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異世界勇者は公務がめんどくさい。

 




「くそー、疲れた」


「ご苦労だった、田中。ご飯にするか?風呂にするか?それともデリヘル呼ぶか?」


「デリヘルいんの!?!?」


 異世界転移して一週間。三日間は勇者の間でゆっくり休ませて貰えたが、四日目からは公務が始まった。

 公務初日は王都を馬車で外旋し国民に笑顔で手を振り、お年寄りや子供達に握手をしまくり、お言葉を述べた。二日目は七五三並みに着飾って何枚も何枚も写真を撮らされ、三日目は王族貴族とのご挨拶、そして今日は騎士団と兵団の見学と叱咤激励の挨拶をした。

 なんというか、精神的にクるものがある。出会う人全てが俺を神の如く崇め、涙を流す程喜ぶのだ。なんにもしてない俺、これからも特になんもする予定の無い俺は苦笑いを禁じ得なかった。特に今日の騎士達は俺の直属の部下になる事から熱烈な歓迎を受けむさ苦しい事極まりない、とにかく全然悠々自適異世界ニートライフを送れていなかったのだった!前回のあらすじおわり。


「デリヘルを呼ぶ金は国が負担するから安心しろ。そこまでケチではない」


「血税でデリヘル呼ぶってなんか嫌なんだけど…」


 国民達はあんなに俺が来た事を喜んでいるのに、この安心おじさんはつまらなさそうになんだかんだ世話を焼いてくれている。

 召喚初日、身ぐるみ洗われ『きれいなたなかりゅうた』になった後王様と対面したのだが、なんとこの安心おじさんを俺の世話係に任命したのだった。おっさんの話通り、公務さえこなせば後は好きにしていい、だだ国民の見本にならない事はバレないように……という事だった。それでいいのか、王様よ。


 俺の存在は国民の精神安定剤、平和だという目に見える証拠を見せつけておきたいという程度のもののようだ。因みに国の名前は長ったらしくて覚えられなかった。忘れた。王様の顔は、よくある王様の顔をイメージしてくれたらいい。白い長い髭が綿飴のようだった。前回のあらすじその二おわり。


「そんなことより、おっさん」


「おっさんと呼ぶな。レイモンドだ、田中」


「じゃあおっさんも田中って呼ぶな。竜太様、勇者様、だろ。お付きなんだから」


「ふん、田中。それで、何だ」


「………おっさん。公務って本当に手を振って、握手して、挨拶するだけなの?」


「そうだと言った筈だが。まあ、署名や何か書いてもらう事くらいはあるかもしれんが。勇者の直筆というだけで有り難がられるからな。…外旋やパーティと場所が変われば疲労度はそれは異なるだろうが…特に特殊な事は無い筈だ」


 前の勇者もそのくらいだ、と思い出し乍ら答えてくれた。

 ………成る程、問題だ。


「…つまらない」


「なんだ、やっぱりデリヘル呼びたいのか?」


「ちっがーう!!!デリヘルから離れろ!!!公務ばっかりで全然ワクワクしないって言ってんの!冒険は?バトルは?可愛い巨乳エルフは??それが何も無いなんてライトノベルとして駄作だと思わない!?!?」


「巨乳のエルフか…そんな女、風俗にいたかな」


「そこから離れろって!!!!」


 王宮の廊下で息を切らして叫んでいると、通りかかった使用人達が不思議そうにこちらをチラ見してきた。不審者扱いされないだけ、勇者様様である。これが特典だとしたら、悲しすぎる。


「そんなに冒険がしたいなら、森に行って魔物退治でもしてみるか?戦える力は、あっても損は無いからな。無くてもいいが」


 戦う力の無い勇者って致命的だろ。


「魔物かぁ…行ってもいいなら、俺行ってみたい!!」


「…分かった」


 異世界に来て一週間。やっとファンタジーっぽい事が出来るようである。俺の表情が明るくなったのを見たおっさんは、はあ、と小さく溜息を吐いた。なんだ文句でもあるのか。


「ここ四日は召喚されたばかりで忙しかったからな、一週間公務は休みになっている。その間に田中のやりたい事をやろう」


 四日働いて一週間休み。仕事内容が(精神的に)キツいに違いはないが、これだけ休めるのは破格である。この間にパーティメンバーを探したり、街角で可愛い女の子とぶつかって恋に落ちたりしてみよう。ぐふふ。


「じゃあ明日から早速冒険者ギルドに登録して、武器屋に行こう!やっぱり剣使いたいな〜。なあ、剣くらい買っても良いんだろ?」


「何を言っているんだ?魔王もマタイも何もないのに冒険者ギルドなんか無用だろう。とうの昔に解散してるぞ。あとお前の武器は買わずとも既に聖剣がある、この世で一番切れ味が良く攻撃力も補正効果もすごいやつだ、良かったな」


「え……?俺って聖剣使えるの?いっこも武器持ってないのに、いきなり?」


「安心しろ。勇者一年生でもぐっと握ってズバーンとやればその辺の魔物は散り一つ残らない」


「冒険者ギルド…ないの?」


「魔王が存在していた頃はあったがな。今は魔物退治専門の狩猟の会、レンジャーが居るくらいだな。お前の思い描いているのは、レンジャーに近いかもな」


 狩猟の会はそれぞれ職業を持つ大人達で形成される警ら隊、自治体組織だそうだ。自分達の生活区域で魔物が現れた場合、それを駆除をするのが目的。

 レンジャーは魔物退治を生業に各地を転々としている者達の事だ。レンジャーは狩猟の会で手に負えない魔物の退治や、警らを肩代わりするなどして生計を立てている。

 冒険者と違うのは、ダンジョンとか別に無い、悪の組織と戦っている訳じゃない、という所だ。なんというか、猪や熊を退治する平たい顔のじいさんと防護服を着た害獣駆除業者が頭に浮かんできた。

 思ってたのとチガウううう!!!!


 あまり文句を言っておっさんの気が変わっても仕方がないので、タノシミニシテルネ!と言って勇者の間に引っ込んだ。着心地抜群の勇者の寝巻きに着替え、ふっかふかの勇者のベッドに寝転び、勇者の寝覚まし時計を設定する。そして勇者の燭台を消し俺は眠りについたのだった。


「ご飯と風呂………。」





『異世界勇者は公務がめんどくさい。』

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