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世界はいい色をしている  作者: 速水詩穂
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かわいいこの子~ラミ②~【禁断恋愛】




 五月。すっかり寒さからあたたかさベースに様変わりした季節の日差しは、カーテンの隙間からでも充分明るい。むしろ動きたくない僕にはこの位が丁度いいと感じる程だ。

 オフホワイトに水彩タッチの模様をあしらったワンピースに、お気に入りのカーディガンを羽織ったヤミは、小脇につばの広い帽子をはさんだ状態でゲームにのめり込んでいる。

「いい加減座ったら?」

 テーブルに肘をついて前のめりになったままの姿勢は膝立ち。

 まるで落ち着かない。生返事をしながら重心を下げると、やっと腰を落ち着ける。傍にペットボトルから移しただけのお茶を出すが、その目は画面から離れない「ありがと」とだけ返ってくる。

 僕はその向かいに座ると頬杖をついた。ため息一つ、頭をかきむしる。

 ラベンダー。

 白の洋服に透けない下着の色を教えてくれたのは確か前の前の前の女の子だった。ベージュは置いておくとして、白は逆効果、黒はかえって目立たない。中でも紫は万能なのだと。ホラ、と言って白い服に当てて見せてもらった時驚いたのを覚えている。

 相変わらずゲームに夢中なヤミは気づいていない。

 下着はおろか、日に焼けることのない部分の肌まで大分深く見えていたことを。

「・・・・・・そんなに楽しい?」

「うん」

 ライジングだった。ふぅん、と言うと後ろ手をつく。胸の谷間が少しだけ遠のいた。

「前にさ、何でそのエイリアンみたいの使い続けるのか聞いたじゃん」

「うん」

「それで、人の心に残って何になるの?」

「何にもならないよ」

「何にもならないんかーい」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「もう一回教えて。勝つことだけが目的じゃないってその時言ってたこと」

 ヤミの目が一瞬こっちを向いた。その後すぐまた元に戻る。口だけがオートで動く。

「得意なタイプ、苦手なタイプがあると、大抵一発で終わっちゃうの。消費されちゃうの。でも受けるダメージは小さくなくても、一回で死なないっていうのは、相手にとってすごいストレスになるの。ラミの言ってた通り『次』のことを考えたら、できる限りノーダメージで進みたいじゃない? でもこの子だけはそれを許さない。必ず爪痕を残してくれる」

 そのまなざしに少しだけ悲しみが混じる。

「・・・・・・前に通信交換したことあるの。その相手が言ってた『コイツだけは一発で倒せないからムカつく』って。結局倒されることに変わりはないんだけど、そのストレスってある種の執着なんだよね。良くも悪くもその子のことを考える時間が発生する。その人から時間を奪う。それが快感なの」

 結局殺される。ヤミのお気に入りを踏み台にしてレベルを上げられる。

 紫のエイリアンは何度殺されても次の瞬間には同じ格好で敵と対峙する。すさまじい攻撃を受けても、ギリギリ死なない。死ねない。

 ヤミは分かってる。それがどれだけ残酷なことかを。分かっていて、愛でる。あなたが大切だと。類友。どれだけ傷ついても死ねないヤミ。

「・・・・・・またフラれたの?」

「乙女のヒミツー」

「やめなよもう」

 どう考えたってラベンダー以上にヤミに似合う色なんてない。それが分かっている以上、それほど無駄なことはなかった。

 立ち上がる。小さなテーブル一つなんて、距離でも何でもない。

 僕は少しだけあのエイリアンをうらやましいと思った。少なくとも三ターン終えれば一度は死ねる。僕はどんなすさまじい間違いを犯しても、死ねない。

「ここにいれば」

 はは、とヤミが笑った。まだ画面から目を離さない。タバコのニオイがした。

「前に僕にお願いしたこと覚えてる?」

「んー?」

「『大丈夫だから、見てて』『今日のこと書いてね』」

「言ったね」

「だから今度は僕のターンだ」

 振り向く。その唇にキスをする。

「『僕を見て』」

 僕は、僕のターンを終えても死ねない。それでも

 爪痕を残さないよりはずっといいよね。

「ラミ?」

 完全に不意打ちのヤミは戸惑うも何も困惑するばかりだ。その頭をなでる。

 にっこり笑いかけると、困惑したままその口元だけ引き上げられた。

 まだ僕のターン。

 その頭を引き寄せる。驚いてついた手を払う。抱きしめる。

 混乱してもがくヤミの唇を塞ぐ。うるさい。もっと深く口づける。

 しばらくして息が続かなくなると、何か言われるより先に口にする。

「『今日のこと、描いてね』」

〈良くも悪くもその子のことを考える時間が発生する。その人から時間を奪う。それが〉

 にっこり笑う。僕にはとても書けやしない。こんな鮮やかな色味。

 今なら紫のエイリアンと友達になれる気がした。





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