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世界はいい色をしている  作者: 速水詩穂
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ヒカリヘ、7【ヒューマンちょい長】




〈りんちゃん〉


 おりすんは

 おりすんは既にこの世の人ではなかった。学生時代、他県で過ごしたときにできた友人だった。一人ぼっちで、不安で、そんなとき、彼女に出会った。

〈関西弁、きつくないん?〉

 独特のイントネーション。あたたかな気遣い。うたうようなやさしい口調は、じんわりと心にしみこんだ。

 ずっと一緒にいた。部活やバイトにかける時間はあったけれど、彼女あっての私だった。互いにしか伝わらない言葉があった。暗黙の前提があった。唯一とは、存在したと言えた。昼休み、ざわめく食堂ではわざと雑踏から隔離された柱の影を陣取った。二人で笑って、時に泣いた。あの場所が、他のどこよりも落ち着いた。

 まるで己のみが幸せになるようだった。

 まるで己のみがあの場所を離れるようだった。

 強がりで、寂しがりなおりすんを、たった一人残して。


「リンさん」

 かおりさんが駆け寄ってくる。ふいごのように背中が波打つ。

 あたしは


 今のあたしは正しく彼女と友達でいられているだろうか。変わらず、をいいことに、都合のいいように彼女を見出していないだろうか。辛いとき、孤独を感じたときだけ思い出して、親友面をしていないだろうか。

 たとえおりすんがそれほどの相手として私を認識していなくてもいい。仮にそうだったとしたときに寂しい思いをさせるくらいだったら、私が一方的にうぬぼれを口にしていた方がいい。きっと困ったように笑うから。それでよかった。けれども今は何か違う。やっぱり自分の都合のいいときだけ思い出す。この涙は、決して、キレイなものではない。この事態さえ、醜い茶番だ。

「リンさん」

 呼ばれるたびにはっとする。名が私が私たり得ることをつなぎとめる。生きている。この世の生き物であると証明する。その声がするたびに引き戻される。

 おりすん。

 死に際、名を呼ぶことのかなわなかった哀れな友人は、だからこうして、今、必死で呼び続ける。例えば五年の月日が経っていたとしても関係ない。あの場に存在した時間や想いは永遠なのだ。




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