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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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第47回帝国議会<4>

皇紀2583年(1923年)12月12日 帝都東京


 島安次郎によって万人が理解出来る形で鉄道行政の方針転換と指針を示されたことで反発していた立憲政友会所属議員も黙らざるを得なくなった。


 仮にこの方針によって改軌が進めばそれによって高速化されることで帝都や県都への交通事情が改善されることでより便利になると考えた議員も出始め、島のパンフレットを片手に賛成を表明する者も出てきた。


 だが、参考人席に座っている有坂総一郎は何とも言えない表情で議会の様子を見ていた。


「この議場にいる議員の多くがストロー効果って知らないんだな……今の貧弱な鉄道でも十分に帝都や大阪にヒトモノカネを地方は吸い取られているというのにね……」


 総一郎は誰にも聞こえないくらいの小声で呟いた。


 ストロー効果……史実において21世紀初頭の新聞ではよく見かけた言葉だ。新幹線が開通することで地方から大都市への時間距離が短くなり、その結果、在来線の頃よりもヒトモノカネの流出が激しくなることを例えたものだ。


 総一郎は浮かれる議員たちを見て嘲笑した。


「皆一様に便利になるという側面しか見ていない。まぁ、この連中の子孫が同じことをして21世紀に地方の衰退を招いているんだから仕方がないよな……」


 議会はそのまま鉄道行政の方針転換を容認する方向に空気は誘導されていった。


 その間、仙石貢鉄道大臣の答弁や施政方針は続いた。


 議員たちは仙石の演説を聞きつつも、時折隣席の議員とひそひそ話をして自分の選挙区と自身の議席を賭けた駆け引きに躍起になっている。


 仙石はその様子を把握しつつも放置し、次の議案に移った。こちらの方が仙石にとって、そして島や後藤新平、総一郎にとって本題と言えるものだ。


「では、以上のことを踏まえまして、我が帝国のインフラストラクチャーの強化を促すべく、一大事業をこの場で提案させていただきます……。弾丸列車構想であります」


 議場は再び騒然となった。


「静粛に!」


 粕谷義三衆議院議長はざわつく議員たちを静めるべく制するが一度では効果がなかった。


「諸君、静粛に! いつまでも騒いでおる者は議事進行妨害で議場から放逐するぞ!」


 議長がキレて議場からの退場させると宣言すると流石に議員たちも静かになった。


 議場が静かになったところで仙石は答弁を再開した。


「さて、議員諸氏を再度驚かせてしまいましたが、弾丸列車構想についてご説明致します……。弾丸列車構想、これは読んで字の如く、弾丸の様な速度で運行される鉄道路線を建設するものであります。これは、既存の線路の改良では達成するには困難であるため、新規に高速運転に適した線路を建設し、この線路上を計画速度300kmという超高速度で運行を計画しております……」


 つい先ほど150kmや200kmという話題が出たばかりだというのに、現行速度の3倍もの速度である300kmと聞いた議員たちは猛然と反発し始めた。


「議長、発言を許可願いたい!」


「鳩山一郎君、発言を許可します」


 鳩山一郎……犬養毅と同じく、史実では統帥権干犯問題をでっち上げ、政党政治、議会政治を破壊した張本人だ。


「先程、150kmや200kmでの運転が可能であるとこちらのパンフレットで示されましたが、それを上回る300kmとはどういうことか! それであれば、最初から改軌などせずにこの弾丸列車構想を優先すべきであろう!」


 鳩山は一見すると正論っぽく反発した。確かに、弾丸列車構想を推進するのであれば在来線の改良は必要ない。だが、それは一面での見方に過ぎない。


 鳩山の発言に賛同するかのように多くの議員が頷いている。


 今まで議会の進行を見守っていた総一郎は仙石と島に視線をやり、彼らが頷くとすっと挙手した。


「議長、参考人として答弁させていただきたく存じます」


「参考人、有坂総一郎君。答弁を許可します」


 島と同じく壇上に登ると総一郎は議場全体を見渡してから口を開いた。


「議員諸君、あなた方は、鉄道というもの、高速鉄道というものを御存知ない! 門外漢の方が、素人ですが、と前置きして意見を差し挟むのは勉強をなさってからされるべきことだ。違いますか?」


 総一郎は敵対的に言い放った。


 並み居る海千山千の議員たちはこれにキレてしまいヤジを飛ばしてくる。鳩山は彼らを代表して言い返してきた。


「有坂君、君はまだ年若いが、礼儀を知らないようだね? 君の様な者がこの神聖な帝国議会で暴言を吐くなど断じて許されることではない! 議長、議長もなぜ彼に警告を出さない!」


 鳩山は議長にも苦言を呈した。


「有坂君、言葉を選んで答弁するように」


「失礼致しました……では、言葉を選び答弁させていただくように致します」


 総一郎は議長に一礼して再び議席に振り返えると一礼も陳謝もせずに答弁を再開した。

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