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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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弾丸列車構想

皇紀2583年(1923年)12月12日 帝都東京


 有坂総一郎の侮蔑しきった発言によって議場は荒れ始めたが、彼にとっては想定の範囲内だった。


 議長である粕谷義三による警告もあったが、それで矛を収める鳩山一郎ではなかった。


「議長、参考人として相応しくない振る舞いをするこの若造をつまみ出せ!」


「そうだ!」


「静粛に! 静粛に願います! 不規則発言は認めていません、慎んでください!」


 議長は議場に轟き渡る罵詈雑言を抑えようと必死だった。


「議長、参考人の話を聞くつもりもない議員、少しも勉強をしてこない議員など帝国議会の恥さらしも良いところ、斯様な者たちこそこの議場にはふさわしくないのではありませんか? 即刻退場させることを提案します」


 総一郎は火に油を注ぐ様に言うと議場を見渡し言い放った。


「自身の不勉強や私利私欲を棚に上げた方々、私の話を聞こうという意思がない方は、どうぞ、議場から退出頂きたい。私の話を聞く気がある者、また、帝国の未来のために力を合わせ、働く意思がある方は残って頂きたい」


 ある種の脅迫だ。ここで、抗議の声を挙げたり、議場から出ていくということは帝国議会議員たる職務を放棄するも同然だからだ。


 総一郎は議場を見渡すと続けた。


「おや? 抗議されていた方々が退場されていませんね、話を聞く気がないのでしょう? どうぞ、退場願います。鳩山議員? あなたのことですよ?」


 総一郎は鳩山を睨みつけてそう言い放つ。


 鳩山は顔を赤くして言い返した。


「誰も聞く耳を持っていないと言ってはいない。君の態度が相応しくないと言ったまでだ」


「では、『私の門外漢が勉強もせずに口を挟むな!』と申したことに反発なさったのです? 高速鉄道と在来線を別にする意味をあなたは理解なさっていますか? 少なくとも、立憲政友会の方々は以前の改軌論争で狭軌維持を主張されておりますね? その時に、改軌のメリットをちゃんと勉強されましたか? そして、今後の技術発展に関して少しでも見識を持たれましたか? 違いますよね? だから、不勉強であり、素人の門外漢は黙ってろと申し上げたのです」


「だが……」


「では、御黙り下さいな。先見の明がない無能な方が政治家をなさっても国民、帝国臣民にとって不幸なだけです」


 総一郎はニヤリと笑った。言ってやったぞという表情である。


 議場でも反論したいが出来ないという複雑な表情の議員たちが視線を逸らして黙っている。出来ることなら鳩山に押し付けて自分は難を逃れようという魂胆であるのは丸わかりだ。


「そうは言っても、数年前の情勢で予見するのは難しかったのかもしれません。それを今になって揚げ足を取るのは卑怯と誹りを受けかねませんので、このくらいにしておきます」


 総一郎の言葉に立憲政友会の議員たちは安堵とともにいつ矢面に立たされるかわかったものではないという恐怖を感じたのであった。


「さて、先見の明もなく、喧嘩を売る相手を見極めることが出来ない方は放っておいて、弾丸列車構想の話に戻ります……まず、大前提として議員諸氏にご理解頂かねばならないことがあります……それは在来線と高速鉄道は同じ線路を共用してはならないということです」


 議員たちは理解出来ないという表情だ。


「まず、現在の鉄道省路線での話を例にしましょう……特別急行、急行、普通と列車種別がありますが、何れも最高速度は同じものであります……機関車は共通のものを使っておりますからね……差が出てくるのは停車駅の数と停車時間などが殆どで、運行中の列車はほぼ同じ速度で運転されております」


「それくらいは知っている!」


「だからなんだ!」


 議場から声が上がる。


「では、その状態で300kmの列車を運転したらどうでしょうか? 現在は100km程度の速度で統一されておりますが、そこに300kmの列車を走らせると……折角の高速度が発揮出来なくなるのです。それが10km、20kmであれば誤差の範囲と言えば語弊はありますが、ダイヤグラム組成でうまくコントロール出来ます……が、200kmや300kmの列車が走ると、線路上で異なる速度の列車が渋滞を引き起こしてしまうのです」


 議場内で理解出来ているものはわずかだった。大半は何を言っているのかわからないという感じだ。


「ご理解出来ない方が多いようですので、端的に申します。遅い列車はそれだけで邪魔をするということです。速い列車の運転を邪魔して結果、速度性能を十分に発揮出来ないということです。また、仮に在来線を高速度運転させてしまうと折角の高速度が駅間の短さで発揮出来なくなるのです……」


「では、150kmでの運転も同様になるではないか!」


 議場からヤジが飛ぶ。


「ええ、そうですね。ですが、150km運転に統一しダイヤを適正に組成した場合、単純明快に言えば、速度向上しただけでデメリットはさほどありません。もちろん、信号や地上設備の速度への対応などはしなくてはなりませんが……」


「それでは、大掛かりなことをして200kmや300kmなど目指すべきではということになるぞ!」


「いえ、そもそも、今後の在来線の役割と弾丸列車では役割が変わってくるのです。在来線は近郊輸送が主となり、弾丸列車は都市間輸送が主となるのです……そう、帝都と大阪、帝都と仙台など主要都市を結ぶ特別急行や急行列車は全て弾丸列車に移行するのです。そして、空いたスジで通勤列車、近郊列車を在来線で増発する……列車運行の上下分離とも言えるのです。結果、高速度で運転される特別急行によって短時間で大都市間の移動が可能となるのです!300km運転が可能となれば帝都と大阪は2時間半で結ばれるでしょう! これの帝国経済へ与える影響は本年度国家予算の数年分にも相当します!」


 総一郎は興奮気味に一気に言い切った。


 鳩山などはポカーンと口を開けて固まっている。


「国家予算の数年分……」


「いや、だが、それを達成するには膨大な予算が……」


 議員たちはざわつくが、誰一人ヤジを飛ばしたり反発してこなかった。


 議場はスケールの大きい話についていけていない空気に包まれていたのだ。

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