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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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SUKIYAKI

皇紀2583年(1923年)12月13日 帝都東京


 参考人として初登院した翌日、有坂総一郎は東條英機中佐を自邸へ招いていた。


 急な呼び出しであったことから東條は自身の都合をつけるのに苦労しつつも陸軍省から直接乗り付けたのであった。


 東條が有坂邸へ急いでいた頃には昼前から降り出した雪が路面を覆いつくすくらいには積もっていた。


「これほど雪が積もるのも久々だな……普段の帝都はそれほど降らぬというのに」


 陸軍省の公用車から降り立った東條そうつぶやくと有坂邸へ入った。


 庭先に入った東條は先日来た時にはなかった蔵モドキ……プレハブ小屋……が建っていることに気付くが、そのまま素通りすることにしたのであった。


「また、何か扱いに困るもの(ヤバいもの)があそこにあるのであろうな……」


 何も見なかったことにしようと東條は心に決め、玄関へ向かった。


「御免!」


 東條の甲高い声が玄関から奥へと響く。


 少ししてから奥の方から人がやって来る気配が感じられた。


「東條様、お待ち申しておりました……旦那様と奥様が奥でお待ちです……さっ、こちらへ」


 女中は外套を預かり来客用のクローゼットへ掛けると東條を奥へと案内した。


「女中さん……名はなんと申したかな?」


「さえ……里中さえと申します」


「あぁ、では、さえさんとお呼びしようか……先日も厄介になったね」


「いえ、とんでもございません……東條様にはいつも宜しくしていただいておりますから」


 女中はにこりと笑い東條を歓待する表情を浮かべた。


「そこでなんだが……先日頂いた酒なのだが……いくらか分けてはもらえないだろうか? なに、タダでとは申さぬ……実は陸軍省内で会合があった時に持ち込んだのだが、えらく好評でね……都合してはくれないか?」


「まぁ……ふふふ……旦那様の仰ったとおりですわね……失礼しました……旦那様から仰せつかっております……東條様がお望みなら譲るようにと……」


「そうか……では、陸軍省宛の領収書を出してもらえぬか?」


「いえ、少量であれば無料でお渡しせよとのことです」


「そうか……それはありがたい……」


「ただ、今後、陸軍省内への取り扱いは東條様に一任しますゆえ、まとまった数の受注を取ってきて欲しいと旦那様が申しておりましたので……」


 女中の言葉に総一郎の真意を東條は悟った。


「なるほど、有坂と陸軍省のパイプ役を私に務めさせ、そのリベートを工作資金に充てろという腹か……」


「流石東條様……旦那様の意図をご理解されたのですね……着きました……」


 女中とやり取りしているうちに広間に案内されていた。いつもは応接間か書斎へ通されるが、この日は違うようだ。


「旦那様、東條様がお着きになり、こちらへご案内致しました……」


「あぁ、入っていただいて結構だよ……丁度良い具合に仕上がったようだしね」


 総一郎は部屋の中からそう伝えた。


「では、失礼致します」


 女中が障子を開けると中で総一郎と結奈がすき焼きを作っていた。


「東條さん、お忙しい中、お呼びだてして申し訳ないですね……さ、こちらにどうぞ」


 東條が部屋に入ると女中はすっと障子を閉めて退出した。


「ほぅ……すき焼きか……これは実に美味そうだ」


 東條がこたつに入ると異変に気付いた。


「これは……練炭などを使っておらぬではないか! 一体、何で暖を取っているのだ?」


「ははは、これは電気こたつですよ。本来は戦後の発明ですがね……ニクロム線を熱源にしているのです……技術的には可能ですから試作してみたんですよ」


 東條は唸った。よく見るとすき焼きを作っているコンロも不思議なものであった。


「これも電気で動いているのか?」


「ええ、そうですわ。ニクロム線を用いた電気コンロ……専用電源が要りますけれど、火事の危険性がぐっと減るので今後の集合住宅などには適当かなと思いますわね……どうぞ……」


 結奈はそう言うとすき焼きを小皿に取って東條へ渡した。


「なるほど……よく考えておるな……」

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