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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2597年(1937年)

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賽は投げられた

皇紀2597年(1937年)3月31日 舟山諸島沖


 ハルゼー艦隊はあえて(・・・)沿岸コースを通り、舟山諸島沖を通過し、上海の海兵遠征軍総司令部とスービックのアジア艦隊司令部へ航海予定をヒラ文(・・・)で打電、自艦隊の情報を公開し周辺海域を航行する商船などにも傍受出来るようにした。


 このハルゼー艦隊の無線発報で近海を航行中の商船は海域の不安定化を嫌って最寄りの港湾都市へ寄港または台湾沿岸に沿って南北へ航行を余儀なくされたが、これにより無警戒に東シナ海及び台湾海峡を航行する船舶が減ったことで結果として海賊被害を抑えることにつながったが、アメリカ資本の低価格海運会社(LCC)にとっては甚だ迷惑なことでもあった。


 中でもファーイースト・ドラゴン・ライン社の貨物船ウーンデッド・ニー号はハルゼー艦隊と馬賊総頭目にして青幇首領の尚旭東による謀略の餌であり同時に獲物となったのだから当事者でありながら狙われていることを知らないのは幸か不幸か。いずれにせよ、当事者にとっては逃げ遅れた格好であり、一刻も早く東経125度を越えて安全海域へ逃れたいという一心であったのは間違いない。


 そんな中でハルゼー艦隊が舟山諸島沖を航行中であり、比較的ゆっくりとした航行速度であることを知ったウーンデッド・ニー号は東経125度を目指すコースから転舵、舟山諸島を目指すコースを採った。


 しかし、ハルゼー艦隊は舟山諸島沖を航行していると称していたが、その実、舟山諸島沖とは名ばかりで北緯30度東経124度付近、つまり舟山諸島沖とは言っても150kmも東に離れた海域にいたのである。そして、無線発報した時刻前後に舟山諸島沖へ現れることが出来る様に時間調整をしていたのだ。


 そう、ウーンデッド・ニー号が焦って舟山諸島へ到達する頃合を見計らうことが出来る絶妙な時間、そして、存在するはずのハルゼー艦隊を発見出来ずに救助を請うであろうタイミングなのである。無論、水上偵察機を飛ばしてウーンデッド・ニー号(可哀想な囮)がちゃんと罠に向かっているか動向を把握していた。


 仮にウーンデッド・ニー号(可哀想な囮)が罠に向かわなかった場合、次なる罠を仕掛ける為に準備は怠っていなかったが、出来れば台湾海峡に入るまでにはウーンデッド・ニー号(可哀想な囮)を襲撃してもらいたいとハルゼー艦隊の参謀たちは考えていた。台湾海峡に入られると日英の哨戒圏に入ってしまうのと他国海軍艦艇と鉢合わせしやすいからだ。


「出来る限り悪事は露見しない方が良い。その為には囮にはちゃんと仕事をしてもらわないとな」


 ウーンデッド・ニー号(可哀想な囮)とハルゼー艦隊が会合するのが早ければ囮の役目を果たさず、遅ければ単純に獲物を食われてお仕舞いであるだけにタイミングが大事であった。


「さて、問題は雷装無しSボート(国府警備艦)が獲物を正しく狙ってくれるかだが・・・・・・」


 ウィリアム・ハルゼー・ジュニア提督は旗艦ニュー・メキシコの司令官室で一人呟くが、指示した当の本人でありながら、自身が立案した悪巧みが思惑通り進むか疑念を抱いていた。


「1トンの銀塊という餌がどれだけ連中を惹き付けるのか、チャイナにおける銀はもう引き出せるだけ引き出されたと言われている・・・・・・連中にとって銀は信仰の対象のようなモノだと聞く、それだけに餌になると思ったのだが」


 支那人にとって自国通貨など信用に値せず、現銀こそが正義であった。だからこそ、関東軍は資源買い付けに現銀を用いて、阿片でその現銀を回収するという方法を用いていた。また、同時にアメリカ合衆国による銀買上政策を邪魔するために支那全土を阿片付けにするべくあらゆるルートを用いて阿片を流して現銀を回収したのだ。


 こういった事情から支那に残っている現銀は相当に少なくなっており、アメリカ財界が回収出来た現銀の最後ではないかと言われている。買い付け価格にしてみれば2万ドル程度でしかないが、その銀が生み出す用途や価値はそれだけではない。


 しかも、現銀の多くは大日本帝国とアメリカ合衆国、そして大英帝国にあるだけに銀を通貨として利用する国家にとっては飢餓感が蔓延している。日英米は現銀を武器にこういった国々を経済的に圧力を掛けることが出来るのだ。


「儂からしたら絞りかすでしかないように見えるが、資本家たち、いやラストフロンティアを目指すプロスペクター(投機家)にとっては西部開拓の夢幻なのだろうな。蜃気楼の絶望を味わう前に手を引けば良いのだが、甘い汁を吸う連中には豚に真珠というものだな」


 現地で現実を見ているハルゼーや支那戦線をともに戦うアレクサンダー・アーチャー・ヴァンデグリフトも同様に冷めた視線で見ているが、合衆国本国は前のめりに泥沼に足を突っ込み続けている。合衆国海軍は新標準戦艦の建造を認めてくれたことで表だって邪魔はしないが、要らぬ支出を増やして迷惑なことだと思っているのがある意味では幸いであったが、同時にハルゼーら現場にとっては援軍を回してくれない理由でもあって歯痒い面もある。


「いずれにせよ、賽は投げられた。罠に掛かってくれれば行動がしやすくなるし、合衆国政府に対するアピールにもなる・・・・・・上手くいってくれよ」


 ハルゼーはお気に入りのバーボンに口をつけ一気に呷るが後味はあまり美味くは感じられなかったらしく顰めっ面をしてベッドに横たわるが、そんなことも関係なくすぐに鼾をかいて眠りについたのであった。

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ガソリン生産とオクタン価の話

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鉄牛と鉄獅子の遺伝子

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※史実1936年頃の銀価格

5,000万オンス=1,417トン

5,000万オンス=3,250万ドル

1トン=23,000ドル

現在の貨幣価値換算:1万ドル=1500万円~

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