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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

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大角の宿題

皇紀2596年(1936年)12月1日 帝都東京


 遡ること数日前、帝国議会の臨時議会において大角岑生海軍大臣は答弁の機会を得ていた。


 彼は史実と違い、帝国海軍としては異例の政治介入工作を活発的に行っており、独自のルートで帝国議会へ圧力を掛けたり根回しを行っていたのである。これもまた彼が転生者であるが故であろう。


「議員諸氏も知っての通り、我が帝国の裏庭である東シナ海において海賊が跋扈し、我が帝国の商船のみならず友邦の商船をも犠牲となっている事態に我々帝国海軍は結果しては指を咥えておったという不名誉な状態になっておる。これも我が帝国海軍が軍縮によって必要とする海防戦力の整備に遅れが生じたが故の不幸であると我々は帝国臣民へ陳謝しなければならぬ事態と考えておる次第であります」


「帝国臣民の血税を何と心得る!」


「海軍は税金泥棒ではないか」


「今飛び交っておる野次について、誹謗中傷であると申し上げるが、だが、一面においては事実となっておることは否定出来ぬことを重ねて陳謝する。しかし、これについて、政府及び帝国議会の協賛協力があれば本年中の解決は無理であろうとも来年度中に明確な戦果を示して大いに反論を述べさせていただく用意が我が海軍にはあります故、これよりその機会を賜りたいたいと存ずる」


「言い訳なんぞ要らん、結果を出せ!」


「そうだ、我らの選挙民が多大な損失を蒙っておるのだ、その責任は海軍大臣にあるのではないか!」


 答弁に立つ大角の元には与野党問わず野次と罵声が飛ぶ。速記官も流石に「野次多数聞き取れず」と表記をするしかないほどの騒々しさではあったが、大角はそれにもかかわらず自信満々に答弁を続ける。いや、答弁と言うよりは独演会というべきだろうか。議員の言い分など文字通りに無視して自分の言いたいことしか言わないし聞いていないのだから。


「我が帝国海軍は予てより多目的艦を建造しており、その任務に応じて兵装を自由に転換可能であり、海域警備から船団護衛、場合によっては艦隊護衛艦にまで転換可能な自由兵装艦艇を戦力化して主に東シナ海に展開しておりましたが、如何せん、予算の都合上、その建造には支障がが生じ海軍省が見積もりを出した水準には達しておらぬ状態にあると、まずはご理解願いたい」


「その東シナ海でタンカーなどが襲われておるではないか!」


「まさにその通りで、我々が配備した艦艇が順繰りに海域警備を行ってはおるにも関わらず此度の事態を招いたことは誠に遺憾の極み、されど、たかだか12隻程度の艦艇をやりくりするには東シナ海は広すぎると言うほか言葉が見つからぬのも事実」


「そんなことを言えば、太平洋はもっと広いではないか!」


「海軍予算をどれだけ増やせば気が済むのだ!」


「海軍は八八艦隊を再びやろうとしているのではないか!」


 野次の一部は大角の仕込みもあり、大角が望む方向へ話題を向ける役割もあった。故に議員連中もそれに合わせての野次を飛ばすことになる。


「今飛ばされた野次の中で、太平洋はもっと広いというものがあったと思う。まさにその通りで、我々が抱えている海域は東はハワイ、西はインド、南は豪州と大変に広い。これをまともに守ろうとすれば議員諸氏の思っている通り、海軍予算は非常に多く掛かることになる。故に、我々帝国海軍は航路防衛に関する提案を行いたい」


 大角の言葉に議会全体がざわつく。これもまた大角の根回しで商工省を経由して航路の国家管理の検討と効率的運行の研究を行っていたこと、その噂を意図的に流していたことによって議員たちが何を言おうとしているか感づいたのである。


「海相は海上航路を海軍が管理すると言おうとしているのではあるまいな?」


「まさにその通りで、限りある戦力を有効活用するには、各企業がめいめい勝手に運行するのではなく、定期集約運行を行うことで船団化し、これに護衛艦艇を振り向けることで定期巡回ではなく、船団単位の護衛に特化することで予算圧縮を図りたいと考えておる」


「それは海運各企業の競争を否定することになるではないか!」


「自由運行が出来なくなれば外国企業との競争力が低下し結果として海運業界全体の沈滞に繋がる。そんな提案は認められない!」


「海運団体側の言い分は十分に理解をしておるが、日本郵船、大阪商船、川崎汽船など大手海運企業に水面下に打診した際に概ね色よい回答を得ておるのだが、議員諸氏は一体いかなる理由で反発するのかお教え願いたい」


 大角の答弁とそれに対する反発、そこへの回答で議会は静まりかえる。野次を飛ばす側も業界を代表するという意識はあるが、その実、業界との意思疎通を図っていたわけではなく、業界が反発するだろうという憶測で野次を飛ばしていたに過ぎなかった。


「海軍側の提案はあくまで提案でしかなく、議会や政府、そして関係各省が関連業界との綿密なやりとりで判断することであると考えておる。だが、いずれにせよ、我が帝国海軍はこの広い海域で帝国に属する商船を守るという役割を負っておる。故にそれに応じた予算を認めて頂きたい。そうでないなら、海軍予算と別に海上護衛専門の官庁を設立し、ここで専門の部隊を編制し、商船の保護を目指すべきと心得る」


 大角はそう言いきると議場を後にする。残された議員たちは喧々囂々侃々諤々と議論を続けるが、彼には知ったことではなかった。しかし、彼は明確に商船護衛にはカネが掛かる、海軍が負担するならカネを出せ、そうでないなら別組織が負担しろ、別組織が負担するにしてもカネが掛かるのは変わらないと言い放ったのだ。


 帝国議会が、帝国政府がどう判断するのか、それこそ選良、選挙民の為すべきことと大角は宿題を突きつけたのである。

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[気になる点] 仮に、それによって海上保安庁が出来ても、戦時指揮権さえあるなら特にデメリットはない。海保法25条が無ければ、米沿岸警備隊だもの。
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