ホワイトハウスという魔王の城にて
皇紀2596年6月29日 アメリカ合衆国 ワシントンDC
5月29日以後頻発している米資本及び米資本と提携している在地資本への焼き討ちや略奪は都市から離れた農村地帯を中心に発生していたが、遂に米資本の本丸もしくは動脈とも言えるSCPRに手を出し始めたのであった。
上海-南京を結ぶ海南線を中心に営業路線を有するセントラル・チャイナ・パシフィック鉄道(SCPR)は毎日4往復運行される特急ペガサスの他に急行が同じく4往復運行されるほどのドル箱路線であり、ラスト・フロンティア・ドリームの象徴でもあった。
アメリカ現代建築の駅舎に建て替えられた上海駅にはSCPRだけでなく、上海-寧波を結ぶ海寧線などに路線網を構築するサウスイースト・トランスポーテーション(SET)も入線し、共同管理駅となっていて、さながらニューヨークにでもいるのでは無いかと錯覚する程にアメリカナイズされている。
たった今入線したばかりの海南線特急ペガサスを牽引する機関車はボールドウィン社が1910年代に製造したペンシルヴァニア鉄道(PRR)の旧式機関車であるが、ピカピカに磨き上げられ黒光りする車体は古さを感じさせずにアメリカ合衆国の自信と国力を示しているかのようであった。
その米国の威信を背負っているSCPRの海南線で複数地点同時に列車強盗と路線爆破が6月23日に発生したのであった。その復旧は迅速であり、27日には間引き運転とされてはいるが、特急2往復、急行3往復、区間運転各駅停車5往復までは復旧されているのだが、それでも米国の威信を根底から揺るがすだけのテロ攻撃であったことから在支那米資本よりも本国の大統領府の方が衝撃を受けたのである。
在支那米資本は昨今の情勢から鉄道への襲撃は時間の問題と考えていたことから6月中旬時点で従業員家族や主立った幹部社員は上海租界に避難を済ませていたこともあってこの襲撃による被害は実質的に皆無であったが、ニューヨーク証券市場はそういうわけにもいかなかった。
襲撃の一報が報じられるや鉄道関連株とラスト・フロンティア関連株が軒並み下落し、引き摺られる形で市場全体が暴落するという状態になったのだ。これにはラスト・フロンティア政策によって支持率を引き上げているルーズベルト政権にとっても打撃とならざるを得ず、慌てふためくこととなったのだ。
襲撃翌日の24日、SCPRには何が何でも25日には運転再開させよと大統領府から強い調子の命令が届き、SCPRは不眠不休の復旧作業を実施し運行速度を下げると同時に歩哨を海南線に設置して再襲撃に備えたのであった。
また、定期的に簡易装甲列車を運転し、これによって襲撃者に示威することで再襲撃を抑止させることとしたのである。その簡易装甲列車は文字通り簡易であり、大英帝国が上海に駐屯させているグルカ傭兵をそのまま借り受けて乗車させ、同時に機関車と貨車に鉄板を張付けた不格好な即席のものであったが、これを他の列車の運行の間合いに運転させることで定期警戒としたのである。
実際にその効果は十分にあったようで25日の夜間に線路爆破を狙っていた襲撃グループを発見、装甲貨車から躍り出たグルカ傭兵は我先にと襲撃者たちを狩っていった。ただ、数名をわざと逃がす形で狩りを行っていたことで逃げ出した襲撃者から口づてにグルカ傭兵は獰猛で凶悪だと伝わっていったことからSCPRへの襲撃は暫く行われなくなった。
だが、アメリカ本国にとって、復旧運転されるようになって、尚且つ襲撃者を撃退出来ればめでたしめでたしというわけにはいかないのである。
ルーズベルト政権にとってこれは屈辱であり、また政権のアキレス腱にもなりかねない事態だけに断固たる態度で臨む必要性に迫られていた。そうでなくても抗米蜂起の頻発に手を焼いていたこともあって、堪忍袋の緒が切れるといった状況であったのだ。
「補佐官、フライング・ドミネーターズと海兵隊の状況はどうか?」
フランクリン・デラノ・ルーズベルトは子飼いの大統領補佐官に状況を確認する。つい先日も報告があったばかりだが、それでももう一度確認してから大統領命令を出すべきだと彼は考えた。
「閣下、フライング・ドミネーターズはクラークフィールドに既に展開され、今は機体整備を万全にし、閣下の命が下るのを待っている状況です。また、海兵隊は沖縄沖を航行中で独立記念日までには上海に揚陸しているはずです」
「大変結構。では、3日に南京近郊のゲリラの拠点となっている都市にメギドの火を、裁きの鉄槌を下してくれる・・・・・・ふはははは、今に見ておれ、この儂に逆らったことを後悔させてやるぞ」
ルーズベルトの狂気の笑みに補佐官は一瞬たじろぐがそれでも彼の主人が発する次の言葉を待つ。彼もルーズベルトに仕えることになり暫く経つがそれによって踏み入れたその道を自覚してはいたが、それでもいくらか良心が痛む。しかし、それを見なかったことにすることを覚え実行することが出来るようになっていた。
「閣下、海兵隊から増派の必要性ありと進言がありましたが、如何致しましょう」
「それは安全保障会議で直接聞くこととしよう。私は最終的に決定する立場にあるが、私がそれを主張したという形にしないためにも彼らが議論を尽くした上での結論という形にしなければならんからな」
「では、会議の席上で聞くと返答しておきます」
「あぁ、それでよい」
ルーズベルトの指示を伝えるために補佐官は退室するが、ドアが閉まる瞬間、ルーズベルトは再び不気味な笑みを浮かべて高笑いしていた。
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