第二章・後編
馬車で約1日
神殿に到着してすぐ
ユルグが
神殿の外から
聖櫃に対して
探索魔法を使った。
やはり『聖櫃』は
ただの箱になっていた。
ルーナが来たのは
間違いないだろう。
「ユルグ。『戦災孤児』はいたかい?」
オレの問いに
ユルグは黙って首を横に振る。
やはり
入れ違いになったようだ。
「ここまで来たし、中へ入りましょう」
ここまで来て
神殿に入らずにエンカムへ戻ったら
さすがに疑われるな。
めんどくさいから
オレが馬車に残りたかったが
順番通り
ユルグが馬車番で残り
オレはミリアに背を押され
神殿に入った。
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「ようこそお参りにお越し頂き・・・」
神殿に入ると
ニコニコ顔でお布施を強要してくる神官。
箱にまとめてお布施を入れる時に
「そういえば『聖櫃』と『聖杯』の展示はどちらで?」
と問うと
「あ・・・『聖杯』は王都へ移送のため神殿を離れています」
オイオイ。
『極秘裏』じゃないのかよ・・・
「では『聖櫃』は?」
「申し訳ございません。先日『事故』がございまして、修復のために展示は中止させて頂いております」
・・・『事故』ねぇ。
オレたちはその場を離れて
見学に向かった。
「あっきれたわー」
ミリアが小声で声をかけてくる。
「何が?」
「アンタ、今『お布施』入れなかったでしょ」
そりゃ、そうだろ。
『見世物』が
どちらも展示されていないのに
お布施だけ取られてたまるかって。
「さすが『盗賊』よね」
誰かの視線を感じたオレは
螺旋階段の上部を仰ぎ見た。
「なに?どうしたのよ、怖い顔して」
「いや・・・誰かの視線を感じた」
「ルーナか!」
後ろからバムが声をあげる。
いや。
ルーナなら分かる。
・・・・・・アレは
『憎しみ』のこもった視線だった。
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螺旋階段を登りきると
周囲がガラス張りの
展望室に出た。
「エルルー!待ってよー!」
「やだよ!アルマ遅いもん!」
「イヤだ」と言いつつも
速度を落とすエルル。
あのアルマって子供は
出会った頃のルーナに似ている。
・・・まさか、な。
オレが子供たちを目で追っていると
ミリアたちも
何か言いたげに子供たちを見ていた。
「あー!アレなんだ?」
「ホントだー!おっきー!」
エルルとアルマが
外を指さす。
オレも
周りも
つられて外に目をやる。
ギャアアアーーーー!!!
遠くからでも咆哮が聞こえた。
『ワイバーン』だ!
オレは
慌ててエルルとアルマを抱えて
ガラスから離れた。
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ワイバーンが
神殿に襲い掛かってきた。
それは
『聖櫃』と『聖杯』が
張っていた結界が
消えた証拠だ。
オレたちは
子供たちを連れて
崩壊を始めた神殿から
無事に逃げ出すことが出来た。
ワイバーンは
逃げ回る人々に
一切興味を向けず
ひたすら神殿を破壊している。
馬車の中では
アルマが酷く怯えていた。
エルルが
アルマを守るように
抱きしめて落ち着かせようとする。
アルマは
オレが手を伸ばしただけで
酷く怯える。
ミリアたちが近付くだけでも
怯える始末だ。
今はただ
エルルが
アルマを落ち着かせていた。
「まるでカミュとルーナよね」
セリアの言葉で
再びアルマの姿が
ルーナの子供時代にダブって見えた。
・・・ルーナ
キミは今
どこにいる?
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「『エルル』と『アルマ』か」
オレたちは
ワイバーンの襲撃時に助けた
子供たちを連れて
『エンカム』に辿り着いた。
どうやら
オレたちが探していた
『戦災孤児』は
『アルマ』だったらしい。
でも
戦災孤児ではなく
「内乱前夜の混乱で離れ離れになった」
そうだ。
家族で乗ってた乗合馬車が
道中で混乱に巻き込まれ
少しでも遠くへ逃げようと
乗り込んできた
大人たちに
アルマは
馬車から放り出されたらしい。
アルマが
馬車の中や
オレたちに怯えるのは
その時の恐怖があるからだろう。
そして
エルクリムの
スイーツショップで
皿洗いをしていたのは
アルマだった。
その時に
やはり家族とはぐれたエルルが
アルマを見つけて
無事に再会出来たらしい。
エルクリムから
乗合馬車に乗った子供は
エルルでも
アルマでも
なかった。
2人はずっと
『歩いて家族を探していた』そうだ。
「これは『乗合』じゃないわ」
「私たち以外に乗ることは出来ないのよ」
『カワイイもの』好きの
ミリアと
セリアが
二人を連れて旅をしたくて
一生懸命に誘っている。
「それに!この馬車はタダよタダ!」
食費もタダ!
スイーツも食べ放題!
おい、ミリア。
論点は『そこ』か?
「もちろん!そして支払いはアンタたちがするのよ!」
「あー。ハイハイ」
ルーナを
ひと目見て
「「カワイイ〜!」」と
連呼していた2人だ。
そして
『危険でも構わない』と
勝手についてきて
いつの間にか
『仲間』になった彼女たちだ。
エルルとアルマが
2人の『説得』に
負けるのも
時間の問題だろう。
オレたち男性陣は
ミリアとセリアの『説得』を
遠巻きに見ているだけだった。
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オレたちは
まだ
『エンカム』にいた。
ワイバーンによる
神殿への襲撃では
多数の死傷者が出てるらしい。
残念ながら
あの『強欲』な神官は
無事だったそうだ。
そして
エンカムに滞在していた
半分以上の旅人が
半ば強制的に
『神殿再建』に
無償で駆り出された。
オレたちは
『子供たちが一緒にいる』
ということで
免除された。
さすがに
惨劇の地に
子供たちを連れては行けないだろう。
おかげで
宿も空きだしたが
その頃には
『あと数日で通行止めは解除される』
と公表されていたから
「宿に泊まるくらいなら食事のあとにデザートでも食べましょ」
という
ミリアの提案で
宿泊は却下されていた。
数日後
ミリアとセリアが
スイーツショップから
情報とケーキを土産に
帰ってきた。
「明日から通行止め解除だってー」
「注文は済んでます。後で馬車まで運んで貰うので、支払いはその時にお願いします」
これが注文書。
そう言って
セリアはオレに
注文書の束を差し出した。
「エルル。アルマ。ケーキ買ってきたよ」
「一緒に食べましょう」
オレは
新しく『仲間』に加わった
エルルとアルマが
気になっていた。
「確かに、アルマはルーナに似てるわよね」
オレが
気になっているのは
それだけではない。
「・・・ルーナの亡くなった兄の名は『エルンスト』。ルーナは『エルお兄ちゃん』と呼んでいたらしい」
「『エル』と『エルル』・・・ね」
「ああ。似てるだろ?」
『遺石』のチカラか
ルーナのチカラか・・・
それとも『両方』か。
エルル
アルマ
キミたちは
一体・・・・・・