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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

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東シナ海、波高し

皇紀2596年(1936年)6月8日 渤海・東シナ海


 実質的に列強諸国の庭となっている渤海。各国海軍の警備艇や巡視艦艇が海上警備を行っていることで世界で最も安全な海とさえ言われていたのだが、ここ暫くの状況だけ考えるとそうは言っていられない状態であった。


 最初は大英帝国が租借している秦皇島沖合で白昼堂々フランス船籍の貨物船が襲われたのである。しかも、この時運の悪いことに救難信号を発信する間もなく船橋を制圧され、船内各所もあっという間に制圧されてしまったことからこの遭難は当事者だけが知ることとなってしまった。


 昼間であり、世界一安全な海であったこと、また当直交代のタイミングで船員が持ち場に全員揃っていたことで制圧が容易だったという状況が重なった不幸である。逆に言えばそれだけ気が抜けていたとも言えるだろうか。


 このフランス船は何食わぬ顔で当初の予定よりも数時間の遅れだが寄港地の天津に入港したのである。この時、船員は船室に押し込められていて擬装船員が天津港における荷役を仕切り、何事もなく当初予定通りに出港していった。誰も何も疑う余地はなかった。唯一あるとすれば、便乗者が乗り込んでいったということだろう。


 それから一ヶ月、このフランス船が一切の連絡を絶ち、船会社から捜索願が渤海沿岸に拠点を持つ各国海軍に出されたことから事件が明るみに出たのだ。


 では、このフランス船はどうなっていたのか、それを追っていくこととしよう。


 4月13日、秦皇島沖で遭難

 4月15日、天津寄港、荷役

 4月17日、天津出港

 4月19日、威海衛寄港、荷役

 4月21日、威海衛出港

 4月23日、青島寄港、荷役

 4月25日、青島出港

 4月26日、消息を絶つ

 5月1日、上海朝興島江南造船所沖合の長江に投錨、艀を用いて荷役

 5月3日、江南造船所の船渠に入渠

 5月6日、出渠

 5月7日、上海出港、再度消息を絶つ


 犯行グループは青島までは当初の航海予定をこなしていたようだ。青島を出港すると一切の連絡を絶ち、そのまま上海に入港して船体を擬装すべく入渠していたのだ。フランスの船会社やフランス政府が上海に立ち寄ったことを知ったのはそれから10日も経ってからのことであった。


 しかも、上海要塞都市の目と鼻の先にいたことを後で知ったフランス政府は挑発されたと感じ、中華民国南京政府、蒋介石に直接抗議を伝えたのだが、蒋自身も当惑の表情を浮かべるだけだった。


 江南造船所は中華民国南京政府の管轄する上海兵工廠傘下であるが、海軍力を重視しない中華民国南京政府にとってはお荷物でしかないため野放しになっていたのだ。そういった事情から蒋の頭の中はクエスチョンマークが浮かんでいてフランス公使及び総領事と話が噛み合っていなかったのである。


 埒が明かないと考えたフランス政府は砲艦を江南造船所へ向かわせると船渠のゲートを砲撃破壊した。これには江南造船所から抗議がフランス総領事館へ届いたが、それをフランス側は黙殺している。


「賊に加担した輩が何を言うか」


 フランス国内は人民戦線と保守派に分かれて政争が繰り広げられていたが、派閥の枠を超えて一致した見解を彼等は導き出していたのである。


 そして、フランス政府やフランス国民が激怒していたのは4月29日に発生した渤海事件(日本側呼称:天長節連続テロ事件)にこの遭難フランス船が関与していたと判明したからである。それもそのはず、上海寄港時に身ぐるみ剥がれた状態で解放された船長以下の船員たちが数日後に保護され、フランス総領事館において証言したことで遭難時点からの出来事が明るみに出たのだ。


支那(シーヌ)討つべし」


「黄禍論はやはり正しかった」


 フランス国民感情はその報道が流れるやそう言った論調に支配されたのである。これはそのまま海軍への期待感へと世論が誘導される結果に繋がっているのだが、そこには予算獲得競争と予想される人民戦線との対決において軍部がその支持を得るために世論を煽った事情もあった。


 ともあれ、このゴタゴタの勝利者はある意味フランス海軍であったかも知れない。巡洋艦をダース単位で建造する予算が複数年執行であったが確保されたからだ。海外への緊急展開能力という面ではフランス海軍は日英米よりも遙かに劣るだけに巡洋艦戦力の充実は歓迎すべきモノだったし、財界も国民もそれを望んだのである。


 だが、このフランス船遭難事件とそれを利用した渤海事件(日本側呼称:天長節連続テロ事件)は列強の面子を潰すには十分なものであり、その事実が支那大陸全体に流布されると支那人民はそれを喝采し大いに溜飲を下げたのであった。


 しかし、面子を潰された列強にとって面白い出来事ではなく、消息不明のフランス船の捕獲と不穏分子の摘発と厳罰化が急務となったのだ。


 そして5月中旬以後、渤海及び東シナ海において海賊被害が多発することとなった。だが、列強各国共に自国の面子の為か、他国にはその被害状況を伝えておらずその対応はバラバラで情報共有が為されていない為もあり、その被害が連続することとなってしまう。


 5月15日、ドイツ船が青島沖の東シナ海遭難、消息を絶つ

 5月19日、イタリア船が天津沖の渤海で遭難、消息を絶つ

 5月25日、イギリス船が威海衛沖の渤海で遭難、消息を絶つ

 5月27日、遭難フランス船が杭州湾で座礁放棄されているところをアメリカ船が発見

 5月30日、フランス船が再び台湾海峡において遭難、消息を絶つ

 6月5日、第二出光丸が威海衛沖の渤海で遭難

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― 新着の感想 ―
[一言] 被害船籍が各国きれいに分かれているのに特定の国が混ざっていないのがあからさまですね。
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