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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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第47回帝国議会

皇紀2583年(1923年)12月11日 帝都東京


 この日、定例の通常会の開会を前に帝国議会は臨時会を開催。主な議題は関東大震災の復興とシベリア出兵の事後処理に関するものである。


 議会の冒頭、原敬総理大臣は次のような演説を行った。


「帝国は、未曽有の大惨事である此度の地震……関東大震災によって帝都を始め、横浜や小田原など関東の多くの都市が壊滅し、アメリカ合衆国を始め、列強各国からの支援を受け入れ、日々復興へ帝国民が鋭意努力をしておる状況にあります……斯様な状況である中、旧極東共和国とその軍隊は卑怯にもシベリアへの派兵中の我が帝国軍隊へ攻勢をかけて参りました……これはここにおります議員諸氏は周知のことと存じますが……これを我が帝国軍人の鑑ともいえる英雄たちによって退け、悪逆卑劣なる彼の者たちから沿海州を完全に放逐することに成功し、ソ連邦とともに旧極東共和国を接収するに至りました……よって、政府はソ連邦との外交交渉によって旧極東共和国の占領地を併合することと決し、ここに国境画定条約の締結を議員諸氏、帝国臣民へご報告する次第であります……」


 極東共和国が崩壊後、1ヶ月に及ぶソ連邦との外交交渉の結果、暫定停戦ラインを基本する尾根筋、河川への国境移動とその画定が行われたことを原は議会へ報告したのである。


 前線部隊間での停戦合意から1週間後、日ソ両国の勢力結節点である長春において交渉が始まり、ソ連側全権として外務委員(外務大臣)であるゲオルギー・チチェーリンと日本側全権である内田康哉外務大臣は丁々発止のやりとりを行い、旧極東共和国を東西分割することで双方の占領地の併合を合意した。


 また、これによって、ロシア帝国正統政府(鳥取政府)をウラジオストクへ移転させ、正式に独立国家として承認するという運びになった。だが、ソ連邦はこれに難色を示し、国家承認をすることは出来ないと公式声明を出した。


 しかし、一応の戦勝国である大日本帝国としても、シベリア出兵の大義名分である鳥取政府のウラジオストク移転と国家承認は是が非でも必要であり、これを公式に認めさせなくては国際社会との付き合いで非常に都合が悪いことからソ連邦へ譲歩を促した。


 だが、ソ連邦も自身が倒した相手の残党を承認することは自己否定にもつながることであり、国家掌握上認めにくかった。


 このため、国境画定はスムーズに決まったにもかかわらず鳥取政府承認をめぐって会議は紛糾し議論は平行線をたどったのであった。


 この状況に業を煮やした総理の原は直接長春へ乗り込み、事態打開を図ったのである。


「ソ連邦は、ロシアという国号が気に入らないのだろう? なら、ロシアと名乗らないのであれば譲歩出来るか?」


 要はロシアの看板を掲げるから問題なのであって、国号を変えれば認められるのかと原はチチェーリンに迫った。


「我々がロシアを領有していて後継しているのであるから当然であります……原総理、我らが譲歩出来るのは貴国の占領地を貴国に割譲することとその使い道が自由であるということです……が、それでも、ロシアを僭称する国家を建国するなど認めるわけにはいきません」


「あいわかった。であれば、貴国の都合もあるでしょう……彼らにはロシアではなく他の名称を名乗る様に圧力をかけると約束します……代わりに国家承認をしていただきます」


 チチェーリンは首を横に振った。


「総理、我らは公式に認めることは出来ません……が、そういう国家を名乗る存在が隣にあることを容認する……それが限度です」


 原はチチェーリンの譲歩になっていない譲歩に苛立ちを感じたが、彼に譲歩の姿勢が認められないのに交渉を続けることの無意味さを理解し引き下がることとした。


「仕方ありませんな……貴国のメンツもあるので国家承認は取り下げ、存在の容認で手打ちとしましょう……お互いに不毛なやり取りをするのは好ましくはありませんからな」


「そういうことですな……では、国境画定は先の取り決め通り、未承認国家については存在容認でお願いしますぞ」


 チチェーリンはさっと右手を差し出し原もそれに応じたのであった。


 こうして長春条約は12月初旬に調印され、日本側が議会承認を得ると正式に発効する段取りとなったのである。

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