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第三章・後編



「ここはドコだ?」



カミュ以外全員が

戸惑いながら

周りを見回す。




「ユルグ。ここは探索サーチ魔法は使わなくていい」


使わなくても知っている。




驚いた仲間の視線が

カミュに集中する。




カミュは

ルーナを抱き抱えたまま

一点を見つめていた。







ここは『ルーナの生まれ故郷』だ。




そして

これが『ジェシカ』だ。





カミュの目の前には

樹皮が黒焦げて朽ちた木が立っていた。







「どういうことですか?」



オラフが

みんなを代表するように


カミュに尋ねる。




「言葉の通りだ」



カミュは

木から視線をそらさない。






「この木は『賢者』が自身の魔力を注ぎ込んだ、云わば『もう一人の賢者』だ」



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -







『ジェシカ』は

忘れずに馬車も転移させてくれていた。



ひとまず

野宿の準備をしていく。



ルーナを

馬車の中に寝かせたカミュは


一人

岩山の内部を登っていく。




村長むらおさの残留思念が

ニコニコしながら

待っていた。



「オレの事、気付いていたんだな」



『もちろんじゃ』


伊達に『村長』を名乗ってはおらんよ。




「だが、初めてここへ来た時・・・」



『壁が反応せんじゃった、だろ』



村長の言葉にカミュは頷く。



『あの道は『魔導師』が通れる道じゃ』


ほれ。

天井に『ヒカリゴケ』がおったじゃろ?


あれは

『一定以上の魔力を吸収する』効果がある。



ルーナが泣き叫べば

無意識で

範囲魔法『衝撃波ショックウェーブ』を発動する。



ルーナだけじゃない。


小さい子は

魔法を

暴走しやすい。



無意識の魔法は

自分では

どうすることも出来ずに


パニックを

起こすからだ。



あのヒカリゴケは

そんな魔法の暴走を抑え

術者の身体に負担を与えさせないものだ。




村長の説明に

カミュはようやく合点がいった。



初めて

ここへ来た時



あの時

確かにルーナの中から湧き上がった

強い魔力。



しかし

落ち着いたあとは

強い魔力を

感じ取ることはなかった。




『カミュ』


お主はこれからどうする?



「『どう』とは?」



『お主のくびきは取り除かれた』


囚われていた『この国』から解き放たれた今、お主は自由じゃ。




ルーナも

魔力が『普通と同じ』になった。


どこの町でも

二度と見つかることはない。


暴走も

二度と起きないだろう。



『そなたは『ルーナ』から解放されてもいい頃じゃ』


そなたは

『この村を滅ぼした国王の息子』

という負い目から

ルーナを守ってきたのじゃろ?





「なんだ。『そのこと』か」




それなら

オレはもう




答えは出てる。




- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -






「カミュ・・・」



カミュが馬車まで戻ってくると

ルーナが目覚めていたようで

仲間たちは喜んでいた。



ただ

ルーナは

あの『雪の日』で

記憶が止まっているようで

戸惑っていた。



そのせいか

ルーナはカミュの顔を見て

困惑の表情を見せた。




「おはよう。お寝坊さん」



「ルーナ。『お寝坊さん』じゃないもん!」



「一人で起きてきたことがないだろ」




カミュは

ポカポカと叩いてくるルーナを

さらにからかう。



「一人で起きられる方がおかしいんだもん・・・」



「お子ちゃま」



「ルーナ。『お子ちゃま』じゃないもん!」



「『お子ちゃまじゃない』なら『みんなと同じ時間』に一人で起きてごらん」



「・・・カミュのいじわる!」




叩く手を止めないルーナを

カミュは強く抱きしめる。



「もうおしまい」


というと

「むぅ・・・」と膨れて

手を止めるルーナ。



「いい子だ」



カミュが

ルーナの額にキスを落とす。





「さすがカミュだな」



「一時はどうなるかと思ったけど」




仲間たちは

いつもと変わらない

二人の様子を

微笑ましく見守っていた。



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -






久しぶりに過ごす

仲間との時間。



一緒に食事をとり

各々で時間を過ごす。




「ルーナ」



ユルグやオラフと話してた

カミュが

ルーナに声をかける。



ルーナは

かつて『偉大な魔法使いの木』と呼ばれた

朽ちた木を見上げていた。



「『ジェシカ』様・・・いなくなっちゃった」


どこにもいないの。




体力が落ちている

ルーナは

ラグの上に座っていたが

目線は木から離れなかった。



カミュは

ルーナの額にキスを落とす。



「ルーナ。『大事な話』がある」



カミュは

いつものように

ルーナを左腕で抱き抱えると

ラグをアイテムボックスにしまう。



ルーナは

カミュの肩に

顔をうずめて

小さく震えていた。



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -






もう

ルーナの家以外は

ガレキしか残っていない

村の中を


自身の肩口に

顔を伏したルーナを抱えて歩く。



カミュは何も話さない。



ただ

ルーナの後頭部を

押さえているだけだ。



その

カミュの手の温度を感じ


ルーナの涙は止まらなかった。






「ルーナ。手を伸ばして」



カミュに言われて

ルーナは振り向く。



この村に

カミュと帰ってきた時に通った


洞窟の出入り口になってる

森の中の木。




二人はその前にいた。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -





ルーナが

木に手を伸ばす。



あの時と同じように

ポッカリと口が開いた。



カミュが

その口を通ると

すぐに出入り口が消えた。


そこは

以前と変わらず


何も無い

石畳の空間だった。




カミュは

壁の窪みに『転移石』を置く。



「カミュ?」



「今度から、この中の道を通らなくて済むからな」



洞窟内に足を踏み出すカミュ。


複雑な表情をみせる

ルーナに

カミュは吹き出した。




「ルーナ。『大事な話』を誤解してるだろ」



「だって・・・」



ルーナは言い淀む。



カミュは

ルーナを片手で抱きしめると


「やっぱり、ルーナは『おバカな子』だな」


と笑う。




「・・・・・・おバカじゃないもん」



「いーや。ルーナは相変わらず『おバカな子』だ」


また『考えなくていいこと』で悩んでる。




カミュの言葉に

ルーナは

意味が分からず戸惑う。




「ルーナは、オレと『別れたい』のか?」



「イヤ!イヤよイヤイヤ!!絶対イヤ!」



カミュの言葉に

ルーナは激しく

反応をみせて

カミュの首に手を回してしがみつく。



「ルーナ」



「イヤ!」




カミュの言葉を遮って

ルーナは『イヤイヤ』と首を振る。




「お子ちゃま」



「違うもん!」



「おバカな子」



「違うもん!」



「ルーナ」



「イヤ!」



名前を呼ばれると

『イヤイヤ』をするルーナに


カミュは笑い出す。




「カミュのバカ!」



「じゃあ『バイバイ』するか?」



「イヤ!」



ちょっとイジメ過ぎたか。




「ルーナ」



名前を呼んだだけで

『イヤイヤ』と首を振る。



「・・・『ジェシカ』のことだ」



「『ジェシカ』様?」



「そう。それと『ルーナが寝ていた』間の話だ」





長い話になる。

しかし『時間』ならいくらでもある。


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