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原敬暗殺未遂事件

数日にわたって恐ろしい程のアクセスがあって驚きを隠せない次第。


読者諸兄に感謝申し上げる次第。

皇紀2581年(1921年)11月4日 帝都東京 東京駅


「奸臣原敬!覚悟!」


 帰宅ラッシュがひと段落した午後7時25分、一人の男の雄叫びが東京駅に木霊した。


 世にいう原総理暗殺”未遂”事件である。


 この日、総理大臣原敬は史実通りに立憲政友会の京都支部大会へ赴くため東京駅乗降改札へ向かっていた。史実であれば同時刻に犯人である中岡艮一の一撃によって即死し、大正デモクラシーは事実上幕を閉じたのである。


 だが、歴史は変わったのである……いや、捻じ曲げた者がいたのである。勿論、暗躍した人物は時空旅行者有坂総一郎その人であった。


――今この時点で原敬を死なせては帝国滅亡の歯車を加速させるだけだ。少なくとも関東大震災までは生き残ってもらわねば……。


 彼は宮田中将との密会後、宮田の紹介状を利用して秘かに予備役軍人を数名護衛役という名目で雇い入れ犯行現場近くに待機させ、中岡が動いた直後に取り押さえさせたのである。


「離せ!奸臣を討たんとする義挙を邪魔立てするか!」


 取り押さえられた中岡は暴れ、なおも原を討とうとする。だが、屈強の予備役軍人数名に取り押さえられては身動きが取れず駆けつけてきた鉄道公安官に引き渡された。


「原総理、御無事ですか?」


 総一郎は一連の捕り物劇が終わると同時に原の前に現れ無事を確認した。


「私は無事だが……君は?」


 原は見覚えのない人物たちの突然の登場に混乱していたが、周囲に無事であることを示した。


「失礼いたしました。私は有坂重工業の有坂総一郎と申します。総理の立憲政友会をご支援させていただいております」


「おぉ、そうか……支援感謝する……そして危ないところを救ってくれたようだが……」


「私共の下に総理の暗殺を企んでいる無頼の輩が東京駅で行動を起こすとタレコミがございましたゆえ、こうして参上致しました……どうか、ご安心くださいませ……」


「……やはりか……私も暗殺の危険を感じてはいたが……こうして現実となると……」


「総理にはまだ斯様なところで死んでいただくわけにはいかないのです、何卒、今後は警備を強化されます様……此度の京都行きですが、中止されることを進言致します」


「あぁ、そうだな……だが、中止など出来ぬ……」


 原は固い決意を示すような瞳で訴えかけた。


「では、我らがお守り致しましょう……」


「そうか、だが……」


「我らをお疑いであれば、帝国陸軍技術本部長、宮田中将が身元保証してくださいますゆえ、ご確認くださいます様」


「……うむ……わかった……あとは警察と協調して上手くやってくれ……」


 原はそう言うと改札口へ向かい、それに合わせるように護衛役とともに総一郎も続いた。


――これで大正デモクラシーの崩壊は防げた。次にやるべきことは……高橋是清大蔵大臣に公共工事の献策だな……。原内閣の我田引鉄は私にとっても都合が良いしな……。


 史実において原内閣は鉄道省を動かし、政友会の地盤固めと地元への利益供与のために鉄道路線の延伸を精力的に行っている。


 これに鉄道省の標準軌改軌論者が反発していたのである。輸送力、速度ともに狭軌よりも標準軌の方が大きいため、彼らは幾度となく改軌を要求し、実行せんがために行動を起こしていた。


 この時期に開発された機関車などの車両はいずれも改軌を前提とした設計を行われており、号令一下、すぐに改造する準備も進んでいたのだ。


 しかし、原内閣は、改軌よりも新路線建設による利益供与による票田の確保を優先したのである。当然、そんな計画であるから赤字路線だらけである。


――今ならまだ改軌も出来る。改軌が出来れば輸送力も増大出来るし、速度も増す。そうなれば物流が変わる。そして、公共事業で複線化や電化を進めれば貴重な産業資源の石炭の節約にもなる。そして……海上交通への依存を減らすことが出来る。自動車産業が未成熟の帝国では鉄道が全ての産業を支える動脈だ。


 寝台車へ乗り込む原を見ながら総一郎は次なる介入の算段をするのであった。

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