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第二章・前編


「・・・どういうこと?」


ルーナは

目に涙をためて

オレを睨みつけていた。



いや違う。


睨みつけられた方が

マシだったかもしれない。



ルーナは

酷く傷付いた目を

オレに向けていた。



「あの妖精ティンクルたちの言った通りだ」


オレは

お前の村を滅ぼした

国王の息子だ。



オレたちを

遠巻きに囲む

仲間たちからも

息を呑む音が聞こえた。



「じゃあ・・・」


私を

牢屋から連れ出した

あの日から


ずっと

私は

『見張られていた』の・・・



ルーナは

そのまま

もの言わず

後ろへと倒れた。



「ルーナ!」


とっさに手を出し

ルーナの身体が

床に倒れる前に庇うことは出来た。


ただ

先に床に打ち付けた両手から

血が滲み出していた。


回復魔法をかけたが

ルーナは

意識を手放したままだ。



「カミュ・・・」


なぜ

あんなことを?


貴方は

誰よりもルーナを

大切にしてきたじゃない。



いつも気の強い

ミリアからは

珍しく

弱々しい声で責められたが



「・・・事実だ」



そう。


オレが

『愚王の息子』であることに

変わりはない。



オレは

青ざめて生気のない

ルーナを抱き抱えて

立ち上がった。



「ここにはもう用はない」



オレたちが

拠点にしている

民家に

帰ろう。



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -





オレたちの部屋に

全員が

集まっていた。


壁際に並び

誰も

ひと言も

口にしない。



ベッドに

寝かせたルーナは

変わらず

冷たい頬をしている。



オレは

いつもの通り


ベッドに腰掛け

ルーナの頬やアタマを

撫でて


時折

額や頬に

キスを落とす。



「オレたちが会ったのは『地下牢』だった」



オレの独り言を

誰も

遮らない。



あの日


オレは

わざとしくじって

地下牢へ入るように仕向けた。


『犯罪者の末裔』が

入れられたと

情報屋のウワサを聞いたから


地下牢まで

『見物』に行ったのだ。



そこにいたのが

ルーナだった。



まだ幼い・・・


「もうすぐ12歳!」と

言い張る少女。


様々な

たわいないことでも

無邪気に

喜ぶ姿。



オレは

母が亡くなるまでは

王城で過ごしていたから

『賢者の伝説』は知っていた。



だが

ルーナの語る

『偉大な魔法使い』の話とは

あまりに違っていた。



ルーナの

生まれ育った村へ

行けば

何か分かるかもしれない。



そんな

軽い好奇心で


ルーナとの

逃避行を

始めた。



時間はかかったが

村には

辿り着いた。


地面に

野ざらしにされた

たくさんの

遺骨。


その

ひとつひとつに

ルーナは

話しかける。



服の残骸で

その

遺骨が

『誰』なのか


ルーナには

分かっているようだった。



その中に

ルーナの

両親と

兄の

遺骨もあった。



ルーナが

逃げたという先に


3人分の

遺骨も

見つかった。



ルーナに

連れられて

登った岩山。


その途中でも

何人もの

遺骨が

あった。


山頂の

遺骨に

残された

村長むらおさ

『残留思念』が


『遺石』の

在り

教えてくれた。



破壊し尽くされた

村の外れに

ルーナの家が

半分崩れて

残されていた。



その日は

ルーナの希望で

ルーナの家で

一晩泊まった。



その日から

ルーナは


夜毎に

『あの日』を

夢で見ては

泣き叫ぶようになった。



抱きしめて

「大丈夫だ」と

「オレがいる」と


そう

繰り返し

落ち着かせてきた。



オレは

アイツを

『父』と思ったことは無い。



だが

ルーナが

苦しむ姿を見ては


アイツを

アイツの血が流れているオレを

どれほど憎んだか

分からない。



『あの日』を

思い出した

ルーナの

精神は

もろくなった。



しばらくは

真っ赤な夕陽を

見ては


村が焼かれた時を

思い出した。



『馬に乗った騎士』を

見ては


一緒に逃げようとして

殺された

幼馴染たちを

思い出した。



そして

オレたちを

『第一騎士団』が

追ってきた。


『真実』を探る

オレたちを

『消す』ために。



ルーナの

先祖が残した

『遺石』



それが

オレたちを

危機から救った。





あれから

4年。


オレたちは

『真実を知る旅』を

続けた。



時々

現れる

『第一騎士団』から

逃げながら。






『賢者の伝説』は

みんなも

知っている通りだ・・・



『先祖の罪』で

裁かれるのであれば


それは

ルーナではない



オレの方だ。



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -





オレの

『独白』に

誰も

何も

言わなかった。



いや。


『言えなかった』のかも

しれない。



だが

動いた者はいた。



「ルーナ・・・」



オレの声に

壁際にいた仲間たちが

ベッドの周りに

駆け寄る。



・・・ルーナ?



