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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2597年(1937年)

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昭和12年という地雷原

皇紀2597年(1937年)2月26日 満州総督府領 大連 ヤマトホテル


 有坂結奈の一喝の原因である10年前の満州事変、これを仕掛けた当の本人たちが同じ様に他者から出し抜かれる格好で謀略を仕掛けられることになるとは思いもしなかったと言えよう。


 ただ、その謀略の矛先とそれによって利益を得るのが誰なのか、それを冷静に考えてみるとかなり拙いことは誰の目にも明らかである。しかし、個々の事案そのものだけを見ているだけなら、以下のような事例で片付いてしまうから逆に目にとまらないと言っても間違いではない。


1,日本人の妄想的思想家が支那の大地で馬鹿なことを言って回っている

2,青幇というアウトローが副業で密輸をしている

3,元日本人(国籍離脱者)がゲリラの軍事顧問になっている

4,旧清皇室が密輸に加担しているらしい


 それぞれの事案ならば、各政権の施政下の法秩序に従い拘束または処罰をすれば良いだけだが、それらが一本につながると途端に話が別となってしまう。


 旧清皇室の帝政復古、そしてそれに伴う排外(攘夷)思想の実行・・・・・・いや、それは順序が逆であっても大して違いはないのだが、これによって利益を独占するのは帝政復古と攘夷の達成は日本人の貢献によるものであり、それに報いる場合、支那大陸における最特恵国として大日本帝国を扱うのが道理に適う。


 そうなった場合、列強の大日本帝国に対する印象としては以下のようになるだろう。


1,ゲリラを唆して決起させた

2,ゲリラの使用する武器を日本以外から調達して関係性を秘匿した

3,満州事変以後の満州及び北支における列強権益を没収しそれを引き継ぐ密約があるに違いない

4,アメリカが中支方面で泥沼化した事変に陥ったのも日本の策略ではないか


 そしてそれらの疑念について、大日本帝国と帝国臣民は疑いを掛けられても不思議でない行動を行っているという事実から欧州列強は疑念ではなく真実として受け取るだろうことは容易に想像出来たのだ。


 有坂結奈は突き放した格好で言い放つ。


「閣下と旦那様・・・・・・いえ、大日本帝国はやり過ぎてしまったのですわ。相手の足下を見て好き勝手やった報いですわね」


 事実それは否定出来なかった。疑念のいずれもが満州事変以後だけでも状況証拠的に大日本帝国を不利にするにあたって十分すぎるほどの実績を積み上げてしまっていたからだ。


「帝国の行政各機関だけでなく、軍部の特務機関を含んで青幇との関係を清算すべきと考えますわ」


「いや、それは困る」


 東條英機は特務機関を通じて各種利益をもたらしている青幇との関係を切るという結奈の提案に難色を示す。


「そうですわね。陸軍さんとしては阿片の密売、銀と銅の回収という簿外収入を失うことになりますものね。それに青幇にとっても甘い蜜を吸えなくなる上に手のひらを返されるのでは良い気持ちではないでしょうから、現実的ではないことは承知しておりますわ」


「あぁ、そうだ。これは儂の一存で決められるほどのものでもない」


「ええ、そうでしょうね。ですから、憲兵隊を活用されるべきでしょう。閣下は実質的に憲兵隊を掌握していますもの、活用しない手はないでしょう」


 結奈は東條に比較的まっとうな提案を改めて提示する。


「結奈君、そう言うが、憲兵隊を私情で使うわけにはいかん。前世で儂は憲兵を用い過ぎた。陛下にもその点を指摘されていたと申したのは結奈君、君であったと思うが?」


「無論、そうです。ですから、まっとうな使い方をなされば良いのです。そうですね、一般的な法ではアジア主義者を逮捕拘禁することは出来ませんから・・・・・・阿片の密輸という証拠を押さえてという格好ならば角が立たないかと」


「いや、それって冤罪じゃ・・・・・・」


「何を綺麗事おっしゃいますの? 今更ですわね。赤狩りで血塗られていらっしゃいますのに、冤罪くらいで臆するとは・・・・・・逆に驚きましたわね」


 有坂総一郎の認識では赤化勢力とは違い国家転覆を謀るような存在でもない、よってそこまでする必要はないのではないかと考えていた。しかし、結奈の認識は赤化勢力と同じであり危険を放置するわけにはいかないというものだった。


「今の世はあの戦争から最も遠いところに来ているはず。それを引き戻しかねない歴史の修正力と私は考えていますのよ?」


「歴史の修正力・・・・・・確かにそうだな」


 東條は結奈の言葉に思うところがあったのか、そう呟くと押し黙って考えを巡らす。


 実際、史実と照らしても日米戦争のトリガーとなった諸々の出来事が回避されていることから、何か他にトリガーになりかねない決定的な出来事がない限りは当面は安泰だろうと結奈は観測していた。それは東條にしても総一郎にしても概ね同様に考えていた。故に異を唱えることはない。


 決定的なルート分岐をしたこの世界であるが、どこに揺り戻しや修正力が動くかわかったものではない。それはアメリカ合衆国が上海を起点に中支へ介入したそれも支那事変という一つの出来事に対する修正力だと言えるだろう。ただし、変化が生じたのは大日本帝国が中支から手を引き、列強とともに満州と北支に集中したからである。


 しかし、修正力がまだいくらかの余地が残っているとすれば、その火種になるのがこのアジア主義者や大陸浪人の謀略だろうと結奈は解釈していたのだ。


「閣下も旦那様もこの皇紀2597年(昭和12年)という年を甘く見ない方が良いですわ。本来、盧溝橋事件や第二次上海事変があったのは今年なのですから、まして去年は二・二六事件が発生しなかった・・・・・・そうなれば何がトリガーになるかわかりませんもの。引き金になりかねない事象はきっと他にもあると思った方が良いと思いますわね。そうは思いませんこと?」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一番真っ当なのは嫁であったと。 地雷原を目隠しで歩くならば、まずはそれらしいモノを取り払わんとなぁ
[良い点] ついに900話、おめでとうございます。
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