海上トラック<2>
皇紀2597年2月21日 大日本帝国 海上交通情勢
寿命、価格、載荷半分を銘打った文字通りの戦時標準船同然であるが、造りはだいぶマシな総トン数500tサイズの海上トラックが続々と建造されると近海航路がこぞって導入し、それに伴い、近海航路の定時運行/高頻度運行が行われるようになった。
この海上トラック普及で最大の恩恵を享受したのは四国であったのはある意味では当然のことであったかもしれない。
中小造船会社を合併してできた今治造船工業にとって最大の顧客は帝国海軍でもなければ、大手海運会社でもなかった。彼らの最大の顧客は本社の目の前に広がる瀬戸内海で航海をしている中小海運会社であり、漁師たちであった。
寿命、価格、載荷半分は瀬戸内海を根城して近海航路に就航する中小海運会社にとって小回りが利き、程々に荷を積めることこそが最上の魅力であった。特に潮の満ち引き、流れがせわしない瀬戸内海においてはその傾向が強い。
来島海峡など難所の多い瀬戸内海において大容積の大型船よりも寿命、価格、載荷半分の高頻度運航によって積み荷を捌く方がメリットが大きかった。これには四国の港湾設備が貧弱であり、大型船では荷役に時間がかかること、泊地が狭小という問題があったためで、それに比べると寿命、価格、載荷半分は比較的強力なデリックを備えていることで港湾設備の貧弱さを補えたからだ。
しかし輸送能力は大きく劣るデメリットはどうしようもなかったが、高頻度運航することでそれを補えば良く、港湾設備も24時間対応で稼働させるという荒業によって荷役量の不足を補っていた。
また、四国から京浜工業地帯へ直接海上輸送することも出来るため、四国瀬戸内海沿岸地区に部品工場が進出し、ここから京浜、阪神、中京各工業地帯への出荷も行われるようになってきた。これによって四国全体の工業出荷額が他の地域と比べて著しい伸びを示す結果につながったのだ。
意外に思えるかもしれないが、瀬戸内海地区だけでなく、北陸及び新潟の日本海沿岸も同じような状況が発生していた。
現代日本では大阪-青森を結ぶ日本海縦貫線を構成する北陸本線の沿線地域だが、時代が違えば条件も違う。市振-青海の親不知・子不知と木ノ本-敦賀-今庄の山岳地帯を貫通する長大トンネルが存在しないこの時代において鉄道輸送の難所を抱えている状態であると言っても良い。
鉄道省も標準軌化の列島改造によって線形改良を行ってはいるが、トンネル工事は数年単位の大事業であるため、北陸本線の長大トンネル工事はおいそれと行えない事情があった。そのため、福井-米原と富山-直江津の二ヶ所の難所がボトルネックとなっていたのだ。
しかし、この問題を簡単に解決する手段が寿命、価格、載荷半分であったのだ。鉄道省はこれを最大限利用して問題解決を図った。
「直江津-敦賀は船舶輸送に切り替え、この区間に貨物列車は原則走らせない」
代わりに直江津港に併設する大規模貨物駅を開設、同様に敦賀港の既存の貨物駅を改良し、ここからコンテナ積載専用の寿命、価格、載荷半分を両港間ノンストップと金沢港、富山港の経由便を運航し、これによって難所を回避することでボトルネックを解消しようと考えたのであった。
そして、北陸地区は鉄道省にとってはある意味では実験地域としてこれからの貨物輸送のモデルケースとして考えていたのだ。富山港、金沢港に隣接した非鉄道貨物駅からトラック便での貨物輸送を行い、戸口から戸口への輸送システムの構築のモデルとしたかったのだ。
無論、これは難所の改良が行われるまでの経過措置ではあるが、自動車普及が進み、道路事情が好転すればいずれどこかの時点で鉄道輸送<自動車輸送へと転換する際に鉄道省がどう生き残るべきかを見極める意味合いもあった。
また、宅扱急行貨物を東海道・山陽本線で運行し始めた鉄道省にとって戸口から戸口へは一種のスローガンでもあり、顧客への訴求にもなっていた。これを実現する手段の模索という意味合いもあったのだ。そして北陸筋にはコンテナ貨物のみ取り扱うようにし、他の貨車運用を中止して全国の操車場方式を廃止する先鞭にしようという目論見もあったのである。
そのため、寿命、価格、載荷半分の高頻度運航は鉄道省にとって好都合であり、3時間毎のノンストップ便、2時間毎の経由便を敦賀港-直江津港に運行させることとなったのだ。
しかし、直江津-敦賀において貨物/荷物取扱が全廃されたわけではない。郵便、現金輸送、手荷物、小荷物は従来通り取り扱いがあり、長距離列車に荷物車や郵便車を連結して運行が継続された。
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