海上トラック<3>
皇紀2597年2月21日 大日本帝国 海上交通情勢
鉄道省は有坂総一郎や改軌派が主導する形で列島改造論を展開し、狭軌から標準軌への改軌を推進、これにより高速化と輸送単位の向上を目指した。
とは言えども、線路などをゼロベースで建設するのと違い、既存のモノを活用し、場合によっては線路の付け替えやトンネルの建設を行って出来る限りコストダウンを図りつつ列島改造論を現実のものとしていったのだが、中でも苦労したのが各地の難所であり、往々にしてそういった難所は地方線区に多く存在していたのだ。
その一例が北陸本線の木ノ本-今庄間の山岳地帯であったり、親不知子不知である。しかし、幸いにしてこの区間は日本海側に良港を抱えていたこともあり、鉄道省貨物航路としてコンテナ積載仕様の海上トラックが就役しこれによって代替することで難所のリビルドコストを抑えている。
だが、これは民業圧迫と海運業界から突き上げられ、しばしば帝国議会でも槍玉に挙がっている。歴代の鉄道大臣は新線及びトンネル建設資金が容易に調達出来ないこと、それらを投入すべきは東海道/山陽本線、そして弾丸列車であると主張して沿線の代議士たちを抱き込むことで追及をかわしているのだった。
しかし、鉄道省航路のそれはそのまま一つのビジネスモデルでもあり、日本海高速汽船という新潟市に本拠を置く新進の海運会社が鉄道省航路を真似した格好で新潟-小樽に総トン数10,000t級のコンテナ船を就航させ、毎日1往復運航を打ち出した。
この日本海高速汽船は他の内海航路の主要な寿命、価格、載荷半分シリーズとは異なり、帝国陸海軍が徴用する前提で補助金を出している優秀船舶建造補助施設に該当する仕様の貨物船を補助金交付を断り、自社運用するためだけに建造し、日本海航路に投入したのである。
最大速力26kt、航海速力25ktの高速力を持って日本海を17時間で走破することで東京発送の貨物を30時間程度で小樽へ送り込むことが可能となった。もっとも、この航路の最大の利得者は京浜工業地帯の企業や工場ではなく、新潟に進出し、工場群を形成していた理研企業団だった。
理化学研究所を頂点とする理研企業団は新潟に進出した工場や帝都近郊に存在する工場などに原料や部品を供給するにあたって、その供給地として北海道を選択、石狩、空知、夕張に点在する炭田に石炭液化事業所を建設し、同様に広大な土地を確保出来る千歳近郊に部品工場を建設したのである。
これら北海道の進出拠点から供給される資材を小樽港から新潟港へ出荷し、長岡近郊に点在する各工場へ送り、最終的に帝都近郊へ製品出荷するという流れを作り上げたのだが、その際に日本海高速汽船に出資して輸送ルートを担わせたのである。
理研企業団からの出資があったことから、海軍省や商工省の補助金を頼る必要がなくなったことで、これらからの横槍を受けない自由な設計で自社船を発注し、他の日本海航路を有する海運各社に対して圧倒的なアドバンテージを築くことになったのだが、それはまた鉄道省、海軍省、商工省に目をつけられる格好ともなった。
しかし、日本海高速汽船と同水準の大型高速船舶を運用可能な海運会社はそう多くはないため、同業他社は総トン数1,000-3,000t級の中型船舶の導入が関の山であったし、そもそも鉄道省と競合する路線へ総トン数1,000t以上のコンテナ積載仕様船舶の新規就航は邪魔されるため、運用が可能な日本郵船、大阪商船、三井物産、川崎汽船などはウラジオ航路、大連航路、北鮮航路、天津航路に積極的な投資を行った。
その結果、総トン数10,000t級のコンテナ積載輸送船は15隻が建造され、配船されると各航路で活躍し始めたのである。
無論、その影響をもろに受けたのが朝鮮総督府鉄道であり、釜山から満州向けの貨物輸送が激減し、赤字に転落することになる。鮮鉄はダンピングによって貨物の奪還を狙うが、そもそも総トン数10,000t級の輸送船と鉄道輸送では輸送力が違いすぎるため効果を上げることなく、赤字を増やす結果にしかならなかった。
海運業界が飛躍するとその反動で鉄道がダメージを受けるという結果によって、鮮鉄の貨物取り扱いは北鮮地区を除いて実質廃止となってしまったのだ。しかし、逆に空いた線路容量によって旅客列車の増便を行うことが出来る様になったことで、日満旅客輸送を船舶ルートから取り戻すことが出来た部分もある。とは言えども、鮮鉄の経営は苦しくなっているのは変わらない。
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