かわいいあの子~ヤミ②~【禁断恋愛】
「・・・・・・またフラれたの?」
「乙女のヒミツー」
「やめなよもう」
リピート&リピート。まるで進歩の見られない私と、ラミは飽きることなく同じやりとりをくり返す。また一つため息。また一つ、ラミの幸せが遠のく。
「ここにいれば」
思わず笑ってしまった。感情を伴わない乾いた笑いは、ただの反射。
大事な戦闘の真っ最中だった。あと一発で仕留められなければ、残る火タイプでは相性が悪い。
「前に僕にお願いしたこと覚えてる?」
待って。息を詰めて見つめるゲージ。相手のものがゼロになった。ホッと胸をなで下ろすと同時に、ラミの質問にイエスを返す。脳みその浅いところでのやりとり。
だからそれは完全な不意打ちだった。
「僕を見て」
唇に触れたのは唇。
理解の及ばない言動に、たった今訪れたはずの勝利が遠のく。
火でも水でも草でも雷でもない。攻撃された訳でもない。
ただただ圧倒的なリアル。
「ラミ?」
頭をなでられる。にっこり笑うその目が、
次の瞬間、私の知っているラミのものではなくなる。
高い笑い声がした。ラミは私を抱きしめると「ああああかわいい」と言った。
ゾッとする。背筋を這い上がる何か。
「・・・・・・ねぇ知ってる? 『かわいい』は手に入ると思ったもの『キレイ』は手に入らないと思ったものに対して使うんだって」
その両手で頬を挟まれる。間近でのぞき込んだ目。
「これが『かわいい』か。アイツらヤミの事、こんな目で見てたのか死ねばいいのに」
ラミが、おかしい。慌ててその胸に手をつくと払われた。
今の今まで見たことがない。ラミはそんな乱暴したことない。
唇を塞がれる。ついさっき触れたのと同じ感触。信じられない力。身動き一つとれない。その後身体を離すと、ラミはうっとりとした目で言った。
「仕方ないよ。元々一つだったものを二つに分けたんだ。だから悪いのは神サマ。僕たちは何も間違ってない。元に戻るだけだ」
その目は「私の知っているラミのものではない」だけで、
知ってる。それは女を欲するときの男の目だ。
「ラミ」
もう一度その胸に手をつく。
つき続けたため息。たくさん逃げていった幸せ。
こんなの間違ってる。私のせいでラミが
「幸せ? 何それ」
ラミはついた手をつかむと、手の甲をなめた「甘いなぁ。タバコが邪魔するけどその奥が甘い」その目が再びこっちを向く。
「心配しなくていいよ。幸せなんて逃げようとどうだっていい。僕は」
震える。この人は、誰だ。
「ヤミさえいればそれでいい」
目を見開く。脳裏をかすめたのはラミの出て行った日のこと。昨日昏い便器を抱え込みながら何度も呼んだのはその名だったこと。
「ヤミ」
震える。私の肩をなでさすると、のぞき込むようにしてラミはささやいた。
「ヤミが好きな『あの子』名前なんて言ったっけ」
く、と喉が引き攣れる。出ない声。ラミが笑った。
「大丈夫。怖くないよ。もう誰にもヤミを傷つけさせない。始めからこうしていれば良かったんだ」
口を開こうとすると指先を当てられた。
「まだ僕のターン」
その手が引き寄せる。
うり二つ。性別の異なる分身がそこにいた。
「今日のこと、描いてね。僕にはとても・・・・・・書けやしない」
息をのむ。もれたのはうめき声。
思い通りになるのがいい。分かりやすいのがいい。ゲームは、決められたルールは裏切らない。でも一方で、それだけじゃつまらない。その時だけはスカッとするが、後に何も残らない。だから必要なのはイレギュラー。ルールの脇にはみ出た存在。
ラミは、笑った。
私のかわいいあの子と同じように目をキラキラさせて。
あ。
これがゼロからイチになる瞬間のエネルギー。何かが生まれる瞬間。
〈幸せ? 何それ〉
背中から堕ちていく感覚。覆ったのは、何故か底抜けの充足感。
それもそうだと思った。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
見合う時間を提供できたことを願うばかりです。
よいお年を。




