次期主力戦闘機とウラル爆撃機
皇紀2597年2月10日 ドイツ情勢
ドイツ空軍ではHe112が採用されたことでBf109は不採用、改修指示が下されていた。しかし、He112に問題が全くなかったかと言えばそうでもなく、外側引込式主脚が離着陸時の事故を多発させていたことでドイツ航空省はこれを問題視していた。
しかし、Bf109の改修を指示したことで配備可能な戦闘機が実質He112しかなかったこと、競作時点でHe112の方が総合性能で上回っていたことからドイツ航空省はドイツ空軍向けに生産続行指示を出さざるを得なかった。だが、なんの策も講じることなく量産を命じていたかと言えばそれもまた否である。
ドイツ航空省はハインケル社に弱点であった主脚の構造を変更するように指示を出し、それに対してハインケル社はHe113の設計プランを提示したのである。しかし、その試作機は確かに総合性能ではHe112を上回る各数値を叩き出していたが、軽量化が祟り各種故障を多発させていた。
これにドイツ航空省は頭を抱えていた。改修指示を出そうにも強度不足を改善すること自体は難しいことではなかったが、純粋に重量増を招き、その分だけ性能低下が見込まれることが確実なだけにハインケル社の新型機への扱いを持て余していたのである。
ハインケル社は関係の深いエルンスト・ウーデットをテストパイロットとして高額のボーナス付で招聘してドイツ航空省とヘルマン・ゲーリング国会議長にアピールすることでHe112と同様に採用を勝ち取ろうと画策していたのだが、空軍軍政部長としてHe112採用に関与したアルベルト・ケッセルリンク大将がこれに異を唱えた。
「性能は申し分ないが、それは試作機として運用する分の話だ。戦場で、飛行場で実際に運用するとハインケル社の航空機は非常に問題があると言わざるを得ない。特に生産性の悪さや被弾脆弱性はメッサーシュミット社の試作機と比較しても明らかであると言わざるを得ない」
航空兵大将に昇進し、空軍参謀総長や第1航空艦隊司令長官といった現場を指揮する立場になったケッセルリンクにとって戦場の軍馬を望むことはあっても、競馬場のサラブレッドは必要なかったのだ。
「確かにHe113はソ連のSB高速爆撃機を邀撃するのに最適な速度性能を有していると考えるが、それはメッサーシュミット社のBf109Dでも十分にそれを満たせる。それにDB601発動機の供給問題もある。似たような性能の機体を併存させる必要はないのではないだろうか?」
メッサーシュミット社を擁護するような発言をケッセルリンクはしているが、彼はメッサーシュミット社から何らかの便宜を図って貰っているわけではなかった。純粋に戦力の充足に対しての冷静な計算をした上での見解であった。
「では、丁度良い戦場であるスペインにHe113とBf109を投入してみようではないか。どちらが戦場の軍馬として適当か、現場に判断を委ねてみよう」
ゲーリングは航空次官のエアハルト・ミルヒに命じるが、ミルヒはこれに渋い表情を浮かべる。本心ではゲーリングの判断に異を唱えたかった。しかし、現実問題としてどちらか白黒つけない限り問題が解決するとは思えず、生産現場の混乱を承知の上でその命令を通達するしかないと自身を説得したのである。
「閣下、メッサーシュミット社にはBf110の増産と改良を優先させるべきだと私は考えますが、このことは心にお留めおき下さい。ウラル爆撃機の戦力化を考えたとき、単発戦闘機ではなく、複座戦闘機の充実なくば護衛が出来ぬのは自明なのですから・・・・・・」
「ミルヒ、君の言うことは尤もだが、これは政治向きの部分があるのだ。目を瞑ってくれ給え」
「機体製造は兎も角、DB601の製造は頭打ちですからこちらも対処せねばなりません。出来るならば、DB601以外で適当な発動機を載せた戦闘機の開発を行っておくべきであろうと考えます。比較的余力のあるフォッケウルフ社などが適当でしょう。また、ドルニエ社、アラド社などの余力がある企業にもいくらか仕事を振っておかなくてはいざ戦時となったときに増産が可能となるまで時間が掛かります」
「さしあたってはJu87の増産が急務であろうからユンカース社の生産分を両社に割り振って、ユンカース社にはJu89とJu90に注力するように命じるならどうか?」
ウラル爆撃機計画のJu89は36年に初飛行して以来、各種試験をこなし、やっと量産に入ったばかりである。四発機の老舗とはいえどもこれほどの巨人機になると生産現場の苦労も大きく、月産数もまだ10機にも満たない状態であり2月に入ってからやっと所定の中隊編制が定数に達し、ニュルンベルクを拠点に訓練に明け暮れている。
「Ju89の量産体制が整えば我が空軍も戦略空軍として脱皮出来、ソ連への備えになりますが、本命のJu90は未だ試験飛行すら満足に出来ていません。ユンカース社をこれに注力させることは非常に有効に機能すると思います。Ju88なども出来ればドルニエ社に生産移管させたいくらいですが、そうなるとユンカース社の仕事が偏りすぎますからバランスを見ながらかと」
「よろしい。そのあたりはよく検討して生産移管に伴って生産数が急激に減少しないように留意してくれたら構わない」
ゲーリングの決裁を得たことでミルヒは航空次官として、ユンカース社社長として航空機生産の仕事に没頭出来ることになったといえる。史実では、ミルヒとウーデットが足を引っ張り合って航空機生産現場が混乱し、書類上は存在する幽霊機が発生していたが、この世界ではウーデットがドイツ航空省にいないことでそういった問題が発生していない。
「時機を見てコンドル軍団にJu89を派遣し、戦略爆撃を実施するように留意してくれたまえ」
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