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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

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国際連盟会議

皇紀2596年(1936年)10月10日 スイス ジュネーヴ


 イタリア王国によるエチオピア帝国侵攻が始まると在ジュネーヴの国際連盟にエチオピア帝国はすぐさま戦争の停止とイタリアへの制裁を提訴した。


 しかし、周到に根回しをしていたイタリア王国によってエチオピア帝国の訴状は読み上げる機会を与えられただけで、英仏による圧力も得ることも出来なかった。


 この背景には当初、35年10月に東アフリカの乾季が始まる頃合に侵攻予定だったものを一年遅らせ軍備の拡充に専念したこととイタリア側がエチオピア側の自国権益への侵害やエチオピア国民への人道的な同情感の醸成といったものを積極的にアピールし続けてきたことによる。


 特にフランス領ソマリランド・ジブチとエチオピアの首都アディスアベバは鉄道で結ばれていることから難民がジブチを目指すことが多かったが、その難民をジブチ経由でイタリア領エリトリアに受け入れていた。これによって、イタリア王国は難民の保護者というそれとエチオピア人の庇護者という立場を確立することが出来たのである。


 無論、これは多くの場合は国際社会向けのアピールに過ぎないのだが、それでも国際社会はイタリアの大義名分を認めるには十分であった。また、欧州白人社会では十字軍論まで唱えられることも多く、それらは英仏の世論な中でもそれなりの支持を得ている社会現象でもあった。


 そして一年の猶予とそれの間にイタリア・エチオピア間での外交交渉という名の是正要求、監督指導が行われたが、目立った成果がないことからイタリア王国は国際正義という名の錦の御旗を掲げて堂々とエチオピア帝国に宣戦布告を行ったのである。


 こういった経緯からエチオピア代表の主張はその殆どが自業自得である、国際社会の一員として相応しくないのはどちらであるか明白と相手にされなかった。


 ただ、日本代表がかつての韓国統監府の例を持ち出して、イタリア王国による保護国化とその監督下で文明開化を目指し、その間は外交権の制限や軍備の制限を課すことを提案していた。しかし、日本側の本意はそこにはなく、アドバイザー兼調停者になろうとしたという国際的な評価を得るためだけのポーズで日伊間の秘密会合で談合が妥結していたのである。


 日本側提案にイタリア側もそれならば異存はないという姿勢を示すことで、イタリア側が折れたという形を演出しつつも実態はエチオピア側がこの提案を蹴る様に挑発や煽りをいれることを忘れなかった。


 エチオピア側もイタリア側の意図に気付いてはいるが、それでも妥協することは出来なかった。それは日本側提案が併合へとつながると理解していたからだ。そう、韓国統監府が朝鮮総督府と名を変えて大韓帝国が消滅した様に……自分たちの抵抗力である外交権と軍備を失うことの意味を彼らはよく理解していたのだ。


「一向に埒が明かないではないか」


 フランス代表が苛立ちをエチオピア代表へぶつける。これにはエチオピア側があらゆる譲歩や提案を拒否し続ける態度への不満の表れであった。


「今までの提案は一方的に我が帝国に不利なものばかりだ。我々もいくらかの譲歩は検討することが出来るが、これらはいずれもその一線を踏み越えているものばかりだ」


「だが、イタリア王国は貴国に対してこの一年で色々と有形無形の行動をとってきた。そしてそれを我々は理解し見守ってきた。だが、貴国はそれに何ら応えておらぬ。ゼロ回答である貴国へ我々が取り得ること、それが国際社会の総意であると理解すべきではないかね?」


 列強各国もフランス代表の言葉に皆一様に首肯し賛意を示す。文字通り四面楚歌に置かれているのは侵略者であるイタリア王国ではなく、侵略されている側のエチオピア帝国であったと嫌でも理解するほかなかった。


「だが、日本側の提案を受け入れれば何れ大韓帝国の様に国家滅亡への道を……」


「それは……亡国の道を選んだ朝鮮民族の自業自得であろう。我々は大日本帝国が1868年以後の文明開化の過程、そして日清日露の戦争という時勢、その間の大韓帝国の振る舞いとその治世を良く知っている。日韓併合(あの時)、我々列強がそれを是認、もしくは日本側へ協力を行ったのは日本側に理があったからであり、今もその考えは変わらない」


「……」


「貴国がかつての大韓帝国の様に保護監督していた大日本帝国、そして列強に最早処置なしと思われなければ良いだけのこと、要は貴国の行動如何であると考えるが如何」


 この瞬間、エチオピア代表の表情が凍り付いた。この理事会に居並ぶ国家で指導力と影響力を発揮し得る列強は全てが敵であると理解させられたからである。特に常任理事国の日英仏独伊は全てがエチオピア帝国の解体併合に事実上合意しているということを思い知らされたのであった。


「議長、議論は出尽くしたと思う。これ以上はエチオピア側からも実のある提案は出てこないだろう。採決に入られたい」


 フランス代表の提案で議長はそれを認め、採決が行われる。当然、エチオピア代表は議論継続を訴えたが認められず、日本側提案を連盟からの勧告としてイタリア・エチオピア両国へ下された。


 ただ、一国だけエチオピア帝国へ支持を示した常任理事国があったが、その真意は誰にもわからなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 半島はどうでもいいが、 一国だけエチオピア帝国へ支持を示した常任理事国とは……? 英か独か。
[一言] Kの国が、とばっちり?で 思っきりディスられてて、草生えたwww
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