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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2597年(1937年)

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満州フロンティア

皇紀2597年(1937年)2月26日 満州総督府領 大連


 この世界において満州事変は張作霖爆殺と共に始まり、史実よりも早く完遂された。しかし大きく違ったのは満州国という国家が存在していないことだ。ラスト・エンペラーこと愛新覚羅溥儀もその御座所を天津に置いたままで新京に移動してはいない。


 帝国陸軍の一部では溥儀を担ぎ、それを以て独立国と為すべきという主張をしていたが、満州だけでなく北支の安定を考えたとき、天津にラスト・エンペラーを残置したまま将来的な清王朝の復古という御題目を掲げた状態で英仏独伊の欧州列強とともにこれを支える姿勢を見せる方が囲い込むよりもメリットが大きいと判断されたことで満州という広大な土地は支那から切り離されたまま正式な主を戴くことなく大日本帝国による統治下に収まっている。


 実際、満州国の建国を行うことは出来たが、史実のように間接統治ではなく、委任統治方式で実質的に属領化した方がメリットが大きいと有坂総一郎がロビー工作を行い、南満州鉄道もその権益を拡大出来ることからそれを積極的に周旋して回ったことで満州には総督府が置かれ、満鉄との関係が深い人物が総督として赴任することとなったのだ。


 満鉄総裁を経験した山本条太郎が初代総督として就任、35年に貴族院議員として帰朝するまでその任を全うし、満州総督府、南満州鉄道、関東軍という政財軍が密接に連携しつつ満州経済の掌握と支那色の払拭を遂行、これによって円ブロック化に成功したのである。


 また、軍隊輸送の要である満鉄の全線複線化、高速化が行われ、これに好景気に沸く内地資本が多く投下されることで大連-ハルピンを最高速度160km/h運転が実現。旧張軍閥が経営していた満鉄に対する並行線の満鉄への移管と整理廃線など行うことで輸送力の強化が為されることとなった。


 冷暖房完備の最新型客車を連ね最後尾に密閉式展望車を備える特別急行「あじあ」は満鉄の威信を賭けて30年から運転を開始し、概ね10時間で大連-ハルピンを結ぶ。表定速度は94.3km/hと史実よりも2時間半も速い運転を行っている。


 大連-新京は需要が旺盛であり、従来は急行が数本設定されていたが、それでは需給バランスが著しく損なわれるようになり、従来の急行は全てが特別急行に格上げされスピードアップが図られ、史実の「あじあ」と同等の8時間半で結んでいるのだが、その乗客の多くは日本人とイギリス人であった。


 北京-奉天-京城-釜山を結ぶ急行「大陸」「興亜」は満鉄が受け持つ国際列車であるが、天津に本社を置く華北交通が満鉄と英資本で等分された関係から増便されたそれらがロンドン・アンド・ノース・イースタン鉄道A4形蒸気機関車と同型の機関車を投入していることで満鉄の「あじあ」と同等の表定速度で運転を行っている。


 LNER譲りのカラフルな機関車群とそれに牽引される客車は東洋的な風景とアンマッチでありながらも、徐々に増えつつあった西洋風の煉瓦建築と相まって文明開化を感じさせる時代の変化を告げる一陣の風となっていたと言えるだろう。 また、A4形と同型の蒸気機関車を投入した背景には山東半島のドイツへの対抗心もあったと言える。英独の最高速度挑戦の激闘は本国だけでなく、極東においても繰り広げられていたのであった。


 尤も、更に南に行った上海-南京においても米資本鉄道が新型蒸気機関車を投入したことで一種の見本市が支那大陸において現出していたことも忘れることは出来ない。


 さて、そんな人流物流が激しく動く満州であるが、その性格上、日本国内扱いはされず関東州こそ国内扱いだが、それ以外はパスポートの提示や税関を通さないといけないこととなっている。前述の「大陸」「興亜」の場合、山海関と新義州でそれぞれ越境検査が行われ、非常に手間があった。


 国内向けには満州総督府領という自国領土に近い表記をしつつも、国外向けには満州特別地域というどの国の領土でもないという建前の表記が為されているのが理由である。そのために各国のスパイが満州では暗躍し、友好関係にある日英間でもスパイ同士の暗闘など日常の出来事である。無論、「あじあ」「大陸」「興亜」などはスパイ戦の舞台の一つだ。


 そして同時にビジネスマンにとっても同様に満州の地は戦場であった。日欧と関係が悪いはずの米資本も満州には参入して自動車のシェアでは半分を米資本が、機械のシェアは半分を独資本が、通信のシェアは英資本が握っている。意外と日本資本は浸透しきれていないのだ。だが、それでも満鉄付属地という特殊権益によって駅前の一等地や都心の優良物件は抑えられていることで欧米資本が鉄道沿線の都市部のシェアを拡大することは難しかったのである。

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