オレたちの声に


ルーナは

何の反応も

見せない。



ただ

チカラなく

天井を

見ているだけだ。


その目も

焦点が

定まっていない。



「ルーナ」



神官職の

オラフが


ルーナに

手を翳して

声をかけるが

やはり

反応はない。



「ルーナのココロはココにありません」


眉間に

シワを寄せて

オラフは

首を

横に振った。


オラフの

『声』は


正気に戻す

チカラを

持っている。



その声に

反応しない・・・



「ルーナ!」



オレの声にも

反応を見せず



ルーナの目は


再び

閉ざされた。



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -





静かな

寝息をたてて

ルーナは

眠りについた。



「部屋の外で話しましょう」



ミリアに

促され

オレたちは

部屋の外へ出た。



「セリア。ルーナをお願いね」


ミリアは

双子の妹

セリアに

ルーナを託す。



ミリアと

セリアは

お互いの『感覚』を

共有出来る。


セリアは

部屋の中に

いながら


部屋の外にいる

ミリアの

耳を通して


オレたちの

話を

聞くことが

出来る。



ミリアは

セリアの

目を通して


ルーナの

様子を

見守ることが

出来る。




オレたちは

ルーナと

セリアを

残して


部屋の扉を

閉めた。




少しでも

ルーナが休まるように。




- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -




オレたちは

話し合いの

結果


ひと月

この民家に

留まることした。



今はただ

ルーナを


ルーナの

ココロを

癒したかった。



「「まって!ルーナ!!起きてはダメよ!」」



部屋の

内と外


ミリアと

セリアが

同時に叫んだ。



勢いよく

ドアを開けると


ルーナは

窓際で

外を


空を

見ていた。



その光景は

今までも

夜中に

何度か

見かけていた。



「ルーナ。風邪をひく・・・」



オレは

いつものように

ルーナの肩に

手を伸ばした。



その瞬間



ルーナの

姿が



幻の如く

消えていた。



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -




「ルーナ!」



オレは

窓を開けて

外を見渡した。



ルーナの姿は

どこにも見当たらない。



「ルーナ!どこだ!」



窓から

飛び降りて

周囲を見渡す。



降り積もった

雪の上に


ルーナの

足あとは

残されていなかった。




ルーナ!


ルーナ!


どこだ!


どこに行った!



仲間たちも

手分けをして

ルーナを探す。



ユルグの

探索サーチ魔法でも


ルーナを

見つけることは

出来なかった。



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -






遺跡の奥で

出会った

妖精ティンクルたち。



彼らは言った。



「カミュは『私の村を滅ぼした王の息子』だ」と。



カミュに

問い質した。



否定

して

ほしくて。



「オレには関係ない」と



そう

言って


いつものように


笑って



「大丈夫だ」と言って



抱きしめてほしかった。




でも・・・


返ってきた

言葉は



『肯定』



だった。




私は


『地下牢で出会った時』から



カミュに





『見張られていた』んだ。




- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -





私は



これから



誰を信じて



生きて


いけば


いいのだろう。




4年



ずっと


信じてた。





でも



アナタは



4年



ずっと


私を


見張ってたのね・・・





私は


道化師ピエロ




アナタの



手のひらの


上で



楽しそうに



踊っていた




私は



道化師ピエロ






私は




もう誰も




貴方のことも




信じることが



出来ない・・・



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -





私は

『ここではないどこか』へ


行きたかった。




誰も

『私を知らない』場所へ。





もし

その願いが

叶わないなら




誰も

『私だと気付かない』姿に



なりたかった。





許されるなら



『あの日』に

戻って



『馬の追いつけない』

道を逃げて




捕まらないで




あの地下牢で


貴方に

出会わなかったら




私たちは



いま


どうして

いたのだろう。






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