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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2597年(1937年)

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送り人

皇紀2597年(1937年)3月31日 舟山諸島沖


 ハルゼー艦隊の航行予定情報は東シナ海を航行する船舶だけでなく、支那沿岸地域においても傍受出来ていた。


 アメリカ海兵遠征軍の占領下にない舟山諸島に設置された灯台だが、通常の灯台業務が行われる傍らで馬賊総頭目尚旭東によって無線通信局が併設され、ここで商船の航路情報や列強海軍の動向を探っていたのだが、今回もここにおいてハルゼー艦隊の無線情報がキャッチされ、それに基づいて配下に組み込まれた雷装無しSボート(警備艇)によって逃げ遅れた商船(カモ)を襲う算段を始めていたのだ。


「首領、どうやら聞いていたカモが逃げ遅れたらしいですぜ。いま、一生懸命にハルゼー艦隊に会合しようとこっちに向かっているらしいですが、先にやれそうですな」


 海賊の頭目らしい男が扉を開け放つなりニヤリと笑みを浮かべ言い放つ。


「あぁ、そのために貴方にアレを預けたのだから。存分に暴れて見せて欲しい。この小白龍が私とともにあるように、貴方もまた相応しいフネとあるのだから。今までとは違い、逃げ足も速いアレならば真の獲物だけ得ることも容易いことでしょう」


 穏やかな笑みを浮かべつつ応じる男こそが馬賊を仕切り、天津青幇の首領でもある尚旭東であった。愛銃のブローニングを撫でながら視線を港に停泊する雷装無しSボート(警備艇)へと向ける。


「おうよ、あれは良いフネだぜ。30ノットも出させて、800海里も航海出来る。これさえあれば、この東シナ海のどこにだって出向いてカモを襲える。襲った後の逃げ足も良しと来れば笑いが止まらないってもんよ」


「あまり調子に乗らないでくださいよ。所詮は40mm機関砲と迫撃砲程度しか積んでいないのですからあくまで金目のものを奪ったらすぐ逃げること、欲をかかないことです」


「しかしよ、首領、そうは言っても・・・・・・」


「いいですか、貴方方の仕事は銀を取り戻すだけです。それ以上はいけません。上物の女がいても手を出してはいけない。皆殺しもいけません。貴方方の先代はやり過ぎました。その結果、すべてを失ってしまったのです。貴方は海賊上がりですが、歴とした士官なのです。そこを忘れてはいけませんよ」


 笑みを浮かべつつも冷たく言い放つ尚の迫力に海賊の頭目は押し黙るしかなかった。彼がこの地位にいるのも、雷装無しSボート(警備艇)が彼の手にあるのも、すべて尚が用意してくれたものであるだけに逆らうなど出来なかった。いや、立場的なものだけでなく、尚の無言の圧力が彼にものを言わせなかったのだ。


「結果次第では更に口添えをすることも約束しましょう。ええ、今回の獲物である銀は我々の国富です。それを取り戻したという事実は貴方方に栄光を授けるに十分な理由になりましょう。国民党も非公式ではあっても恩に報いてくれるはずですよ。頑張ってくださいね」


「・・・・・・お、おう。任せてくれ。後は俺たちの仕事だ、首領といえども口は出させねぇ」


「ええ、元よりそのつもりです。海は貴方方の領分ですからね。では、私は天津に戻ります。良い知らせが聞けることを楽しみにしていますよ」


 尚はそう言うと立ち上がり居座っていた灯台守の館を後にする。残された海賊たちは気勢を上げて仕事に取りかかろうとしていた。


「さぁ、どう踊ってくれるのでしょうか・・・・・・さて、では私も仕事にかかりましょうかね」


 尚が右手を挙げると潜んでいた彼の部下が現れ、そして散っていった。彼らの仕事は尚がここにいた痕跡を消すことだ。


 海賊が出航し、しばらくした頃。突如この港にハルゼー艦隊の艦載機が来襲、湾内の停泊中の船舶と街が空襲されたのである。そして同時に街の各地で火の手が上がるとともにその火事は街を取り囲むかのような格好であった。米艦載機の襲撃に合わせて行った破壊工作である。


 尚が去った後、尚の部下は街ごとその痕跡を消すために焼き討ちと虐殺を実行したのだが、それにアメリカ側に虚報のタレコミを行った上で利用したのだった。

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