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世界はいい色をしている  作者: 速水詩穂
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私的言葉辞典〈祈り〉【私的短編】


「祈り」について。



「てへん」ではなく「しめすへん」

 手を合わせるのではなく、わざわざ「神や祭りなどに関する文字をつくる」へんを当てたのは、もはや人智の及ぶ範囲ではないから。

「祈り」について。

 祈りは無力か。健やかであって欲しい。幸せであって欲しい。降りかかる可能性のある災厄、事故から、どうかお守り下さいという、対象の向こうに合わせた焦点。際立つのはなんともちっぽけな己の存在。少し話を飛ばそう。


「イメージ」の持つ付加価値について。

 仲間内によく気の利く子がいる。彼女は自ら声を上げ、旅行の立案、計画、手配を凄まじい早さでやってのける。きっと彼女は仕事も早いのだろう。

 仲間内によく気の利く子がいる。誰もやりたがらない、でも誰かがやらなければいけない人と人の間に発生する仕事。彼女はそれを自ら取りに行く。恐るべきはその瞬発力。

「誰かやってくれないかな」なんて一拍を挟まない。当然のこととして頭から突っ込む。だから彼女は人に好かれる。


 おそらく彼女たちは自分のしていることを当たり前だと思っている。もはや前提からして異なる。同じような「人の」「女の」姿形をしていても似て非なる生き物と認めざるを得ない。

 というのも、私はと言うと、友人間では後部座席で横になり、着いたら起きるという役割と、無駄に高いパフォーマンスに手を叩いた方々に頭をなでられながら、評価の受けやすい、分かりやすい仕事をさせてもらうという役割を担ってきたからだ。言ってみちゃえば完全に搾取する側の人間。

 そんな私は「助けられた」「気分良くしてもらった」と感じると、分かりやすくなつく。なつく、のは感覚的に本能に近い。難しい理屈は抜きにして、ただ心地よい相手の傍にいる。だから

 コピー機の横にまとめられたゴミが片付けられていたら彼女に声をかけるし、鳴った電話がワンコール待たずして通話になったら彼女を思い浮かべる。この時、結果誰がやったかなんてどうでもいい。実際その子自身が手を出していないにも関わらず、オートで彼女の株は上がり続ける。

「あの子に違いない」

 そんな「イメージ」こそ、強大なアドバンテージ。本来かけられるはずのない声を、感謝を、彼女は一回り多めにもらい受ける。

 話を戻そう。では祈りとは。


 祈りは一見無力だ。けれども全くの無力ではない。

 そこに発生したエネルギーがある。体温がある。

 その人の向こうにあてた焦点。そこからのレスポンスは、直接ではなくても必ずある。

 そもそも人一人が本気で願って、何も起こらないはずがない。だから

 呪ってはいけない。必ずかかるし、反動を受ける。ネガティヴなものは己の中で重要視しない。結局忘却こそが相手にとって最も堪える。


 イメージで得たアドバンテージが分かりやすく得られるのに対し、祈りで得られるものは可視化できない。けれども


 祈りは届く。だから大事なのは思い続けること。己のちっぽけさを恥じ入るヒマがあるなら、ひたすらに祈り続けろ。


 それが、この文章であります。



                          私的言葉辞典(自己紹介)

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