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世界はいい色をしている  作者: 速水詩穂
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スケッチ~ラミの場合①~【禁断恋愛】




 スケッチ  ラミの場合


〈ねぇラミ、光の描き方って知ってる?〉

 そう得意げに言われたのは高校生の時だった。

 横流し。授業で習ったのだろう。得た知識をすぐさま披露したがる底の浅さを恥ずかしいと思う一方で、活き活きと自身の腕で再現してみせるヤミの腕が既にたくさんの絵の具で汚れていることにひるんだのを覚えている。


 ヤミはラベンダーの色が好きだ。

 夏に着るワンピース。春秋で登場する七分袖のカーディガン。真冬の厚手のコート。

 季節なんて関係なく、ヤミは好きなモノをずっと大切にする。だから男と出かける時はすぐ分かる。いろんな色を身につけて、結局大好きなラベンダーに戻って来る。

 始めから自分の色を主張する勇気を持てないヤミは、だからいつも似合わない口紅ばかりつける。


「何、またフラれたの?」

 左の首筋を押さえたまま見上げる目。かわいそうに。更新されることのないキスマークほど痛々しいものはない。三ヶ月ともたないヤミのようなタイプは特にそうだ。

「うっせ、違うし」

「ヤミがタバコ吸うの、男にフラれた時しか見たことないんだけど」

 ざまぁ、と人の不幸を笑いながら言うと舌打ちされた。根っからの内弁慶は「内」に入ると急に武者モードになる。鋭い眼光。メンチを切られる。

「違う。あたしがフッたの」

 ウソつけ。百パーないわ。もう被害者面が染みついてるから。いくらオキシドールで叩いた所でとれないレベルの染みだから。

「あんな浮気男、いらないってフッてやったの」

 別れた理由、男の浮気。そんなテンプレくり返してたらオキシドールだって太刀打ちできなくなりますわ。一体何度目だよ。

 男だけでなく薬液にまで重いと思われるヤミを思ったらおかしくて笑ってしまって、殺気を感じた。あわてて手をかざす。暴力はよくない。

「別にフラれた時しか見たことないだけで、どっちにしても同じようなことくり返してるだけじゃんって思ったらおかしくて」

 前の男との別れの原因、男の浮気。その前の男との別れの原因、男の浮気。

 三歩進んで二歩下がるならまだマシだが、ヤミの場合、三歩進んできっちり三歩戻って来る。

 進歩とは。人間のもつ脳みその大きさの訳とは。

「傾向と対策」と言ったところで、ヤミはあからさまに嫌な顔をした。同じ事をくり返しても学ばない。進んだ分だけ戻るバグをどこかで修正しない限り、ヤミに平穏な日々は訪れない。傷ついた分だけダメージを受ける肺と肝臓。

「いい加減やめたら? そういう進歩ないの。見てて頭悪いって思うよ。だったら自信が持てるようになるまで自分を磨くとかさ」

 とうとうヤミが横倒れになった。九月。まだ夏の残り香の強い夜。不意にワンピースの裾から見えた太ももの裏に動揺する。

 まさか男の手垢がついたとは思えない身体。かすめたのは、たくさんの絵の具で汚れたその腕。白くてなめらかな、青い血管の走る手首。

 無意識に奥歯に加わる力。


 ヤミはかわいくなんかない。ヤミは、ただただキレイだ。

 あの日からずっと変わらず、ヤミはキレイなままだ。


 動かない、から僕も動けない。

 呼吸に合わせてその肩が上下する。心を落ち着けるようにゆっくりとした動作だった。

 ぶしゅん。

 飾らないヤミはただの野生。あるがまま、気の向くまま、心地よいままに息づく。

 それを見られない男達の不幸を思う。小動物。野生のヤミはここにしか生息しない。

「見てらんないんだけど」

 いいから早く戻せ。

 長い日に比べたらまだ浅い夜。人が通る可能性があった。




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