ある日の放課後【友情短編】
とある仲良し高校二年生のお話。
ある日の放課後
「ねぇ、ステラーカイギュウって知ってる?」
「牛?」
「うーん、海の牛でカイギュウだから、牛って言えば牛なのかな? ・・・・・・あ、ジュゴン科だって」
「ジュゴンってことは水族館にいるの?」
「ううん、とっくに絶滅してる。いても一頭八メートルが入れるような水槽、なかなかないと思うけどね」
「八メートル! 慶子五人分ちょっと!」
「真琴だって大して変わらないじゃん。『ちょっと』の部分が少なくなるだけで」
「それでそのカイギュウがどうしたの?」
「そうそう。そのステラーカイギュウってね、元はと言えば遭難したロシアの探索隊が食用に捕獲したのがきっかけだったんだけど、後に食用だけじゃなくて毛皮目的も含めて乱獲されるようになって絶滅しちゃったの」
「八メートルもあるのに? そんなに簡単に捕まえられたの?」
「元々動きが遅くて、人間を警戒してなかったのもあるんだけど、何よりステラーカイギュウには仲間を攻撃されると、助けようとする習性があって、刺さった銛を抜こうとしたり、網をはずそうとしたりしたんだって。だからほっといても獲物の方から集まってくる。狩る側からしたらこんな好都合なことないよね」
「すごい今人間やめたくなった」
「いやいや、ナチュラルに闇堕ちしようとするのやめて。ホント、引き上げるの大変なんだから。・・・・・・とまぁこれはこれで置いておいて。ってか私も昨日テレビ見てて偶然知ったばっかなんだけど、ちょっと思い出したことがあって」
「人間じゃない私でも聞く耳くらいはもてる」
「手遅れだったか。じゃあそのまま聞いて。
昔さ・・・・・・って言っても小学生の時なんだけど、近所の子とよく遊んでたのね。ホラ、年齢的な一つ二つの違いとか男女の違いとか全然関係ない時あったでしょ? でも幼いなりに序列みたいなものはあって、
仕切ってた女の子が男女の兄弟に『あっちで遊ぶからついてこないで』って言ったの。その日丁度男の子がいなくて、女の子だけで遊びたかったんだと思う。でもその子達だって一緒に遊びたいはずで、だから私手招きしたの。前を向いてどんどん進んでいく女の子達、私はその一番後ろにいて。で、その後も何度かあったの。振り返って『ついてこないで』って。そのたびに私は同じ数だけ手招きをした。
結果的にその日遊びらしい遊びもせずに終わっちゃったけど、その時の事、久しぶりに思い出したの」
「しみる」
「人の心は残っていたか。
ちょっと話飛ばすよ。ステラーカイギュウが仲間を助けようとしたのってやっぱり本能だったからなのかな? 例えば、例えばだよ? 本気で助けたいと思ってたのはほんの一部で、残りは従ってただけだとしたら。働きアリの法則ってあるじゃない? 例えば重心が後ろにある二割が逃げてたら絶滅せずに済んだのかなって。そんな裏切り者がいなかったっていう何よりの証明が今どこにも生息してないってことなんだけど」
「しみる」
「戻っておいで。どうあがいたところで文明の利器に頼らなきゃ三メートル先の危険も察知できない、視力薄弱のか細い葦なんだから。
それでさ、それでもさ、その絶滅した中に手招きしてた子はいなかったのかなって思って。例えばだよ? 本当は逃げようとしてた二頭を引き止めてた子がいて、その子のせいでまとめて捕まっちゃったとか」
「・・・・・・」
「自分でも分かんないんだよね。なんであの時あんなことしたのか。たまたま最後尾にいたのが自分で、その光景を見えてたからか分かんない。でも妹の手を握るお兄ちゃんの反対の手がギュッて握られてて、それだけは覚えてて、結果的に何度も傷つけた。
何言ったって自己弁護にしかなんないんだけど、私と同じ思いをしたことのある生き物がいたんじゃないかって。そう思うことで救われようとしてる。ただそれだけ」
「・・・・・・」
「真琴?」
「・・・・・・能動が全てじゃないんじゃないかな」
「・・・・・・」
「誰だってその瞬間動ける訳じゃない。何となく心を落ち着ける方に動くこともある。後から考え直すこともある。その瞬間『助けよう』と思ってすぐ動けた一頭がいたとして、取り残される不安から逃れたい一心で反射的に続いた子もいたかもしれない。
でもだとしたら慶子がしたことは少なくとも寂しさから護ることだったんじゃないのかな。傷ついたと思うし、嫌な思いもしてると思うけど、それでもそれだけじゃなかったんじゃないかな。その子達はその子達で思うことがあった」
「・・・・・・」
「それで、どこかで手招きしてるかもしれない。その時の慶子みたいに」
「・・・・・・傷つく」
「どうして? 分かるよ。ほっとけなかったんだよね。間違ってないよ」
「本当にそう思う?」
「うん。だからもうしばらく人間続けることにした」
「いいご身分だね。ジョブチェンジか」




