イタリア戦闘機開発問題
皇紀2597年1月31日 イタリア情勢
イタリア空軍はエチオピア侵攻に際して十分な準備を整えた上で行動を起こした。しかし、用意した戦力の面では十分ではあったと言えるが、その装備が結果において望ましいものであったかと言われると疑問符がつかざるを得なかったと言える。
特にSB高速爆撃機が少数といえどもエチオピアに到着し、義勇軍として運用されるという状態においてイタリア空軍のいかなる戦闘機といえどもこれをもって対抗するには荷が勝ちすぎたと言わざるを得ないことは現地軍にとっては共通の認識であった。
また、同じくファシズムを信奉するフランシスコ・フランコ・バアモンデが率いるスペイン反乱軍と対峙するスペイン共和国軍、人民解放戦線、国際義勇軍に同じくSB高速爆撃機が配備されたことが確認されると支援したCR.42では迎撃するのに適当ではないと完全に露呈してしまったことからイタリア本国においても戦闘機の高速化、新型機の投入が喫緊の課題として持ち上がってしまったのだ。
これに対して、当面は性能で十分な能力を有していて尚且つ輸出の余力があった川崎航空機のキ28改を大日本帝国から輸入することで手当し、東アフリカにおいては問題の解決を図った。しかし、イタリア空軍にとってこれはあくまでも場当たり的対処に過ぎず、いつまでもこれでお茶を濁すわけには行かなかった。
36年中に行われた空軍増強計画の仕様に基づいてマッキ社が開発中であったMC.200がキ28改と近似した性能であったが、これの初飛行はどう考えても37年年末であった。しかし、イタリア空軍が求める性能を発揮するのはMC.200が最適であったことから、36年末にマッキ社に改めて示した計画値に対してすぐさま性能改善指示が命じられるたのである。
設計にあたっていたマリオ・カストルディ技師はシュナイダー・トロフィー・レースで他国の設計者と鎬を削り高速機の開発を競い合った人物であり、このイタリア空軍の依頼に二つ返事で応じたという。
「本来、オレっちが開発しようと思っていたのはこういう機体なんだ。あんな非力でしかも空力的にナンセンスな機体なんか糞食らえってなもんさ。パイロットがなんだ、わかっちゃいねぇ小僧の寝言に付き合うのは勘弁な!」
カストルディがストレスを感じていたのはパイロット側からの各種要望を機体に反映させることであった。特に元々は密閉式風防を取り付けていた設計案であったにも関わらず「良好な視界を得たい」「風を感じないと速度の感覚が掴めない」との要望に応えることを強要され、結果、開放式風防と、くびれがついたファストバックという時代に逆行するような操縦席に改めることになったのだが、これが苦痛で仕方なかった。
その上、840馬力しか出ないフィアット社製のA74AC38空冷発動機で500km/hを出すという要求に従わないといけないというどう考えても無理ゲーだとしか思えない過酷な条件であったのだから、空力的にイケてないそれが足を引っ張るのは目に見えていただけに怒り心頭であったのだ。
「キ28改は良いネ! 液冷発動機のスマートさ、密閉式風防完備、主脚は固定式ってのがイケてないが、それはそれで大事なことだ。無理に新機軸を用いないのは技術者としては評価すべきものサ!」
彼は日本から持ち込まれたキ28改を満足そうに頷きつつ、嘗め回すように見ながら語る。
「残念なのはこの心臓たる発動機サ! だが、こいつはドイツからオリジナルを直輸入することで対処出来るから問題ない。しかし、本当に勿体ない。発動機がちゃんと動くなら最高な機体だなのに。カワサキは良い仕事をしているだけに本当に残念だ」
自分の考えている設計方針に限りなく近いそれであったのだろう。彼はキ28改を眺めながら仕切りに頷き、ブツブツと呟き続けている。余程、自分の設計に口出しされたのが気に入らなかったのだろう。今度は自分の意思を反映出来そうなだけに鼻息荒くキ28改をくまなく観察を続けるのであった。
キ28改を視察した数日後にはマッキ社からイタリア空軍にMC.200改のコンセプトが提示されていた。そこにある数字はイタリア空軍を大いに満足させるだけの数字であり、同時にそれを行うための必要条件を満たすことを強く要求されていた。DB601/DBA601の安定供給、ライセンス生産による国産化が望まれていたのである。
現時点においてイタリア国内でのライセンス生産はまだ行われておらず、キ28改用のDBA601がドイツから輸入されている状態であり、生産設備をダイムラー・ベンツ・アリサカ社から調達している段階であった。そのため、早急に国産化を行うことでイタリア国内において生産される非力な発動機から1000馬力を上回る高出力発動機に置き換えを望んでいたのだ。
ライセンス生産における問題はそれほど深刻なことになるとは思われず、ドイツ本国から技術者を招聘し、徹底した管理によって性能を担保された発動機生産が方針として立てられ、その生産パートナーとしてアルファロメオ社が希望として指名されたのは自然なことであったと思われる。
カストルディが技師として要望しただけでなく、マッキ社としても現実的に必要とする条件を考えれば1000馬力以上を発揮する発動機を望むのは機体性能を担保する最低条件であったと言えるだろう。
いずれにしても短期的にはキ28改でイタリア空軍は当然の問題に対処し、中期的にはMC.200改の投入という方向性に目処が立ったと言えるだろう。同時に発動機問題をクリア出来ることで他機種においても非力な発動機から換装するという最も簡単で効果的な手法を採用出来る余地が生まれたのはイタリアにとって僥倖であったと言える。
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