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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

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スペイン内戦<1>

皇紀2596年(1936年)12月1日 欧州情勢


 支那方面においてアメリカ合衆国は誰が敵かもわからない泥沼に足を踏み入れ、日英を中心とした列強勢力が傍観する中、イタリア王国は長年の問題を解決するためエチオピアに侵攻を開始した。


 大日本帝国はソヴィエト連邦とその衛星国モンゴル人民共和国との国境紛争という名の奇妙な戦争を続けているが、それでいて双方とも本格的な戦争に踏み込むことはなく、適度な緊張感を維持しつつお互いに小競り合いを繰り広げている。


 北支那方面においては張軍閥が蒋介石の南京国民党政府と妥協しながら北京北洋政府の一角にとどまるという不思議な状態が続いている中で、内蒙古付近の小競り合いを無視すると比較的平穏な状態であった。これも列強諸国の権益が複雑に北支那における関係を安定化させるために役立っているためと言える。列強諸国は権益を保護するために大日本帝国とソヴィエト連邦が本格的な戦争にならないように掣肘しているのだ。


 中華ソヴィエト(レッドチャイナ)はソヴィエト連邦の支援の下で私腹を肥やしつつ北京北洋政府と南京国民党政府の支配領域へちょっかいを掛けることで両者共倒れと列強間のパワーバランスを崩そうと画策している。その策にまんまと引っ掛かってしまったのがアメリカ合衆国であったが、そのおかげで南京国民政府の支配力低下という成果を得たが、同時にアカ狩りが支那全土で行われる結果を生み、延安に引きこもることになった。


 東トルキスタンは力の空白を利用して独立政権を志向していたが、同様に力の空白地帯であるここに影響力を行使しようとするソヴィエト連邦に付け込まれ、実質的にソヴィエト連邦の属国と化している。シルクロードを経由してのソ連製兵器が中華ソヴィエト(レッドチャイナ)に流れ、そして赤化ゲリラは支那各地で跋扈するという循環が構築されることとなったのだが、それは偶然の産物と列強のパワーバランスによる結果であったと言えるだろう。


 そんな中、欧州においても火種はくすぶっている。


 スペインにおいて王政が打倒され、第二共和国が成立した後、スペインの内政は常に安定を欠いていた。教会勢力は国粋主義者らと協調して共和国政府の政策に反発し、無政府主義者や共和主義者はこれらを弾圧しようと画策したことでお互いに同じ民族であっても政治的、宗教的な思想の対立を一層激しくし、親兄弟であっても敵対することへと繋がっていった。


 そして、一人の共和派が国粋派に殺害されると、今度は報復に国粋派政治家が殺害された。7月12日、13日の出来事であった。


 これにエミリオ・モラ・ビダルが首謀者として反乱決起した。モラはモロッコのメリリャで国軍の駐留部隊とともに決起し、これにフランシスコ・フランコ・バアモンデなど国軍の主だった軍人たちが呼応したのでる。


 元々参謀総長職にあったフランコは人民戦線政府に危険人物として左遷され、カナリア諸島駐留司令官とされていたのだが、モラが決起するとスペイン領モロッコへ飛び、駐留軍をまとめ上げ、スペイン本土へ上陸させた。


 幸い、国軍の多くは国粋派や教会勢力と繋がり、叛乱軍に加担し、その装備の多くを手中にしたことでスペイン本土への上陸やその後の進軍に大きく寄与することとなったが、途中、ドイツ国およびイタリア王国が叛乱軍を支持すると宣言し、これに軍事的支援を開始した。


 9月に入ると独伊の支援物資が届き、特にドイツ国からの軍備が定期的に届くようになると叛乱軍の装備が充実していくこととなった。この中でも、特に活躍したのがクルップ社から届いた”ラントクロイツァー・スレイプニール”であった。


 ”ラントクロイツァー・スレイプニール”


