表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

846/910

海賊と言われた男の勘

皇紀2596年(1936年)6月10日 満州総督府 大連


 負傷者が出たとはいえ乗員を無事救出されたことに出光商会大連支社に集っていた出光佐三以下の幹部たちは皆一様に安堵の表情を浮かべていた。


「負傷した者たちには十分な手当と休養を与えて今後も活躍してもらわないといかん。無事に帰還した者たちにも十分な休養と家族との再会をさせて安心させてやらねばならん」


 出光のその言葉に社員たちは揃って頷きそして今後も彼の元で頑張ろうという意思を固めていたのだが、その言葉を放った当の本人は表情とは別に内心は暗澹たる思いを抱いていた。


 ――乗員は無事だった。それは幸いだったが、第二出光丸の喪失は会社としては非常に大きな損失だ。だが、それはまた建造すればよい。しかし、内地のあの狂乱、政府や軍部は冷静な対処と石油の途絶はないと必死に訴えていたがその裏で石油の内地へ還送に危機感を覚えているようだ。特に企画院の連中などは慌てふためいている。


 出光が内心で思いを巡らしているのは自社株が下がったことを含めてここ数日の株式市場の狂乱が国家の安全保障に直結していると感じていたからだ。


 実際、史実と違い、早い段階で自社保有のタンカーを運用している出光商会であるが、同様にタンカー事業を行っている飯野商事/飯野汽船、浅野物産が自前の1万トン級タンカーを保有している。しかし、他の山下汽船、川崎汽船、日東汽船などは他国のタンカーをチャーターして運用していた。


 最近になって川崎型油槽船が就航し始めて山下汽船以下のタンカー事業各社も自前のタンカーを保有するようになってきたが、その矢先における第二出光丸の喪失だった。


 表向きは平静を求めている中央官庁の中でも企画院が最も敏感に反応していたのは、その業務内容が内閣直属の物資動員・重要政策の企画立案機関であることからだが、その中でも石油関係にはその熱い視線を向けている。


 ――商工省の岸信介や椎名悦三郎、大蔵省の星野直樹など革新派官僚と近い存在が企画院には多く集って新たな利権集団を形成しようとしているが……彼らにとっても石油の重要性は理解出来ているだけに慌てふためくのは目に浮かぶわけだが……。


 この時点で1万トン級タンカーは各社自社保有分で総計20隻。外国船会社からの傭船契約が5隻。あとは1万トン以下タンカーが10隻、1000トン級内航タンカーが15隻程度である。これを多いとみるか少ないとみるかだが、企画院の視点では第二出光丸の喪失で黄色信号が点灯したようであるらしかった。


 ――帝都の本社には今朝の時点で代船建造の経済的余裕があるか、補助金活用で新規建造する気はないかと商工省の役人が提案という体を取って要請を出してきたというが、恐らく、他社が傭船契約を切られたことで石油の輸入見通しに暗雲が立ち込めてきたということなのだろう。


 出光の想像は実際には当たっており、川崎汽船に大英帝国のP&Oから傭船契約の終了が通達され、現在運行されている営口-川崎航路の閉鎖が確定したのだ。尤も、これは第二出光丸の喪失が直接の原因ではなく、頻発する渤海・東シナ海における海賊行為によってであり、第二出光丸の喪失が最終的な結論を出す駄目押しとなったに過ぎない。


 だが、この時点で2隻の傭船契約が破棄されるため、1ヶ月単位で8航海分、つまり8万トンの原油輸送が失われることとなるのだ。そして、恐らく残る3隻も海域の安全が確保されない場合、近く傭船契約が解除されるだろうことから、最大20万トンの原油輸送が失われることとなる。


 ――満鉄が鮮鉄経由で釜山まで石油輸送列車を仕立てたとしても一度に運べる量はたかが知れている。1両辺り35トン積みのタンク車で30両程度で1000トンしか運べない。そもそも満鉄もタンク車を大量の保有しているわけではないから1日1便が関の山だろう。そうでなくても満鉄のタンク車は関東軍への補給に使われておるのだから捻出など実質無理だろう。となると……。


「……店主、店主」


「お、おぅ、どうした」


「いえ、突然黙り込んでいらしたので何かと」


 出光は思考の沼に入り込んでしまっていた。心配した社員たちの声掛けで現実に戻ったが、その表情は疲れに似た何かを周囲に感じさせるには十分だった。


「あぁ、いや。構わん。あとは任せる。どうやら少し疲れが出た様だ、少し休むから何かあったら呼んでくれ」


「ええ、我々もここ数日気を張っておりましたからな、今日は皆早く休むようにしましょう」


「あぁ、そうだな」


 ――これは一筋縄にはいかぬ事態に進みそうだ。褌を締めなおして掛からねばならんな。

クリエイター支援サイト Ci-en

有坂総一郎支援サイト作りました。

https://ci-en.dlsite.com/creator/10425

ご支援、お願いします。


ガソリン生産とオクタン価の話

https://ncode.syosetu.com/n6642hr/

鉄牛と鉄獅子の遺伝子

https://ncode.syosetu.com/n9427hn/

こちらもよろしく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 大型化?大量建造? まあ、どちらにしても、このまま指を咥えて見て良い状況ではなくなった。 あとは、海上護衛総隊と掃討艦だな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