしないと唐揚げが無くなりますよ』
俺の呼び掛けに力無く振り向いた美女だったが、昨夜の唐揚げが忘れられなかったのか「ハッ」っとした顔付きで皆の元に行くと揚げたての唐揚げを口に運んで火傷しそになる。
やはり残念さだけは変わらない美女である。
その後は昨日と味が違った唐揚げを無言で食べていたが、クンヨウ達がマヨネーズを付けているのを真似して一口食べた瞬間俺をじっと見つめて
『これはあなたが作ったの?』
と聞いてきたので
『ああ。俺が作ったマヨネーズだよ』
と答えると
『そう』
とだけ言って一心不乱にマヨ付け唐揚げを食べていた。
結局、鶏一匹分の肉は唐揚げを揚げるのが間に合わない勢いで皆に食べ尽くされたのだった。
皆が満足そうな顔なのを確認してからクンヨウに唐揚げのレシピと注意点などを書き取るように指示を出した時に婆ちゃんが
『クンヨウや。お前さん昨日[ケイ州]に行くと言っていたが、[ケイ州]で商売をするつもりか?』
と聞いてきた。
『はい。そのつもりです』
とクンヨウが答えると婆ちゃんは
『そうか。[ケイ州]か…』
と呟きながら外に出て行ってしまった。
その後クンヨウ達が後片付けを始めると美女が
『私がやりますので任せてください』
と言ってきたが、表情はずいぶんと明るい表情だったので
『それじゃお願いします』
とだけ言って婆ちゃんがいる外にクンヨウ達を連れて出ると婆ちゃんはニコニコしながら
『これで商売を始めるが良い』
と言って小さな袋を一つ差し出し、クンヨウが中身を確認すると金貨が数枚入っていた。
クンヨウが「ハッ」とした表情で婆ちゃんを見ると
『勘違いするなよ。これは貸すのじゃ。』
『そのうちわしにも噂が届くぐらい商売で成功したら利子をたらふく付けて返すのじゃ』
と少し照れたように言う。
『必ずお返し致しますので、有り難くお借りします』
とクンヨウが深々と頭を下げると、チンゲンサイの3人も真似て頭を下げた。
『それじゃ、準備の必要はあるか?』
『山賊のアジトに忘れ物は無いかの?』
そう言う婆ちゃんに
『あそこには何もございません』
と準備はもう大丈夫とばかりにクンヨウが答える。
『そうか。それじゃ少しばかり[ケイ州]の近くに送ってやろうかの』
と言って転移魔法を発動させたのだった。
次回投稿予定 【8月28日】




