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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

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大東亜縦貫鉄道の幻影と罠

皇紀2596年(1936年) 満州・朝鮮鉄道情勢


 日独関係の結びつきの影響を受けたこともあり、当初予定された南満州鉄道で開発された蒸気機関車ではなく、ドイツメーカーからの導入とライセンスとなった鉄道省の新型蒸気機関車であった。しかし、それは朝鮮総督府鉄道が実質的に満鉄の傘下に組み込まれ、鉄道省向けに開発製造されていた機関車が導入されることとなったのである。この結果、満鉄・鮮鉄は一体運営が図られることとなった。


 そのため、朝鮮・満州・北支の輸送体系が一元化されることとなり、結果的に輸送の効率化と鉄道連絡がより強化される結果を生み出したのである。特に釜山-奉天-北京という国際列車運行が強化されることで北支地域経済の円ブロック化が進行することで北京北洋政府支配領域からの資源流入と日本による経済支配がより進んでいくこととなる。


 満州事変によって山海関以東が大日本帝国に制圧された直後には北京-奉天の直通列車が毎日9往復であったが、36年時点では15往復となっている。内4本はそのまま朝鮮半島を南下し釜山まで直通する。この増便の影響もあり、北京-奉天-釜山の複線化は31年時点で完了し、一部区間においては複々線化によって貨物列車の大増便に対応していた。


 また、ハルピン-新京-奉天-大連の縦軸も大慶油田の発見と開発の進行に伴い石油輸送列車が運行されるようになったことで、これもまた35年時点でチチハル-ハルピン-新京-奉天-大連が複線化され、更に輸送量の大きい新京-奉天間は複々線化し、撫順炭田と大慶油田の資源輸送を支えている。


 満鉄において新型機関車の開発を主導した有坂総一郎と島安次郎は鉄道省への売り込みに失敗したことで落胆してはいたものの北京-釜山直通列車や新京-釜山直通列車の運行増強に役立ったことで面目を保った。


 鉄道省が満鉄系機関車の売り込みを拒否した背景には帝国議会の鉄道族が巻き返しをしたことと政商として帝国政府や帝国陸海軍に食い込んでいく有坂コンツェルンとその関係者の影響力を削ぎたかった事情があった。


 とは言えども、実際には有坂重工業の鉄道車両工場には鉄道省からの発注もあり、結局は族議員と反有坂派の一定の政治的嫌がらせ程度の結果でしか無かった。実際、鉄道省にしても権益確保に有坂コンツェルンとの関係を絶つわけにもいかなかった。それだけでなく、他の車両メーカーも手一杯で引き受けて貰わないと輸送力増強など出来なかったという事情もある。


 この政治的嫌がらせに屈したことになる総一郎ではあったが、そこはそれ、満鉄から導入出来ないならと営業成績や中途半端な立場にある鮮鉄をターゲットとして工作を開始して満鉄と共に鮮鉄の経営権と運営権を完全に手に入れた。


 これによって朝鮮半島内の鉄道路線の整理と改良を行い、北鮮からウラジオストクへの短絡線を建設し、34年には正統ロシア帝国との直通運転を実施することで沿海州からの資源輸送、そしてアムール鉄道(旧シベリア鉄道ハバロフスク-ウラジオストク・ナホトカ)の経営権と運営権を満鉄の手中に収めたのである。


 34年当時の総一郎は帝都東京の本社でニタニタと笑みを浮かべつつ地図上に示される満鉄による支配領域を見てご機嫌な様子であった。


「これで正統ロシアが何かしようとしてもその富は自動的に満鉄に、そして我が帝国へと流れる・・・・・・ふはははは」


「旦那様・・・・・・キモい・・・・・・」


 執務室でケタケタと笑う姿には流石に妻であっても有坂結奈はドン引きであった。やっていることは国益になっているとはいっても完全に私物化であり、そのために散在した有坂コンツェルンの資産を考えると彼女がドン引きする程度済んでいるのがマシだと思うべきだろう。


「酷いな」


「酷いじゃありませんわ。統計上は黒字になっているように見えても、実際には輸送実績を考えるととてもじゃないですけれど船舶輸送に比べれば大赤字ですわ」


 結奈の言葉には嘘は無かった。


 輸送実績は前年比で比べると倍増し、確実に毎年増えるであろうことが予測されてはいた。しかし、そのために費やされる鉄道建設やそもそもの輸送力を考えるととても利益が出るとは言いがたいものであった。輸送の迅速化は大きく貢献しているが、その裏で輸送力の増強には軌道強化、車両の増強、操車場の処理能力強化など問題は山積みであり、特に機関車と貨車の数が圧倒的に不足しているのだ。


「機関車の数だけでも少なくとも1,000両以上の増産、貨車に至っては10,000両規模を必要とすることを旦那様はご理解なさっているのかしら?」


「それは・・・・・・」


「鞍山の製鉄所を毎日稼働させるためには鉄鉱石が5,000トン、石炭3,000トン必要なのはご存じ?」


「あぁ、そうだね」


「では、それを輸送するためには一体どれだけの車両が必要なのかしら?」


 結奈の瞳は益々フラットにそして少しずつ吊り上がっていく。


「ええと・・・・・・ざっくり300両程度必要になるね・・・・・・」


「ええそうよ。製鉄所一つ稼働させるのにそれだけ必要なのに、鮮鉄だけじゃ無くアムール鉄道まで・・・・・・手を広げすぎよ」


 この時の会話が東シナ海における海賊頻発やアメリカの支那への介入によって大きく影響を受けることとなるフラグとなったことはその時の彼等は知るよしもない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公夫婦の久しぶりの夫婦漫才・・・いいね!( ゜Д゜)b
[気になる点] 確かに内陸地である満州地域への鉄道路線増強は致し方ないにしてもウラジオストク方面や釜山から奉天への鉄路の増強の優先度は低いように思います。 もちろん戦争などで海路封鎖される心配もあり…
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