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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2597年(1937年)

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1937年時点での世界情勢<3>

皇紀2597年(1937年)1月1日 世界情勢


 軍縮条約の成果によって逆に自縄自縛状態となったアメリカであったが、軍縮条約が期限切れとなったことで彼等も足枷がなくなったことで動き出す。


 かねてから新世代戦艦の設計案の検討は常に海軍部内で行われ続け、欧州における仏伊の新世代艦が軒並み30kt/h付近であることから従来の標準戦艦では低速に過ぎることから中速戦艦が考案された。表面的には仏伊の新世代艦の範を取るという体裁であったが、41cm主砲に換装された金剛型や金剛代艦である出雲型を意識しているのは明らかであった。


 この中速戦艦は従来の「Mark.11 35.6cm砲」を改良した「Mark.B 35.6cm砲」を4連装3基装備し、装甲も35.6cm主砲弾対応、速力は28kt、基準排水量35,000tとして計画立案されていた。このMark.B砲は射程33kmと日本側の「四十五口径三年式四十一糎砲」の想定射程30km、自国の「Mark.1 40.6cm砲」の射程31kmよりも砲戦距離で優位に立てるものであったことから、無理に40.6cm主砲にする必要はないと考えられていた。


 尤も長門型の「四十五口径三年式四十一糎砲」は改装によって射程38kmに延伸していることから、この案でのアウトレンジ射撃による優位性はない。


 また、新標準戦艦という真の主力艦も構想され、主砲は45口径ないし50口径の40.6cm砲を3連装3基ないし4基、速力27kt、装甲も40.6cm主砲弾対応で排水量45,000tを見積もっていた。


 しかし、海軍部内での検討において両プランにそれほど大きな性能差が見えないこと、日本側の新世代艦建造の事実発覚などを考慮した結果、建造計画が見直しされることとなり、建造スケジュールが狂うこととなった。


 海軍部内の議論では大勢が新標準戦艦を優先すべきとしたが、逆に新標準戦艦は設計が煮詰まっていないことから、まずは中速戦艦を建造すべきと尤もな意見が提示されると議論は再び紛糾することとなる。


 この議論は36年の前半を無為に空費させることとなった。しかし、造船所の方では中速戦艦が既に起工されていたこともあり、結論が出るまで当面は工事の続行が命じられていたこともあって、結論が出るまでには艦体工事の工程1割が消化されてしまっていたのである。


 こうなると最早、工事打ち切りを命じる方が非効率であると判断され、当初予定通り1、2番艦の建造が推進されることとなった。起工寸前であった3番艦以後の建造は中止され、36年中に新たな結論を出すことが決定されたのであった。


 だが、そうなると中速戦艦とはなんだったのかという話が持ち上がってしまい、アラスカ級の追加建造でも十分ではないのかという意見が出始めると今度は艦隊側からストップが掛かるという始末であった。


 艦隊側にとっては中途半端な性能の艦よりも打撃力ある強靱な戦艦が望ましく、特に老朽化が目立ってきたフロリダ級やワイオミング級の代艦を確保したいという要求にちっとも応えていないことが不満だったのだ。


 これによってアラスカ級の増勢という話も立ち消えとなってしまう。しかし、結論は当然出ないことで建造中止となったはずの中速戦艦の3-6番艦建造が再び浮上してきただけでなく更に2隻の追加建造まで要求され始める。


 だが、35.6cm砲では対日手当としては不足することは変わらず、量的優勢を確保するにしても大西洋の分を考えると中速戦艦は12隻程度の増勢は必要と見積もられていた。


 無論、そんな増勢を行うことは現実的に可能であっても他の艦艇の建造に影響を与えることになるだけでなく軍縮条約で中止したダニエルズ・プランを復活させる規模と言ってもよい。それだけに膨大な海軍予算の要求を通す必要があった。元々の建造計画の倍を要求するには合衆国市民を説得する材料が足りないことをアメリカ海軍はよく理解していた。


 だが、同時に造船及び重工業メーカーにとっては大歓迎の出来事ではあり、またその経済波及効果を考えれば合衆国政府を口説き落とす自信も同時に海軍部内にはあり、特に海軍びいきの大統領に囁きかけることで数年計画で実現する可能性は十分に存在していたのだ。


 しかし、当面の問題として限られた予算を振り向けるにはアメリカ海軍の置かれた状況は余り好ましいものではなかったのは事実であった。特に36年後半からの支那への介入は海兵隊と陸軍予算の拡大に直結し、補正予算が組まれることとなったが、その際に海軍は割を食ってしまったのである。


 「陸での戦いに海軍の戦力は必要ない」


 こう言われてしまうと海軍側に抗弁することは難しい。仮に出来るとしても航空母艦からの航空機による地上支援や沿岸地域に限って艦砲射撃による地上支援が関の山だった。しかも、航空母艦に関しては海兵隊に一時的に指揮権を与えてしまったことで海軍の出る幕はなかったのだ。


 そして更に陸軍航空隊のフライング・ドミネーターズがYB-17Cによって渡洋戦略爆撃を行ったことで戦略爆撃機の価値と評価が大統領府において向上してしまったことで海軍予算はゼロ回答となりその分を陸軍と海兵隊に持って行かれてしまったのであった。


 これによって追加建造の可能性が実質的に潰されてしまった格好になった海軍側は既に認められている枠内の中速戦艦の3、4番艦については再度建造の訓令を出し36年10月に起工させたのであったが、そこには違いがあった。


 1、2番艦は35.6cm主砲装備で大西洋配備、3、4番艦は40.6cm主砲装備で太平洋配備としたのである。既に1、2番艦用の「Mark.B 35.6cm砲」の製造が始まっていたことからこれを無駄にするわけにもいかなかったが、3、4番艦は一旦建造中止が決まったことで砲身も同様に製造が中止されていたのだ。その結果、砲塔の再設計が行われ、かつてコロラド級が35.6cm主砲から40.6cm主砲に設計変更された事例をここでも適用したのである。


 また、現有するコロラド級4隻を全て太平洋に回すことで対日手当として砲戦能力の劣勢をカバーすることとしたのだ。しかし、このコロラド級4隻の太平洋回航は日本側を刺激する格好になったのは言うまでもない。

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[一言] 自作自演の船団護衛に必要と抗弁するかと思いきや保有枠内で対処しましたか。 金が無いので14インチ砲を搭載した低速戦艦群をデットストックの16インチ砲を連装形式で載せ換え、陸揚げした14イン…
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