 大砲王ことクルップ社のグスタフ・クルップが自身に憑りついていた死神を退散させる原動力となった線路の上を走らない列車砲である。


 ドイツ国防軍でもその運用方法については一考に値すると評価されていたが、十分とは言えずとも列車砲を一定数既に保有しているドイツ国防軍では扱いに困っていた”ラントクロイツァー・スレイプニール”を実戦に投入することで評価してみたいと参謀本部は判断したことでスペインに運び込まれてきたのだ。


 トレドが陥落すると早速、フランコはこの”ラントクロイツァー・スレイプニール”をトレドに持ち込んで昼夜問わずマドリードへ向けて砲撃を開始させたのである。数十キロ彼方から飛来する砲弾が次々とマドリード市内に降り注ぐと人民戦線政府も腰を抜かして首都を放棄してバルセロナへと逃げ延びることとなった。


 だが、鉱工業地帯を抑えている人民戦線政府へ圧力をかけるためにマドリードを破壊しつくすと今度は北部戦線に転用し、ビルバオに鉄の暴風雨が吹き荒れ、前線よりはるか彼方から飛来するそれはいつどこに降り注ぐかわからないと心理的な圧力をかけるのにまさにうってつけの兵器となったのだ。


 尤も、足回りに大きな負担を強いることは変わりはなく、履帯の破損などしょっちゅうであり、叛乱軍にとっては手間のかかるお荷物でしかなかった。だが、それでも都市部に籠る人民戦線政府とその支持者にとっては恐怖の的であり、偵察情報によって移動が確認されるとパニックが起きたという。


 10月に至るとフランコが叛乱軍の正式な指導者に就任し、叛乱軍ではなく、正統スペインと称し、以後自軍だけでなく、支援国家にも国家承認を求め、自分たちはスペイン第二共和国ではなく、スペイン王国の正統な後継者だと主張したのである。


 これを真っ先に承認したのは言うまでもなく独伊両国であり、同様に大英帝国であった。


 大英帝国が人民戦線政府を否認したのは内戦が始まった直後、ジブラルタルへ人民戦線政府が攻撃を開始したことが発端であった。元々、ジブラルタルの領有権は英西両国の懸案事項であったが、ジブラルタル海峡を封鎖することで叛乱軍の本土上陸を阻止したいという考えが人民戦線政府にはあったのだ。


 ジブラルタル守備隊はそれほど多く駐留しているわけではなく、人民戦線政府軍の大規模部隊の攻勢ですぐに陥落すると思われていたが、ジブラルタルロックを要塞化して縦横無尽にトンネルを掘っていた大英帝国の守備隊は神出鬼没に出現し、人民戦線政府軍を翻弄し蹴散らしたのである。これによって大英帝国は人民戦線政府を宣戦布告なしに国土を侵略したならず者と認定したのであった。


 フランコは人民戦線政府を失敗を横目に要らぬ刺激をすることなく独伊と隣国ポルトガルの支援を受けつつ順調に支配地域の拡大と”ラントクロイツァー・スレイプニール”による心理的圧迫を続けることで人民戦線政府を追い詰めていく。


 10月末にマドリード前面に進出して攻勢をかけるが、人民戦線政府軍と国際旅団の活躍で頓挫するが、廃墟となった首都に要なしと被害が拡大する前に転進を決断し、北部と南西部の掃討を優先することにしたのだ。


 11月に至るとセビリア、マラガなどが陥落し国土の南北打通を完成させ、アストゥリアス、カンタブリア、パイス・バスコの北部各州に籠る人民戦線政府軍と国際旅団に圧力をかけている。北部各州は大英帝国の艦隊が海上封鎖を行い陸上の正統スペインと連携して南東部各州に籠る人民戦線政府軍と国際旅団との連絡を遮断し、フランスやソヴィエト連邦などからの共産主義者や社会主義者による支援を断っていたのであった。


 こうしてスペイン内戦の秋季攻勢は一定の収束を見たのだが、それは春季攻勢までの準備期間でしかなかった。

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