かわいいこの子~ラミ①~【禁断恋愛】
かわいいこの子 ~ラミ~
ヤミの声がした。
〈ねぇラミ、この子知ってる?〉
見せられた画面。そこにいたのは「宝石の目をした紫色のエイリアン」僕は首をふると「何それ」と言った。
ヤミのはまっている育成バトルゲームのキャラクター。そもそもゲームをしない僕が知るはずない。
〈かわいいでしょ? お気に入りなの〉
手元に画面を戻すと、目元をほころばせながら言う。僕はヤミの「かわいい」の基準が分からない。
〈でもかわいいだけじゃないんだよ? この子弱点がないの。火は水に弱いみたいに『効果はバツグンだ!』がないの。元々能力値が高いワケじゃないから、ちゃんとダメージは受けるんだけどね。大体もって三ターンかな〉
「エメラルド」と名のつく緑色のソフト。どうやらその中で飼っているペットのようだ。
ぼんやりした頭で考える。もって三ターンって・・・・・・じゃあこっちは攻撃できて二回な訳で、一撃で仕留められるような力もないなら、ギリ勝っても次戦えないじゃん。もうあと一回ダメージ受けたらダメなんでしょ? 早いの? そいつ。
〈遅い〉
次のターン先制されて終わりじゃん。何それ全然使えない。
思ったままに伝えると、ヤミはむずがるような顔をした。
〈違う。そうじゃないの〉
何がだ。目的は殺傷だろ? 殺されるより先に殺す力がなくて、何のためにいるんだよ。
〈違う〉
ヤミは首を振り続ける。かわいいお気に入りを否定されるのが我慢ならない。僕は僕で相応のリターンを提供できないくせにヤミに愛でられる生き物の存在が我慢ならない。
〈目的は勝つことだけじゃない〉
思わず顔を上げた。画面上の主人公も驚きの発言だった。
「かわいい」子の収集が目的とか? 先進まなきゃそもそも出会えないんだから、どっちにしても勝たなきゃダメでしょ。
〈だから目的が勝つことだけじゃないってだけで、勝たないとは言ってない。それに収集目的でもない〉
まっすぐ合う目。たかだかゲーム一つに、ヤミは真剣だった。
〈私は、人の心に残りたい〉
まどろみ。既に冴えた頭。ゆっくり目を開けると、カーテンの上部から光が差し込んでいた。
まだ慣れない。一人暮らしを始めて三ヶ月。無防備に目覚めると自分の居場所が分からなくなる。
ヤミがいない。それだけで狂う座標軸。だから休みの日はギリギリまで起きたくない。
身体を起こすと洗面所に向かう。テーブルの上に置いてあるゲーム機。刺さっているのは緑色のソフト。結局二三度やっただけでよくなってしまった。それでもそこに出しておくだけの価値はある。
インターホンが鳴った。
「え、今起きたの?」
もう十時だけど。といいながら部屋に入ってきたヤミは、即行でテーブルの上にあるゲームの電源をオンにすると、進捗具合を確認する。眉間に寄るシワ。前回と何ら変わらない立ち位置に文句を垂れる。本当にもう、このエサに対してのヤミの食いつきはバツグンだ。どこにいてもちゃんと戻って来る。そういう意味ではあのエイリアンは有能なのかもしれない。かすかにタバコのニオイがした。
「バイトは?」
「ん。午後から。それまでレベル上げ手伝いに来た」
どうせラミのことだからやってないと思って。と言いながら新しいダンジョンに踏み込んでいく。ラミこの子使ってんだ、というつぶやき。




