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世界はいい色をしている  作者: 速水詩穂
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ライブ~ラミの場合~【禁断恋愛】


  ライブ  ラミの場合



 五月蝿い、と思ったのは大きな音に対してじゃない。

 自己顕示欲、承認欲求。そんな自己満足の世界に巻き込まれたと思ったためだ。

 大してすごいことを言ってる訳じゃないのに、声が大きいと言うだけで注目される。まるで中学生の教室にいるかのようだ。

 意図して空けた間。その魂胆が分かっているから尚、腹が立つ。そんな小細工挟んだ所で、出来栄えに変わりはないんだよ。

 ぐるぐるぐるぐる渦巻く感情。分かってる。これは妬みだ。

 同じような時間を割いても、一瞬でこれだけの注目を集める側とそうでない側に分かれる。まるで夏の夜のコンビニを見ているようだ。強い光はそれだけたくさんの虫を集める。その中の一匹。分かりやすくヤミを持って行かれる。

 単純に聴くだけなら「すごい」とか「楽しい」に分類されるはずの演奏が、そんな私情を挟むことで真っ黒になる。黒と黒で挟んで、間の白が黒くなる訳じゃない。ヤミを魅了するものの存在を認めただけで、全僕が黒に切り替わる。その剛力たるや。

 食い入るようにステージを見つめるヤミの横顔が、スポットライトの残りカスで浮かび上がる。それがやっぱりキレイで頭にくる。


 音も絵も、溶け込むのが早い。

 なじんで、いつの間にか口ずさんでる。むやみやたらに言葉にしなくても「キレイだったね」一つで共有した気になれる。

 ビーカーの底にこずんだ不純物。ヤミみたいな温度を持てない僕は、だからずっと溶けないそれをかき混ぜ続ける。

 ぐるぐるぐるぐる。ぐるぐるぐるぐる。

 僕にはアイツらみたいに光の中心でパフォーマンスする度胸も、ヤミみたいに引きずり込む力もない。

 共鳴し合う。いつかヤミが本物の光に見初められた時、なすすべなく奪われる。そんな妄想ばかりが膨らんで怖くなる。

 楽しそうに歌う声。揺れる会場。

 嫌だ。早くここから出たい。

 ダメだ。ヤミが潜ってる。ここからまた、彼女の色が生まれる。

 だからまだ

「ラミ、出よう」

  

 凍てつくような空気に、今まで鼓膜を叩き続けていた音が息をひそめた。六度。とてもじゃない。動いていないとそのまま氷づけにされてしまいそうな気温。

「もういいの? まだ最後のグループの演奏が残ってたけど」

 前を歩くヤミは、前を向いたまま「もう一杯になった」と言った。空に向かって話しているようだった。

「これ以上入らないかな。今のバンドがたぶん最高だと思う」

「トリが最高じゃなくて?」

「さぁ、どうだか」

 全く興味を失っていた。それほどまでに良かったのだろう。続けて「この感覚が消えないうちに早く吐き出したい」と言う。

 空に向かって話しているものだから、それは全くの不意打ちだった。ヤミは突然振り返ると尋ねた。

「ねぇ、ラミはどう思った?」

 ぐ、と詰まったのは後ろめたさ。心から楽しんでいたヤミの隣で考えていたことなんて、言える訳がない。だから口をついで出たのは純然たる愛想。

「すごいと思った」

 ラミの目が僕の頬を焼く。こんな時嫌だと思う。たぶんヤミは見抜いてる。言ってることと思っていることが一致しない。見抜いてて、捨て置く。糾弾したっていいものは出てこないと分かっているためだろう。

「・・・・・・。・・・・・・そっか」

 待てど暮らせど続かない言葉に、静かな相づちを打つと、ラミは足を止めた。うつむいて歩いていた僕はそれに気づくのが遅れて、ぶつかる寸前で止まる。

「危なっ・・・・・・何を」

「あたしもすごいと思った」

 強いまなざし。寒空の下、空気はこれ以上ない程澄んでいて、その頬の産毛まで見えるかのよう。ラベンダーのコートに身を包んだラミは、どこまでも強い。

 共感? まさか。言葉だけ切り取ったら分からなくなる。

 これは、挑発だ。

「あたしはすごいと思ったとしか言えないけど、ラミは違う。見たもの聴いたもの全部、深く共有できる形にして保存できる。再現度の高さが違う。だからラミの言葉を辿って、いつだってあの場所に戻れる。例えあの場所にいた人がいなくなっても、あの場所自体がなくなっても」

 選んだ口紅はローズ、と言った。青紫の入ったピンク。ヤミの肌、好んで羽織るコートの色との相性が抜群だと販売員に教えてもらったらしい。

 鋭いまなざし。ヤミはまだ自分の本当の美しさに気づいていない。

「あたしもすごいと思った。すごく、楽しかった。だから今日のこと書いてね、ラミ。そしたらきっと、何年経っても同じ温度で楽しめるんだ」

 だから、焦る。本物の光に見つかる前に、隠してしまいたくなる。

 ラベンダー。お気に入りのコートの裾がなびく。微かに化粧品の匂いを残して離れたヤミは、再び前を向いて歩き出した。

 高くない温度。溶けない不純物は、かき混ぜるのをやめると再び底に沈殿した。

 大きく息を吸って、吐く。凍てついた空気が脳みそに届く。まっすぐ、見据えるべきものを見据える。

 見てろ、と思った。






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