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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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東條理論とその周辺

皇紀2583年(1923年)11月4日 帝都東京


 極東共和国政府の崩壊と極東共和国軍の降伏によってシベリア出兵は事実上の終結を迎えた。


 これによって浦塩派遣軍及びサガレン州派遣軍は国境警備に展開している第7師団と第8師団を除いて順次撤収が行われている。アムール川を基本的には暫定国境とし、アムール川対岸にあるコムソモリスク=ナ=アムーレとニコラエフスク=ナ=アムーレも引き続き占領下に置き、これの実効支配と周辺地域の確保を進めている。


 ソビエト連邦も極東共和国の崩壊を受け赤軍を派遣し、第7師団の先遣隊とソ連赤軍は先を争い旧共和国領域の接収を進めるが、両軍が鉢合わせをしたのがオブルチエだった。


 オブルチエで現地軍同士による会談がもたれ、暫定的にオブルチエ~チュミカンを停戦ラインとすることとなったのである。現地軍では直線で結んだ線としたが、後に日ソ両国の外交交渉により尾根筋や河川を国境線とすることが正式に決定されるが、それはまた暫く先の話になるのである。


 そして、11月3日……。


 明治天皇天長節であるこの日、東京駅に浦塩派遣軍の主要幹部が乗車した特別列車が到着した。彼らは東京駅から宮城まで凱旋パレードを行い、そのまま宮城において陛下へシベリア出兵の成果を奏上することとなっている。


 一行は接収したハバロフスクにおいて仕置きをした後、ウラジオストクに戻り、海路を利用し敦賀に上陸。敦賀港駅に用意された特別列車に乗車、そのまま北陸本線、東海道本線を夜通し走り抜け、東京駅に昼前に到着したのである。


 一行が……いや、荒木貞夫少将と真崎甚三郎少将が特別列車から降車したその瞬間、報道関係者のカメラのフラッシュがいくつも焚かれ、愛国婦人会の関係者と思われる少女から花束を贈呈された。


 まさに英雄の凱旋といった光景である。


 本来、その栄誉は司令官である立花小一郎大将が浴する立場といえるが、内地の報道関係者はビキン攻略戦、包囲殲滅戦、ハバロフスク強襲の立役者である彼らをこそ英雄扱いしていたのだ。


 この状況は浦塩派遣軍やサガレン州派遣軍の居並ぶ幹部たちにとっては面白くないものであり、ある意味では反感を持っていたが、戦功を横取りするような真似を彼らは出来ず、面白くはないが黙って見逃すしかなかった。


 しかし、この状況が面白くない人物は帝都には他にもいたのである。


 そう、史実においては皇道派の首魁である彼らと真っ向から敵対した統制派の首魁である東條英機少佐である。


「どうしてこうなった……あいつらがなんでこんな活躍をしてしまったのだ……予定が狂ってしまった……」


 東條は凱旋パレードを報じる新聞の紙面を眺めながら独り言を呟いた……。


 東條にとって排除すべき存在が何の因果か大きく成長しつつある状況に彼は焦りを感じた。


「このままでは2・26どころではない事態が起こるではないか……どこで間違えた……」


 東條は書斎にある机の鍵付き引き出しから前世の記憶を纏めたメモを取り出した。彼はこのメモに従って行動していた。当然のことだが、このメモ通りの行動をした結果もまた追加で記録されている。


 彼のメモにはいくつかの可能性や出来事の分岐(イベント分岐)による影響と方向性なども記されていた。だが、この事態は想定されていなかった。


「まさか、こんなことになるとは……。いや、まだ立て直しが出来る……政財界は有坂を使えば修正可能だろう……アレは今満州だと言っていたな……帰朝したらすぐに呼び出すか出向いて奴に働きかけをせねばなるまい……」


 東條は現状で自分の手駒と言っても良い存在が殆どない。目を掛けている士官学校の生徒は幾人かいるが、それらとて活躍するには早過ぎるため期待出来ない。あと10年も経てば一定の影響力を発揮するであろうが、今はその時ではない。


 元々、統制派そのものが東條の主催する派閥であったわけではない。東條もそれをよく理解していた。永田鉄山という巨頭を失った後に自分が後継したに過ぎないのだ。


 故に東條は史実以上に自身の与党を形成する必要に迫られていると改めて気付かされたのである。


「……内務省は……震災によって人脈も出来、信用も勝ち取っている……官僚はなんとか抱き込める……」


 史実の東條政権で自身を補佐した内務官僚たちをこの時点で幾人か既に面識を得ていた。例えば、井上孝哉、湯浅倉平など内務次官や警視総監という重職にある人物と交流出来る様になり、この人脈から内務省との強いパイプを築くことが出来ていた。


 特に史実において内務次官、内務大臣を任せた湯沢三千男との知己を得たことは大きかった。


 東條は引き出しからノートを取り出し、そこにいくつかの想定を書き綴り、考え得る限るの可能性を箇条書きで記していく。


 彼の頭脳の中で未来が大きく書き換わっていった……。

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