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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2597年(1937年)

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選挙対策のための戦争という真実

皇紀2597年(1937年)2月7日 支那情勢


 36年夏以後に中支那への派兵に踏み切って以来、連日のフィリピン(比島)からの渡洋爆撃にいよいよ流石にアメリカ合衆国も疲弊の色と機材の消耗が目立ってきていた。


 地上においても海兵隊の投入と沿岸支援艦隊の活躍で上海周辺の確保が出来たとは言えども、その総兵力は圧倒的に不足していることは海兵隊遠征軍からの報告でアメリカ大統領府(ホワイトハウス)も認識を改めつつあるが、踏み込んだ以上は成果を得なければならない状態に追い込まれてもいたのである。


 増援を得てから後、内陸への侵攻が進むと南京付近の安定確保までは出来、鉄道沿線の安定が図られると米資本の再進出によって上海・南京周辺は米資本一色に染まったことで戦時利益を出し始めていた。


 しかし、その戦時利益は文字通り収奪と地元資本の崩壊によって成り立つ歪なものであった。当然のことだが、支那人民の反感を買い不買運動や赤化勢力の浸透を許すことになるが、アメリカ合衆国にとってはそんなものは眼中になく、ラストフロンティアの開拓と自国権益の拡大にまっしぐらであったのである。


 だが、アメリカ合衆国の進撃はそこでストップした。


 支那本土は余りにも広かった。実質的に派兵戦力による確保出来る攻勢限界点を遥かに超えて進撃し続けてしまったことで各地に穴が開き、赤化勢力によるゲリラ活動や反米パルチザンが其処彼処で跳梁跋扈し補給が続かなくなり都市周辺以外の確保に影響が出始めたのである。


 蒋介石の中華民国国民党軍を指揮下に収め、これをもって地方平定を進めるが、元々戦意が低く、また同時にモラル低下が著しく軍閥出身の国民党軍兵士に秩序や治安を任せること自体が間違いであった。


 平定に向かった先々で赤化勢力による待ち伏せを受けて敗退するのは平常であったが、逆にパルチザン化して国民党軍に襲い掛かるなどということも頻発、更には逆賊討伐を掲げて略奪の限りを尽くし反米感情をさらに悪化させるなどという不始末も起こることで海兵隊会陰西軍総司令部を悩まし頭を抱えさせる始末だ。


 鉄道輸送こそ安定的に行われてはいたが、ゲリラによる破壊活動を完全に食い止めるには至ってはおらず、その復旧のために当日ないし数日がかかるというのも頭の痛い出来事であったことから、南京-上海間の輸送ルートをゲリラやパルチザンが手出し出来ない河川輸送に切り替えることが検討され、海軍にそれに適する艦艇の供出が要求されるのは自然な流れであったと言える。


 とは言っても、海軍にとっても河川航行可能な適切な戦力を有しているとは言い難く、艦隊司令部の一部で大英帝国の退役したバーフラー級二等戦艦相当の戦力が適当ではないかという話が持ち上がり、これに相当する艦艇が残存していないか精査したことで実質的に退役していた欧州大戦以前に装甲巡洋艦として艦隊に属していたテネシー級装甲巡洋艦の2隻が注目されることとなった。


 だが、旧ワシントン(シアトル)は宿泊船として留置され、旧モンタナ(ミズーラ)はスクラップとして売却済みで解体寸前となっていたが、合衆国政府が軍縮条約の失効を理由に解体に待ったをかけていたことから海軍籍にはないが予備艦隊として保管されているという状態であったのだ。


 文字通りの幽霊船同然のそれだったが、海軍中を探してもこれよりも適当な艦艇がなかった。これは別にアメリカ合衆国に限った話ではなく、大英帝国も大日本帝国も同様であった。確かに長江を遡上出来る艦艇はあったが、何れも軽巡洋艦や駆逐艦サイズであって、10インチ以上の主砲口径の砲戦能力を有する艦艇は皆無であった。


 そして海兵隊遠征軍が要望していたのはまさにこの種の艦艇であり、本音を言えば条約型重巡洋艦サイズが望ましかったが海軍における有力な戦力を要求しても通るわけがないため、欧州大戦以前の装甲巡洋艦規模のもので退役状態であっても改装すれば当面事足りるテネシー級装甲巡洋艦を特定出来る様に暗に示し要求したというのが真相なのだ。


 片方は宿泊船、片方はモスボール状態であり、普通に使える状態ではないこの両艦を戦列化するために4ヶ月の月日が掛かったがこれによって有力な地上投射能力を確保することに成功した。特に10インチ連装砲2基4門という列車砲並みの砲口径は地上支援には大きく寄与すると同時に他の備砲も6インチ単装砲が16門と師団砲兵が有する155mm榴弾砲と同等の火力支援が可能ある。その上で3インチ単装砲が22門装備されている。


 文字通り長江を征く動く要塞だ。


 相前後するがテネシー級戦艦が沿岸支援(ハルゼー)艦隊に配備されたが、新旧テネシー級が揃って支那方面に配備されることとなったのは何の因果であろうか、テネシーはインディアンを西へ追いやり、フロンティア開拓の最前線として機能した由来があるが、まさにラストフロンティアに対するアメリカ合衆国の深層心理に訴えかけるものがあったというべきであろうか。


 そして、アメリカ合衆国は海兵隊遠征軍の増強を決定し、陸軍師団を増派することとした。文字通り本腰を入れて中支那侵攻を行う意思を固めたことになる。だが、そうなると予算が問題となった。


 海軍が軍縮条約切れによって追加建造を要望していたアラスカ級戦闘巡洋艦の2隻分の予算が認められず、これを陸軍及び海兵隊の増強予算とされたのだ。これに海軍側は猛反発し、海軍長官が辞任の意思を示すこととなったが、ポスト条約型戦艦建造の確約によって折り合いをつけることで引き下がることになる。


 海軍にとっては支那派兵など不愉快なことでしかなかった。予算を横取りされるだけでなく海兵隊が独立していく様など見ているだけで胸糞悪いものでしかない。だが、支那派兵で海軍に出来ることなど何もなく、海兵隊に支援艦隊を供出する程度だ。それもまた海軍側にとって癇に障る出来事でしかない。


 だが、大統領府(ホワイトハウス)にとっては選挙対策になるラストフロンティアへのアクションは必要不可欠であり、経済政策でパッとしない以上は表向き戦争はしていないが、戦争特需によって経済刺激を与えることが出来る支那派兵は最重要政策となっていたのだ。


 目的と手段が逆転している様な気もしないでもないが、当事者にしてみればある意味では必死である。大統領選の予備調査では史実と違って経済政策の不振で大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルトに対する支持率が右肩下がりの傾向を示していることから共和党は政権奪還を掛けてキャンペーンを仕掛け揺さぶっているが、これに大統領府(ホワイトハウス)は神経をとがらせている。


 ルーズベルト大統領(大魔王)の進退のためだけに各方面が影響受けているという実態に当事者であるアメリカ合衆国市民が誰も気付いていない不幸な出来事であるというのが救えない事実であった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 支那という麻薬に手を出してしまったのだから止められんよなぁ〜 しかも、成果も見込める算段があるなら、止めるなんて選択肢自体が存在しない。 こうしてあのハゲに富を吸い取られて行くのか…
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