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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

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大角、動く

皇紀2596年(1936年)6月15日 帝都東京


 霞ヶ関の赤煉瓦街の一角を占める海軍省、その主は一人大臣室で笑みを浮かべていた。


 第二出光丸の遭難は海軍省が補助金を出してまでも建造を支援し、戦時徴用によって艦隊の給油を担わせるべきタンカーをたかが支那海賊如きに襲撃され、そして喪失したという失態であり海軍としては面子は丸つぶれであった。まして支那方面艦隊が派遣した巡洋艦は現場海域に到着するまで時間が掛かり結局何の見せ場も無く陸軍の魔改造装甲艇から移乗した第二出光丸の乗員を大連港まで移送するという役割しか示すことが出来なかった。


 であるにも関わらず海軍大臣大角岑生大将は誰も居ない大臣室で笑みを浮かべている。


 海軍の重鎮や海軍省各部は躍起になって財界、官僚、報道各方面に海軍は万全であるとアピールし石油危機など起こらないと盛んに発信していたが、その内心では帝国臣民一億の中で誰よりも焦りを感じていたと言えるだろう。


 史実で毎時400トンの重油消費と永野修身軍令部総長が開戦前の政府大本営連絡会議で発言し、石油資源の枯渇を不安視しているだけあって、海軍にとって石油の途絶は一大問題である。


 実際、この数日で艦隊派が中心にタンカーの増産を大角に要求して来ている。第二出光丸が遭難爆沈した直後に以下のような出来事があった。


「大臣、我々の研究会では今後東南シナ海の不安が増大する可能性が極めて大であり、この海域における船舶の遭難は海軍の・・・・・・いえ帝国の石油確保、南方鉱物資源の確保に極めて深い憂慮をしなければならない状況であると」


 艦隊派に与する佐官が大臣室詣でをして都度都度訴えているが、これは艦隊派の領袖である加藤寛治大将や末次信正大将らが自身が物申すと憚られることから自身に近い佐官を用いていたに過ぎない。だが、そんなことは百も承知の大角であった。


「貴官らの言うことは尤もであろうと思う。だが、今は海軍からそれを言い出すわけにはいかんよ。海軍省は世間に心配無用と盛んに発信しているのだからね。そんな中でタンカーの増産、補助金の支出を増やすと打ち出してみ給え、世論はあっという間に沸騰するぞ?」


 大角はポーカーフェイスで佐官連中のそれを躱していき言質を与えない。


「しかし、大臣」


「まぁ、聞き給え。私も理解出来ていないわけでは無いのだ。重油が無ければ船は動かん。しかし、海軍の面子をこれ以上潰すわけにもいかんだろう。何かことを起こすには時機というものがある。何、これでも機を見るに敏であると自負しておる。任せ給え」


 大角は自信に満ちた表情で佐官連中に言い放ち彼等を大臣室から退出させている。その日、大角が時期を待てと言った裏には彼なりの計算と仕込みがあったからだ。


 大角がその時のことを回想していた、丁度その時、大臣室の扉をノックする音が聞こえた。彼は浮かべていた笑みを消すが、それと同時に扉が開き彼の副官が大臣室へ入ってくる。


「大臣、お待たせしました。首尾は上々です」


「でかした」


「はっ、近々企画院と商工省とつながりの深い某代議士が海上交通路の安全を不安視し帝国議会において海軍省並びに海軍大臣へ答弁を求める運びとなりました」


「そうか、では、艦政本部の平賀をここに呼び給え。君も彼の所に行って必要な書類などを一緒に運んで来てくれ。彼に任せている仕事が必要になるからな」


「直ちに」


 副官は敬礼をすると足早に大臣室を出て行く。


 大角が望んでいた時機とはまさにこれであった。海軍が実利をとって帳尻あわせをするためにタンカー建造に踏み切るのは面子が潰れるだけだが、帝国議会を利用することで面子を保ちつつ実利をとるというそれが可能だ。


「議会勢力や官僚は上手く転がしてやるのがデモクラシーというモノの使い方なのだよ。彼等が気持ちよく我々のために働いてくれるようにお膳立てしてやるくらいの芸当を海軍軍人は覚えなくてはならん・・・・・・陸軍が出来て海軍が出来ぬというのでは省益の確保など出来ぬよ」


 独り言を呟く大角だが、それは史実海軍の政治力軽視、政治センスのなさを回顧してのものだった。


「八八艦隊を強引に進める程度の政治力があるならもう少し国内政治や世界政治にもう少し関わるべきだったのだよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] ここで大角さんが出てくるとは思わなかった。 確かに自然な流れでMEKOシリーズが建造できるな。
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