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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2597年(1937年)

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バルチック艦隊の帰還

皇紀2597年(1937年)2月9日 ジブラルタル海峡


 フランシスコ・フランコ・バアモンデ率いる国粋派(正統)スペイン軍はスペイン本国の西半分を確保し南北打通も完了させ、首都マドリードこそ占領出来なかったとは言えども灰燼に帰すことでその威勢を示すことに成功していた。


 マドリードを捨てバルセロナに逃げ去った共和国軍は尚も徹底抗戦を主張し、ファシストを討つべしと盛んに国民を煽っているが、その内実、ソヴィエト連邦の影響下にある共和国政府及び人民戦線は、アナーキストやトロツキストを内通者として弾圧粛清するという内ゲバを繰り返している。


 ソ連側も人民戦線などを煽動こそしているが、実際には目の前の敵との決戦ではなく、内部闘争で戦力を消耗している共和国政府を半ば嫌気が差して見捨てていた部分があることも忘れてはいけない。義勇軍名目でスペインに上陸したソ連軍は共和国政府の指揮系統から外れ、また一部の部隊を逆に統制下に置くことで当てにならない共和国政府や共和国軍を直接指導する方向に方針を変更していたのであった。


 共和国側に国家的支援を行っていたのはソ連のみで、ソ連は現金決済による有償支援を基本としていたことからスペイン国家が内戦以前に保有していた金塊約700tの内、約500tの現金化分がそのままソ連側に引き渡されるべきものとなっていたのだが、その現金化がままならないことからソ連側が共和国政府を信用せずに直接介入しようという理由になっていたのである。


 この金塊取引は英仏の国家的妨害(信用取引拒否)、フランス銀行における決裁の意図的遅延(サボタージュ)によって金塊を現金化することが出来なかったこと、英仏及びスイスの銀行を通じたソ連への送金も紛争の長期化を懸念するという国際連盟の勧告が出たこともあり、ソ連の外貨獲得のチャンスはことごとく潰されていたのだ。


 日英独仏伊の列強が結束して対ソ反共の旗印で結託したことがスペイン内戦におけるソ連包囲網となったが、その裏でアメリカ合衆国は改装なったばかりのバルチック艦隊をソ連海軍に引き渡しを行っていた。


 資金不足などで改装はなかなか進まなかったものの、ソ連側から共和国政府の保有する金塊の譲渡という秘密取引が持ちかけられたことで急ピッチに改装が進められ、36年後半から工事が加速、主砲もアラスカ級戦闘巡洋艦の建造キャンセル分を流用することで換装され、同じ12インチ砲を搭載しながらその能力は実質的に14インチ砲搭載戦艦の水準にまで引き上げられていたのである。


 この改装バルチック艦隊は再就役した37年1月下旬から訓練航海と称してニューヨーク沖から一路地中海を目指しているが、その目的地はソ連領内への帰路という名目であった。また、「おつり」と称して平甲板型駆逐艦をダース単位で合衆国政府は改装バルチック艦隊に譲渡し、十分な打撃艦隊が大西洋上に忽然と現れたのであった。


 また、改装バルチック艦隊にアメリカ船籍の貨物船がソ連国内向けの輸出品を積んでいるという名目で数隻帯同している。各種物資には「From USA. To USSR.」と焼き印が入れられ、船倉には木箱が積み上がっている。


「この物資が届けば戦況はいくらか改善することだろう」


 ガングート艦上のニコライ・クズネツォフ大佐は併走する貨物船を見ながら呟く。


 彼はバルチック艦隊の改装が終わるまではドン・ニコラスの偽名で海軍駐在武官及び海軍主席顧問としてスペイン共和国に派遣されていた。フランコ率いる国粋派(正統)スペイン軍による行動やその政治的主張などを自身の目で見てきただけにファシストへの嫌悪感と敵対心が醸成されていたこともあり、今回の任務で改装バルチック艦隊を指揮することとなったときは文字通り天啓だと思った程である。


「しかし、この長砲身12インチ砲は良いものだ。ファシストやフランスの腰抜けどもの戦艦と撃ち合っても負ける気がしないのだからな。主砲が1基減ったのは惜しい気がするが、そのお陰で重量軽減と機関も新型の高圧缶を搭載して速度も段違いだ。装甲は流石に間に合わなかったが、ロートル艦であることを考えればこれでも十分だろう」


 ガングート級は元々背負い式の砲塔配置を採っておらず、それぞれが独立しているが、この改装で艦橋直後の第二砲塔を撤去し、ここに機関を集中配置し、機関出力の強化と防御上の弱点を改善したのだが、合衆国側の新型長砲身12インチ砲は主砲1基を撤去してもおつりが来る性能と太鼓判を押していたことから12インチ3連装3基となったことをソ連側も許容したのである。


 これらの改造が功を奏し、42,000馬力であった機関出力は85,000馬力に、22ktであった最大速力は25ktにそれぞれ性能向上していた。


 だが、いくらアメリカ合衆国の工業力や科学力が優秀であっても、元の入れ物のサイズが同じでは出来ることはそれ以上なかった。元々、弩級戦艦の種別ではあってもサイズが小さく、主砲換装においても連装4基とすることが検討されていたのである。しかし、それではソ連側が満足出来る性能ではないと駄々を捏ねた結果、工期がそれほど掛からないが、出来るところでなんとか誤魔化そうという方向になり、カタログスペックを優先し、多少の不都合には目を瞑ることにしたのである。それは合衆国側も自己責任と割り切ったのだ。


 その結果、生まれ変わったガングート級は艦橋も一新、第二砲塔を撤去したスペースに艦橋を拡大したことで良好な司令部施設を増設することが出来たのである。また第一煙突と第二煙突は一つにまとめられ艦のサイズにしては巨大な集合煙突となったのが特徴である。だが、そこでも問題があり、艦橋や煙突横のスペース不足であることから備砲の増設などは出来ず、オチキス13.2mm機銃を増設した程度に止まっている。


 結局は、何をするにも中途半端なフネだったのである。しかし、それは日欧米の列強視点からのもので、バルト海や黒海で運用するという前提ならば必要十分と言える性能なのである。列強の超巡規格にも劣る水準の旧式艦で用途限定の二級戦艦に欲張っても良いことは何もないということを示した一つの例だと言えるだろう。


 まぁ、なんにせよ、こうしてソ連海軍は砲火力においては有力な戦艦を手にすることが出来たのは変わらない事実であり、その能力を活かすも殺すも指揮官次第である以上はクズネツォフの手腕が問われるのである。


 そのクズネツォフは近づいてきたジブラルタル海峡を前に気を引き締めた。


 ここから先の海域は大英帝国の拠点であるジブラルタル要塞、そしてそこに駐留するH部隊と対峙しつつ地中海に突入することになる。大英帝国から仕掛けてくるとは思えないが、執拗に追尾されることは間違いない。


大英帝国海軍(ロイヤルネイヴィー)が盛大なお出迎えをしてくれるぞ。その後はイタリアファシストがフルコースを用意してくれているそうだからな、気を抜くなよ」

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