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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

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ミスター海兵隊

皇紀2596年(1936年)7月4日 中支那 上海沖


 上海沖に停泊した貨客船数隻から積載された上陸用舟艇が下ろされると縄梯子をつたって続々と海兵隊の兵士たちが舟艇に乗り移っていく。この時代において一般的な揚陸作業の光景である。


 砲や機関銃なども続々とデリックを用いて舟艇へと積み替えされては陸へ向かって航送されていくが、如何せん貨客船に備え付けられているデリックの数では捌ききれる数ではない為、時間が掛かる上にバランスを崩して海の藻屑と化している光景もちらほらと見られる。


「貴重な火砲をまた水没させやがった・・・・・・」


 海兵隊指揮官は船橋からその光景を目にする度に舌打ちしているが、他に有効な方法などないのだから仕方がない。LSTやLCU、LCVPなどの揚陸船艇は1940年以後に実用化されたものであり、その源流は大英帝国にある為、この時期ではこういった艀やランチを使ったものが一般的なのである。


 また、一大商港である上海であるとは言えども、接岸可能な埠頭や岸壁はもとよりタグボートも限りがあるため、直接港湾施設を利用することは現実的ではなく、こういった欧州大戦の頃と代わり映えのない揚陸/上陸の光景となっているのだ。


 尤も、大日本帝国はこの時期に先進的な大発動艇(大発)が実用化され、戦車の揚陸を可能としていただけ。無論、兵員輸送用の小発動艇(小発)も同様に実用化されていた。更に言えば、これらを効率よく運用するためにその母艦たる陸軍特殊船という強襲揚陸艦/ドック型揚陸艦を建造し運用可能にしていた。


 史実における神州丸とその眷属たる各種陸軍特殊船であるが、この世界でも帝国陸軍は真剣に研究し、史実以上にその建造を推進していた。特に大陸への航空機輸送と戦車を含む車両輸送の需要が増えていたことから、史実におけるあきつ丸相当に近い仕様のそれは既に2隻が就役し、同様に2隻が建造中であるが、それとは別に神州丸の拡大版である総トン数15,000トン級の貨客船スタイルの揚陸艦も2隻が就役、更に4隻が建造中もしくは起工予定となっている。


 こうした陸軍特殊船の量産と前倒し建造が可能になった背景には川南工業の躍進があり、瀬戸内海における造船所の増設や中小造船会社の統合による業界再編が大きく影響していたのだ。


 そんな史実でも先進的だった大日本帝国と違い、アメリカ合衆国は上陸戦というそれに対しては比較的後れをとっていたと言える。まして予算不足の海兵隊に過剰な期待や装備を臨む方が間違っているだろう。


 この時、アメリカ合衆国海兵隊が動員した戦力は最終的に増強を受けて4単位師団1個編制規模にはなっていた。元々は海兵隊には師団編成はなく、連隊規模での運用がもっぱらであったが、師団編制となったのは上級司令部として運用する必要があったからである。


 急遽仕立て上げられた第1海兵師団は師団本部スタッフも不足するなかで最大限の努力によってその体裁と指揮系統を確立したのだが、残念ながら実戦経験は明らかに不足しており、指揮官たちにとってはアジアという異界でどう戦えば良いのか不安を感じずにはいられなかった。とは言えども、部下にその様な表情を見せるわけにも行かず督戦し士気を鼓舞し続け自身の不安を隠す他なかった。


「奴らは悪魔でもモンスターでもない同じ人間ではあるが・・・・・・奴らを信用するな、奴らに隙を見せるな、それは貴様たちを死地に陥れる。侮るな、舐めてかかるな、徹底して掃滅せよ」


 アレクサンダー・ヴァンデグリフト海兵大佐は未知の異教へ不安に駆られる将校の中で唯一アジア地域に赴任した経験を持つ存在であった。


 27年に上海に派遣され居留民の保護に活躍し、数年間支那地域に赴任した後、帰国し上陸戦についてマニュアル作成に尽力していたである。そして35年に北京駐留海兵隊の連隊長として赴任した経験が買われて今回の海兵隊遠征へ抜擢されたのであるが、その彼であっても油断出来ないと考えていた。


「奴らは昼には媚び諂うが、夜には牙を剥いてくる。面従腹背とはこのことだと、支那(チャイナ)への駐在期間に嫌というほど思い知った。日本(ジャパン)や他の列強が自国の影響下から手を引いたのは正解だと俺は思う。ワシントンやニューヨークの連中はそれがわかっていない」


 司令部船の船橋会議室でヴァンデグリフトは居並ぶ将校たちへ悪態を吐く。ここに集う将校たちに楽観視する者はいないが、その中でも最もこの遠征に反対論や慎重論を唱えているのがヴァンデグリフトであった。


 実際に彼が支那駐在中に数多くの事件に遭遇していたことが支那への忌避感へと繋がっているが、大統領の特命、しかも本国世論の後押しというそれでは海兵隊どころか上部組織である海軍もそれを拒否など出来なかった。


 いや、どちらかと言えば海兵隊の中枢はこれを機会に海軍からの独立と予算拡大を狙って盛んに世論工作やロビー工作を行っていた節もあり、それ故にいざその機会が来たことで新編制の第1海兵師団を放り込んだという事情があった。


「今となっては致し方ないことかも知れないが、師団長閣下にはくれぐれも支那人(チャイニーズ)を侮った作戦を立案しないようにご注進申し上げる。奴らは日本人(ジャパニーズ)とは比べものにならないくらい狡猾で邪悪であり、容易に足下をすくわれますからな」


「あぁ、わかった。君の忠告は肝に銘じておく。他に何かある者は? 居ないようだな、では、諸君らも上陸の準備をしてくれたまえ」


「イエッサー」


 敬礼し終わると将校団は解散していく。その中で最も早く動いたのもまたヴァンデグリフトであった。

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