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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2597年(1937年)

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猛牛提督と悪巧み

皇紀2597年(1937年)3月17日 上海沖東シナ海・黄海海域


 日欧列強勢力の中支那地域からの実質的な撤収によって上海の経済的地位は低下し、その役割は大英帝国租借地の香港、列強共同租借地の天津、ドイツ国新領土総督府領の青島、大日本帝国領の大連及び長崎にそれぞれ分散する形となった。


 金融資本大手の香港上海銀行は支店こそ上海に残ってはいるが、その業務のほとんどを対岸に位置する長崎へ移転させ、その金融取引を日本市場にシフトしていた。英金融資本がこういった行動に出たことで他の列強資本も同様にチャイナリスクを感じ、追随したのである。


 仏伊資本は天津に主軸を移し、ドイツ資本は青島に、それ以外の資本が大連に拠点を再整備し、開かれた満州及び北支那市場を開拓せんとして商機をうかがっていたのだが、満州や北支における石油開発という大きなプロジェクトがこれらの取引を増大させ、時流が合致したことで彼らの資本が大いに役立つこととなった。


 逆に金融資本が逃げ出してしまった上海はゴーストタウンのように寂れかけたのであったが、米資本が入り込む格好で衰退を食い止めることになったのだが、それは同時にアメリカの支那介入という泥沼で足を踏み込む結果を招くことになってしまう。しかし、日欧列強勢力が抜けた穴を埋めるという商機は投資先を失っていた米資本にとって金の卵を産む鶏に見えたのであった。


 金の鶏に群がるようにラストフロンティアの夢に期待し、米産業界も同調、また大規模農場経営者なども長江デルタの肥沃で低廉な大地を求めて太平洋を渡り、上海に上陸するが、そこにあった現実に彼らは一喜一憂することになるのであったが、それはまた別の話になる。


 さて、そんなことで米西海岸諸港-上海に就航する各航路は活況を呈し、マニラを経由することで飛行艇による高速快適な空路を用いたビジネスマンの往来が活発化することになり、一層ラストフロンティア熱が増していったのだ。


 だが、問題は支那介入が本格化し、出兵までして治安確保と勢力圏の確保を進めて行くにつれ、東シナ海を通過する航路に海賊が出没し、多くの犠牲を強いられるようになった。また、反乱魚雷艇による艦隊攻撃が行われたこともあり、更にアメリカ側が前のめりになって支那遠征の規模を拡大させていった。


 遠征艦隊への攻撃は合衆国政府の圧力に震え上がった中華民国蒋介石政権が軍内部の引き締めを行ったことで一時的に収束したのであるが、それは一時的に息を潜めているだけに過ぎないのは誰の目にも明らかだった。なぜなら、その代わりに沿岸航路が標的になり海賊被害が再び増大する傾向となったからだ。


「本国は何をやっとるんだ。薄汚い海賊どもに海域を好き勝手にされているではないか、警備艦艇を何故寄越さないんだ」


 ウィリアム・ハルゼー・ジュニア遠征艦隊司令官は旗艦である戦艦ニューメキシコ艦上で苛つきつつ日々の任務をこなしていたが、彼のぼやきは艦隊全員の思いの代弁でしかない。遠征艦隊自体の強化はなんだかんだで大統領府と海兵隊が結託したことである程度は進んでいたが、逆に海上警備用の艦艇はほとんど増派されていない。


「日英のパトロール艦からの情報はどうか」


 頼りになるのは日英の警備艦艇だが、彼らも上海沖までほとんど出張ってこない。彼らは東経125度付近を南北に航行する香港-大連/天津航路や日満航路の護衛や警戒を専らとしているため、北緯29-31度付近を東西に航行する米西海岸-上海航路までは面倒を見てくれないのである。時折面倒を見るとしても南北に航行する香港-大連/天津航路の護衛のついでという程度だった。


 この日英警備艦は帝国海軍が規格化したMEKOフリゲートの量産品であり、大英帝国政府が大日本帝国側に建造を依頼し、乗員を派遣して受け取りそのまま東シナ海へ投入したものだった。これによって、航路の安全をかなり担保出来るようになったが、船会社が護衛委託料を支払わない場合、護衛対象から外れることもあり、いくらかの被害はまだ残っていた。


「外交ルートを通じて日本側がパトロール艦を貸与してもいいと言ってきているとのことですが、どうも大統領府が難色を示しているみたいで・・・・・・」


大統領府(あいつら)は何と戦っているんだ? 敵は日本じゃなく、抗米民兵(ゴブリン)支那海賊(ゴブリン・フリート)だろう。下らん面子に拘って合衆国市民を犠牲にしたいのか?」


「あまり滅多なことを言いますまいな、閣下は海軍上層部から異端視されておられますが、同様に大統領府や海兵隊からも煩がられているのですから、もう少し穏当に・・・・・・」


 部下の報告にいらだちを隠すつもりもなく悪態を吐くハルゼーだが、彼を諫める部下も心情を理解しつつ彼自身の立場の自覚を促してくる。ハルゼーの立場も微妙なところにあるのだ。


「海軍は大統領府が始めた要らぬ戦にこれ以上艦艇を出したくないというのが本音でしょう。駆逐艦1隻たりとも出したくない。だから、警備艦艇の補充がないわけです。尤も、海軍の艦艇にこういったパトロール向きの艦艇が存在しないことも理由になりますでしょう。どうしても出すなら、うちの艦隊にも配備されている平甲板型駆逐艦(ロートル)でしょうが、それだとて過剰戦力ですから」


「あぁ、だから儂らも苦労しておるんだ」


「無い物ねだりをしても仕方がありますまい。手持ちの戦力でなんとかするほかありますまい。閣下、一つ朗報があります・・・・・・朗報と言って良いのか微妙ではありますが、この際そのように分類させていただきました」


「何だ? 言ってみろ」


 訝しげに報告を促すハルゼーだが、部下の言い様からあまり期待はしていないようだ。


「ええ、近く、中華民国海軍(チャイナネイビー)に高速哨戒艦が配備されるそうです。どうやら、ドイツのSボートという魚雷艇から雷装を外したパトロール仕様だそうで、これを接収出来ればそれなりに役に立つのでは?」


「貴様はこの儂に強盗をしろと?」


「いえ、怪しい船だったので拿捕するという話です。なにせ連中には前科がありますから」


 副官からの悪い提案に猛牛提督の心は揺さぶられる。ここのところの鬱憤を晴らすチャンスでもあるだけにとても甘美で魅力的な提案に燃えたのだ。


「よし、わかった連中の行動に目を光らせろ、適当な罪状をでっち上げ・・・・・・いや、不穏な行動をしてくるように仕向けて構わんから釣り出してやれ」


「参謀らと検討して良案を献策いたします」


「期待しているぞ」

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[一言] ハルゼー提督むちゃくちゃするなあw
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