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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

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映画人の裏稼業

皇紀2596年(1936年)12月1日 帝都東京


 36年は秋以降、満蒙戦線は時折起こる国境での小競り合いを除いて比較的平穏な状況が続いていた。


 情報局による情報収集と帝国陸軍が抱える各特務機関からの諜報活動ではソヴィエト連邦が東トルキスタンにおける基盤整備や中華ソヴィエト(レッドチャイナ)への支援、そして第二次エチオピア戦争、スペイン内戦と各方面で暗躍していることが理由であると結論付けられていたのだが、A機関を率い、満州映画協会理事長である甘粕正彦は別の視点も示していた。


「日ソ間の奇妙な戦争における成果が出ないことへの不満を逸らすために他の材料があってそちらがある程度成果を出しそうだからそれに注力しているだけだろう」


 確かにソ連首相ヨシフ・スターリンは日ソ間の係争に拘り過ぎることで指導力に疑問符が付き、また赤軍粛清を実行したことで有能な将校がごっそり消えたという軍事的空白をどうにか誤魔化す必要があったことは間違いない状況だった。


「東條閣下もだからこそその隙を突いて帝都へ帰朝して陸軍省や参謀本部において、しきりに新型機の即時配備を要求しているのだろう」


「とは言っても、中島のキ19は年内に試作機を造ることが出来ず、三菱のキ21との比較がまだ出来ていないと先日中島大臣から伺いましたが……」


 有坂総一郎は甘粕の考えに理解を示すと同時に現状について関東軍総参謀長である東條英機中将の要望は通らないと暗に示す。


「閣下もそれは理解しているはずだが、それでも航空撃滅戦の根幹をなす新型重爆は一日でも早く欲しいというのは関東軍全体の総意だよ。在満イタリア駐在武官から聞く限り、ソ連が新型重爆を配備してこれが相当に高速で迎撃に苦労しているとか……欧州列強の在満駐在武官たちはしきりに満蒙の最前線で視察をしているそうだよ」


「新型重爆?」


「あぁ、御存知ないのか、なんでもSBという爆撃機だとか、今、A機関(うち)でも調べさせているのだが、東アフリカは非常に危険でジブチから出国することが出来ず要員を派遣出来ないせいで情報がどうしても断片的になってしまっていてなぁ」


 総一郎はSBという爆撃機に心当たりがあった。


「それはスペイン内戦にも投入されていたりしませんかね?」


「あそこも相当に泥沼化しているからな……情報が入りにくい。フランスからの情報では双発重爆らしいものがバルセロナに陸揚げされていると情報がある程度か」


 甘粕のA機関も万能ではない。入国出来ないのでは情報の精度が落ち、断片情報が基礎にならざるを得ない。まして協力者を仕立てようにもスペインは国を挙げての殺し合い(デスゲーム)の真っ最中であり、下手な動きをすれば敵対者に内通する裏切り者として始末される様な情勢であり、安易に手出しが出来ない状態であったのだ。


 だが、総一郎は一つの確信があった。


――史実ならば、スペインにも投入されて人民戦線政府が大量に供与されているはず。


「甘粕さん、東條さんに掛け合ってスペインに義勇兵を送る算段が出来ませんかね?」


「何を言っているんだい。あんな所に兵を送っても得るものなんてないだろう」


「そうでもないですよ。ソ連が兵器の実験場として新型戦車を送り込んでいるかもしれません。エチオピアよりも海路で補給が出来るスペインの方が何か得られる情報が多いのではないですかね」


「……有坂さん、言いたいことはわかるけれど……いくら閣下でもそれは無理だ。義勇兵とは言っても、それは表向きの話でその本質は国家が意図を持って介入するってことだよ。あなたもそれはよくわかっているはずでしょう?」


「……」


「仮に帝国政府、陸軍省、海軍省がそれを黙認したとしてもだ、満蒙でやりあっている我が帝国の民がソ連と通じる人民戦線政府相手に戦うってのは満蒙戦線に影響が出かねない。それこそスターリンはこれ幸いとハルハ河を越えてくるだろうさ」


「……それは確かに……」


「まぁ、蛇の道は蛇というじゃないか、そういう危ない橋を渡るのは俺たち裏方の仕事だ。あなたが渡る必要はないよ。裏社会に渡りをつけるのも俺たちの仕事の内さ。欲しい情報があるなら、それを駆使するだけさ」


 甘粕は国際的謀略(スパイ)活動に手を出すなと暗に総一郎を掣肘するが、そこには役割分担を忘れるなという意味もあった。


「あぁ、有坂さん、あなたが欲しい情報は閣下も欲しがっているだろうから何とかする。そこは安心して構えておいて欲しい。それに時間はかかるが、俺も映画人の端くれ、欧州に渡る用事の一つや二ついくらでも用意出来る。そうだな、ヴェネツィア国際映画祭など格好の舞台だと思わないか?」


 甘粕は焦って成果を出すのではなく、確実に欲しい情報を得るための舞台を設定し、それに向けて体制を築くという手法を取ると明言した。スペイン内戦が正統スペインや人民戦線政府が言う様に早期決着するとは考えていないからこそ、じっくりと外堀を埋めつつ機を待つのが最適だと甘粕が理解していたからの他ならない。


「わかりました。裏方の仕事には手を出さず、表の仕事に専念しますよ」


「ああ、そうした方が良い。汚れ仕事こそ俺の活躍する舞台さ、人の役割を奪っちゃいけねぇよ」

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