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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2597年(1937年)

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大連ヤマトホテル

皇紀2597年(1937年)2月26日 満州総督府領 大連


「かーくとくしたーけんえきをー♪」


「ぐんばつなんて♪ ふきとばせばいいー♪」


 満鉄経営のヤマトホテル、有坂総一郎御用達の大連における定宿であるが、大連駅至近で交通の便が非常に良いことが彼や多くの旅人に好まれ、満鉄もそれを理解していることだけあって連京本線の特別急行や急行とセットのパック旅行が組まれている。


 満鉄がパック旅行を始めた当初、ヤマトホテルの宿泊費が2割引というものであったが、満鉄沿線各地の旅館、ホテルなどが反発し、民業圧迫だと関東都督府、ついで満州総督府に訴え出ていたことから、後に満鉄線の運賃から乗車キロ数に応じた割引という形へと移行した経緯がある。


 結果だけ言えば、満鉄は本業である鉄道運賃収入をいくらか減収させることになったが、パック旅行の乗客数が増えたことで減収分をカバーすることに成功している。これは欧米系ビジネスマンの満州での活動が活発化を促すという効果があり、特にアメリカ企業の満州奥地への進出を促し、同時にフォード社やクライスラー社など自動車産業の誘致に大きく貢献していた。


 そんな満州経営に間接的にであるが大きく貢献することとなったヤマトホテルだが、その一室において上機嫌で調子の外れたそれで唄っている男がいる。


 ご存知、有坂総一郎である。


 彼がなぜここにいるか、それには大連に本拠を置く関東軍のとある人物が関係あると現段階では言っておこう。


「旦那様、それ、なんですの?」


「知らない? あの有名な列車砲なアニメの・・・・・・」


「いえ、それはなんとなくわかったのだけれど、歌詞が違うわよ・・・・・・調子が外れているのはいつものことだから、出来た嫁としては言わないことにするけれど」


――いや、言ってるじゃん。


 総一郎の心で突っ込むが、言葉には出来なかった。すぐそばにいる有坂結奈の視線が表情が笑顔でありながら笑っていないからだ。


「また悪い癖が始まったのね」


「ソンナコトハナイYO!」


 彼の背筋につーっと一筋の脂汗が流れる。すべてを見透かすクレヤボヤンス(千里眼)で見つめられるいるかのような気分だ。尤もそれは経験則であり、彼女に超能力などはない。


「あなたが出鱈目な替え歌を歌い始めるなんて碌なことがあった例しがないのよ。それも権益なんて口にし出したら謀略の香りしかしないわ」


 実際に彼女の指摘はかなりの精度の良さだ。彼が満州の地に出向いたのも謀略に関してのものであるのは間違いない。


「今の段階ではさすがに結奈相手でも言いにくいことではある」


「そうでしょうね、近衛公爵周辺のとある政治勢力が北支方面で何か企てているとなればなおさらね」


「・・・・・・」


「あら、なんで知っているという顔ね。私はあなたの秘書なのよ?」


「いつから秘書という役割はスパイと同義になった?」


「あなたがどんぶり勘定過ぎるのよ。今や秘書室はスパイ活動連絡事務所と化しているわ。陸軍さんの特務機関もびっくりよね」


「本業って大丈夫だよな? 秘書室の連中、業務過多になってないよな?」


「・・・・・・本当に何だかなぁよね? 秘書室の組織変更なんてずいぶん前に決裁しているはずよね、調査課を設置して増員しているわ。そうでなければ、あなたの謀略ごっこに付き合っていられないわね」


「・・・・・・」


「まぁ、いいわ。で、北支に用があるはずなのになんで大連なんかでこもっているのかしら。彼らの本丸は天津にいるんじゃないの?」


「天津のとある御仁は二匹目の泥鰌を狙っているようだが、決定打に欠けていて尻尾を出してくれない。今、ここで待機状態なのは泥鰌を引っ張り出す存在がどう動くかを慎重に見定めるためさ」


 天津に乗り込んでも尻尾をつかませない相手では分が悪い。しかも、天津は列強の租界で分割されている上に義和団事変以来列強が駐兵している。昨今は北京北洋政府を武力で脅して列強各国はその駐兵権を拡大解釈と適用条件の拡大を行ったことで、旅団規模の兵員が各国ともに駐兵している。


 まして、天津の警察権は駐兵権の拡大解釈によって列強の憲兵隊に移管され、北京北洋政府は手出しが出来ない状態である。こんな魔界に素人が踏み入ったところで魔界のルールで始末されるだけなのだ。


「普通の人間は天津なんて言う魔界に手を出しちゃいけない。そういうのは甘粕さんたち裏世界に生きる住人の領分だよ。だから、安全圏の大連で高みの見物さ。それにここなら内地との連絡もしやすいし、何より無敵関東軍のお膝元。東條閣下が守ってくれる」


「その東條閣下が、今夜訪れるそうよ」


「やっと時間を作ってもらえたんだな。あの人もこっちに来て本当に忙しそうだよなぁ」


「あなたと違って、真面目にご自身の仕事に取り組んでいるからよ」


 笑顔満面の愛妻の目は笑っていなかった。

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有坂総一郎支援サイト作りました。

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ガソリン生産とオクタン価の話

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鉄牛と鉄獅子の遺伝子

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