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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2597年(1937年)

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謀略の上海沖

皇紀2597年(1937年)3月30日 上海沖東シナ海・黄海海域


 上海沖を遊弋していたハルゼー艦隊は突如フィリピン方面に転進、戦艦及び航空母艦を基幹とする主力をすべてスービック基地へと向かわせ、上海付近に残されたのはスービック基地と上海を結ぶ定期油送のタンカーが1隻と米本土から到着したばかりに貨客船が3隻であった。


 また、マニラ-上海の米資本低価格海運会社(LCC)の10,000総トン級の低速だが、輸送能力の高い貨物船が3隻ほど舟山諸島及び温州沖を航行中であったが、これらの商船は自衛のためいくらかの武装を施し、反撃能力を確保している。とは言えども、迫撃砲やトンプソン機関銃シカゴ・タイプライターなどを積んでいるに過ぎない。だが、ある意味、その判断は間違っていないとも言えるのが銃社会アメリカの感覚の鋭さであると言えるだろう。


 実際、鈍足の商船が上海近海で海賊や海上ゲリラに襲われた際に乗り込まれる前にトンプソン機関銃シカゴ・タイプライターの一斉射撃で接舷阻止に成功していた事例があった。こうしたことから、鈍足丸腰の商船において自衛力を高める意味でこういった銃火器が搭載される例が多くなっている。


 いや、上海に進出したギャングの新たなシノギの場となっていると言っても良いかも知れない。高い護衛委託料を日英に支払うよりもギャングの小遣い稼ぎに幾ばくかの金銭を握らせる方がマシだと低価格海運会社(LCC)は考えている節があった。しかし、ギャングとて足下を見られているわけでもなく、逆に護衛委託料という正当な報酬のつり上げを何度も行っている。しかも、赤字にならない程度の金額にしつつ、前払いと成果報酬の二本立ての支払いを要求しているのだ。


 日英の海上護衛は一般的に香港上海銀行が建て替えを行い日英両政府に支払うとことで窓口となっていた。これは日英両国間における国際警備艦隊設立の際に窓口を一本化しようとして公募を行い、香港上海銀行が応じたことによる。


 その際に一航海毎に護衛委託料を徴収する仕組みとしたことで結果として護衛委託料が高騰してしまったのだ。それも一船団毎に構成隻数を固定して、その船団に入れない場合は特別料金で船団加入するか次の船団組成まで待つかを強制的に選択させる仕組みとした。これによって滞泊によって余分な航海日数やコスト増を嫌った海運会社は割増料金を支払ってでも船団加入を望む形になった。


 これらは護衛委託料の高騰につながり、主要航路から外れる上海往還航路や小資本の低価格海運会社(LCC)にとって不利に働いたのである。元々、日英にとっても上海往還航路は護衛対象ではなく、仮に護衛を望んでもその場合は特別傭船契約とすることは海運会社に通告されていたのだが、そういった事情から米系低価格海運会社(LCC)は自衛するかハルゼー艦隊の護衛を受けるしかなかったのだ。尤も頼みの綱のハルゼー艦隊も本来の任務の合間に片手間で護衛任務を行っているため、航路の定期性が損なわれることから低価格海運会社(LCC)にとってあてにならない状態であったのだ。


 そんなハルゼー艦隊が突如、事前の通告無しにフィリピンへ向かうとなったことで米系低価格海運会社(LCC)は青ざめることとなった。虎の威を借る狐ではないが、あてになるかは別として後ろ盾となっていたハルゼー艦隊のいない上海近海などただの無法海域でしかなく、そんな危険海域をうろつくなど、よく焼けて油がしたたる厚焼きベーコンでしかなく、飢えた野獣の群れにそれを放り投げたも同然だった。


 恐慌状態に陥った低価格海運会社(LCC)は上海から急遽出航し、出来る限り沿岸から離れ、東シナ海南北航路に近い東経125度を目指すが、鈍足な為に300kmもの距離を航海するにも16時間もかかることから、気が焦っても距離を稼ぐことが出来なかったのだ。そして、このとき運が悪いことに彼らの船荷は銀のインゴット、また欧州方面へ輸出される陶磁器――文字通りの宝船――であったのだ。


 この取引を行ったのは支那における物流と裏社会の総元締めである青幇の張嘯林であった。彼は大日本帝国ともつながりを持つ人物であり、関東軍及び帝国陸軍のフロント企業である昭和通商の取引相手だ。大日本帝国も阿片を彼に売り、代わりに銀や銅のインゴットを手に入れている。その張を通じたビジネスで巨額の利益と更に利益を生み出す商品を仕入れた低価格海運会社(LCC)の商船は、この利益を失わないためにも早急に危険海域を脱したかったのだ。


 しかし、この低価格海運会社(LCC)は魔に魅入られていたといえるだろう。


 その取引内容は張を通じ、用心棒をしている大陸浪人へと伝わり、更に支那馬賊の総頭目といわれる尚旭東に伝わった。そう、彼こそが、陸上においては馬賊やゲリラを指導し列強に抵抗している張本人であり、また支那海賊に情報を流し列強の商船を襲撃させるように仕向けていたのである。


 尚旭東は満州に渡り馬賊に襲われて下働きとなったが、その後、頭角を現し、関東軍による馬賊討伐などを経て、支那馬賊の総頭目へと上り詰めた男であった。また、天津青幇の首領として裏社会だけでなく表社会においてもその力量を発揮していた。


 彼の元に集まる情報は各国の諜報機関さえ時に出し抜くこともあったが、今回は青幇としての物流ルートからの情報取得であり、同時に日英の海上護衛、ハルゼー艦隊による海上警備によって比較的押さえ込まれている海賊を再び活性化させる好機となると彼は判断していたのだ。


 また、彼は杜月笙という別ルートの青幇からもある情報を得ていた。杜は蒋介石とつながりが深い青幇で蒋と義兄弟の契りを交わし国民党軍においても少将の肩書きを得ている実力者だ。杜の情報ではドイツから新鋭魚雷艇を国民党軍が入手し、これを配備、不足するハルゼー艦隊における警備戦力の補助に充てるというものだった。


 尚はこの情報を耳にしたときほくそ笑んだ。


「ドイツの魚雷艇でアメリカの商船を襲い、アメリカが得た銀を支那人民に還流する。アメリカとドイツの関係に亀裂を入れ、列強同士の疑心暗鬼を生じさせることで日英米独の支那蚕食を食い止める」


 無論、そう都合良く話が進むと尚は思っていないが、失敗したところで列強間の不和につながる。そうでなくてもアメリカ側と国民党側の対立の火種にはなる。であれば、国府勢力圏における行動もしやすくなる。


「蒋介石の立場が悪くなるなら儲けものだろう、この機に長江流域で蜂起させるもよし、悪くない賭けだ」


 尚は幾ばくかのカネと阿片を国府海軍の指揮官に握らせるべく工作を開始、気のある素振りを見せた指揮官にここぞと買収工作を推し進めて国府海軍に配備された雷装無しSボート(警備艇)を手の内にしたのであった。


 そして、迎えた3月30日、ハルゼー艦隊と尚の謀略が低価格海運会社(LCC)を巻き込んで遂に始まる。

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[気になる点] 混乱を望む群雄割拠の状態じゃあ、大陸の安定なんて夢のまた夢だな・・・
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