ヒカリヘ、6【ヒューマンちょい長】
「新郎新婦の入場です」
軽快な音が鳴り響く。目の前で開けられる扉。私は光が一杯に敷き詰められた空間に足を踏み入れる。あたたかい拍手に包まれて、この式を終えてやっと、私は彼女に近づく。
結婚式。一歩一歩踏みしめるように進む中、かおりさんはやっぱりニコニコしながらこっちを見ている。いつの間にか一人で立てるようになった周くんも、こっちを見ている。私はまっすぐにこの道を進む。
幸せです。大切な人たちに囲まれて。
幸せです。仕事も続けられて。
幸せです。この日を迎えられて。
私に
私に、はたしてこの場は、本当にふさわしいのでしょうか。
シャワーのようにふりそそぐ賞賛の声。鳴り止まない拍手。
どこか違和感がある。何かが違う。
着ているものは合ってる。真っ白なウエディングドレスだ。化粧も、髪型も、アクセサリーも間違ってない。旦那はもちろん、この人だ。なにもかも正しくて、なにもかも完璧なはず。なのに。
はっとする。ああそうか。
式が終わって披露宴に向かう。光の中は、何故こんなにもいき苦しいのだろう。きっと隠せないからに違いない。どんなしぐさも、表情も、すべて晒そうというのだから落ち着かない。笑顔が、張り付いて、癒えない。笑っていたはずが、笑わないといけなくなっている。
助けて。
助けて、おりすん。
シャッターが切られる。フラッシュが眼前に広がって立ちくらむ。目がおかしい。頭が痛い。頭が痛い。めまいがする。ここは
私のいるべき場所ではない。
ふらふらと席を離れる。フラッシュは減ろうとも、この格好だ。どこへ行ったって光が追いかけてくる。今は私自身が、光をまとってしまっている。
たくさんの視線を感じる。たくさんの。
場内がざわつく。予定にない花嫁の行動に、皆が皆注目する。
おりすん。
ひとつの、テーブルの前で止まった。席に掲示された名札を手に取る。
ざわめく。ひとつひとつは確かに言葉として成り立っているはずなのに、そのすべてが入り混じる。一体私は何がしたいんだろう。
そのときだ。ポンと肩に手を置かれる。振り向くと旦那が立っていた。眼前が揺らぐ。
名札を抱きしめた、そのときだった。
「リンさん」
声が聞こえた。はっとして見やる。隣のテーブルからかけられた声。
目立つことには慣れていないはずだ。視線の群れがかおりさんの元に移動する。かおりさんは困ったように笑うと、再び向き直った。わざわざ立ち上がっての発言は、彼女にとってリスクでしかなかった。けれどもあえてそうしたのは、私に対して払う敬意だったのかもしれない。
かおりさんはじっと見つめた後「大丈夫ですよ」と言った。
「大丈夫です。ちゃんと届いています」
その瞬間だった。視界がゆがむ。あっという間にあふれ出した涙はキレイに施された化粧の上を走り、真っ白なドレスへと落ちていった。次々、次々と、想いがあふれ出す。