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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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帝都密談<4>

皇紀2583年(1923年)11月25日 帝都東京


 有坂邸を訪ねた東條英機中佐は不承不承ではあったが有坂総一郎の言に従い、当面の皇道派の動きを静観することにした。


 コンコン


「失礼致しますわ……旦那様、お茶を淹れて参りましたわ……東條様、一息御着きになってくださいませ」


「あぁ、これは結奈さん、態々すまない、ありがとう……しかし、いつも思うのだが、有坂君には勿体ない細君だ……」


 頃合いを見てお茶を淹れてきた結奈に東條は礼を言うとともに社交辞令を口にする。


 東條の言葉に結奈はまんざらでもないという表情になる。


「いやですわ。彼あってこそです。それに、東條様は私の、いえ、私たちの正体を御存知のはず……私たちは助け合っていかなくてはなりませんから……ええ、運命共同体というものですわ」


 東條は結奈の惚気の入った言葉に若干引き気味であったが、「まぁ、有坂の妻だし、似たものかもしれん」と納得した。


「それで……東條様、星の数が以前より増えていらっしゃるのではございませんこと?」


 結奈も東條が昇進したことに気付いたようだ。


「御上の覚えめでたくあるようでな……前世よりも早く昇進出来た……御上の御期待に今度こそは沿いたいものだと思う……」


 東條は表情を引き締めた上で宮城の方角を見て呟いた。


「御上……今上帝ではなく、殿下ですね……」


 総一郎は余計なことと思いつつも東條の指す相手を訂正した。


「あぁ……君たちは知っての通りだ。私はあの時、御上の御意思に沿うことが出来なかった……だからこそ……」


「こうやって我が屋敷で密談をしているわけですね……ええ、だからこそ、私も東條さんになんだかんだで協力しているのですよ……特に陸軍への支援を優先しているのもそのためです……」


「何故、貴様は海軍ではなく陸軍を支援しておるのだ? 対米戦を考えたら海軍であろう?」


 東條は今更の疑問を口にした。


「それは……」


 総一郎が言葉を紡ごうとした瞬間、結奈が先に答えた。


「海軍は大変頭が残念な方が多いのですわ……理数系が必須の集団であるはずなのに、あの方たちの頭の中には筋肉が詰まっていらっしゃるんですもの……お話になりませんわ」


「なっ……」


 東條は絶句した。あまりの毒舌に東條は驚きのあまり言葉を失ったのである。


 だが、実際、総一郎が積極的に海軍へ協力していないのは事実であり、結奈の言葉にもある通りで話にならないと思っているところが多分にあった。


「東條さん……あまり結奈の毒舌を本気にしないで欲しいのですが……まぁ、そう言うことです……例えば……電探の話が適当でしょう? 八木アンテナは来年発明されるはずですが、その八木アンテナを知ったのはシンガポール陥落後のことです……しかも、その時点でも闇夜に提灯と馬鹿なことを言っていた連中ですよ……相手にしてもらえると思いますか?」


「あぁ、いや、確かに……我が陸軍ではワンワンレーダーと陰で言われていたが、超短波警戒機甲を開戦時点で実用化していた。それに比べ……あの連中は18年以後にやっと……」


 そうでしょう、そうでしょう、と、総一郎は東條の言葉に頷く。


「まぁ、誰の入れ知恵かわかりませんがワシントン軍縮会議の結果が史実と異なる形になったので、開戦予定の昭和16年から18年の間には恐らく空母は史実の6隻よりも遥かに多い8~12隻規模にまで増えるでしょうが、連中のことです……補助艦艇や輸送船団護衛艦艇の整備までは気が回らんと思います」


 総一郎の言葉に東條も深刻な表情をして応じた。


「あぁ、前世ではガダルカナル島、ソロモン諸島での戦で貴重な商船を満足な護衛もつけずに運行して次々と沈められてしまったからな……そして、必要に迫られて建造した海防艦は数が揃った頃には制海権を失っていて、商船諸共潜水艦の餌食と来たもんだ……」


「その時、総理として東條さんは国民生活や国内での生産に必要な船舶の確保に頭を悩ませていたと聞きますが……」


 総一郎の言葉に東條は頭を抱えて呻いた。


「あぁ……あの時は海軍の馬鹿どもだけでなく、陸軍も国内事情を考えず自分たちの都合だけで船舶割り当てを要求しおった……おかげで南方からの物資還送が破綻した……あの馬鹿のクビを飛ばす代わり船舶割り当てを認めさせられたのは今思っても痛恨事だ……」


 東條の苦悩は続く……。

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