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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

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フライング・ドミネーターズ

皇紀2596年(1936年)6月1日 アメリカ合衆国 ワシントンDC ホワイトハウス


 アメリカ合衆国大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルトは5月29日に発生した抗米蜂起の一報が入ると激怒し、執務机を両手で思いっきり叩いてその怒りをぶつける。


 無論、彼の優秀なスタッフは状況整理しつつ報告をしていると同時に入っている情報を管制し、小出しにすることで彼の怒りの矛先が自分たちに向かないようにしている。だが、その様な小細工は意味をなしていない。何故なら、支那と言うラストフロンティアそのものが彼にとって自分の庭であり、そこで好き勝手されたという事実が彼を激怒させているからだ。


「一体これはどういうことだ。支那人(チャイニーズ)にこれほどの屈辱を与えられるなど耐え難いことだ。蒋介石は何をやっていたのだ」


「蒋には在支邦人を保護するように国務省から何度も通告しております。が、その度に軍備を寄越せと要望が出るのです。その度に余剰兵器を放出することで彼の要望に応えておりますが、どうもそれらが横流しされた形跡がみられると上海総領事から報告が上がってきております」


 不愉快な情報をさらに伝えられたことでルーズベルトの怒りのボルテージは一段と高まる。


 彼にとって自身の庭であると認識し、同時に彼を支持する財界グループへの便宜を図る意味でも支那への進出は重要な政策でもあった。南京事件などで支那人の外国人排斥の兆候は見られていたが、十分な資金を投入すること、南京国民政府の軍事力や警察力による支配で飼いならすことが出来ると思っていたのだ。


 だが、現実は在支米企業は現代的奴隷制度を現地で導入したことによって反感を買っていたのだ。いや、彼ら白人からすると当然の感覚だったのだろう。何が不味かったのか、それそのものを正しく認識している者はホワイトハウスどころか全米でも数えるほどであっただろう。


「現地へ進出した企業から保護を求める陳情や強硬な意見では遠征軍の派遣を求める声が上がっています。これは対応を誤ると世論を敵にしてしまいます。閣下には慎重な判断をお願いするよりほかありません」


「そんなことは言われんでもわかっておる! 君らは今まで何をしておったのだ、こう言っては何だが、所詮は黄色人種だぞ。神から世界を指導するべくつくられたWASP(我ら)が一杯食わされるなどあってはならんことであろう」


 個人的な関係があるからこそルーズベルトは蔣についてはどうこう言わないが、黄色人種を一段も二段も下に置く差別思想は日常のことである。そうでなくても、白人は一般的にこの世を統べるべく造物された存在だという認識が罷り通っている。


「とは申しましても、蔣の統治力では支那(チャイナ)全土をカバーするには至っておりません。実際に彼が支配しているのは南京とその周辺でありまして……」


「君はこの蜂起がどこで起きたのか忘れておるのではあるまいな? その支配地ではないのかね? まぁ、よい。起きてしまったことをとやかく言ったところでどうにもならん。今は一刻も早くこの問題を始末せねばならん……」


 八つ当たりしたところで事態が改善するわけでもないことはルーズベルトも理解していただけに怒りをある程度発散したところで問題解決に乗り出すことにしたようだ。


「現在支那(チャイナ)に展開しているのは如何ほどの兵力か?」


「上海と南京に砲艦が2隻ずつ配備され、上海に海兵1個旅団が国際租界駐屯軍として駐留しております。また、閣下の善隣外交の結果で中南米から撤収し縮小された海兵1個混成旅団が南京、上海、杭州に分散配置されており、彼らが緊急出動し、残留邦人を救出しようとしておりますが、何分多勢に無勢であり、困難を極めているとの報告が入っております」


 ルーズベルトが大統領になった33年以後、中南米との関係改善と図るため段階的に海兵隊が撤退し、同時に規模を縮小させ経費節減を図って来た。これはそのまま軍縮をしているという国際アピールに繋がっていた。


 しかし、海兵隊も組織の生き残りを賭けて必死に各方面にロビー活動を行っていた。それがルーズベルトと繋がりを持つ財界グループであった。


「我々は不安定な地域における在外邦人を守る盾であり、支那(チャイナ)はまさに我々向きの任務地である。是非、財界からも口添えを願いたい」


 海兵隊側の周旋は財界グループにとっても都合が良いもので渡りに船であった。南京事件や上海要塞での戦闘、満州や北支における騒乱を見る限り、後ろ盾となる軍事力は彼ら企業家たちにとっても必要であったのだ。


 だが、財界も一枚岩ではない。ルーズベルトと懇意するグループは上海や南京を拠点に支那大陸へ進出し、列強が手を引いた中華民国の支配領域に食い込もうと画策しているが、その一方で自由貿易推進によるメイクマネーこそ望ましいと考える財界勢力はあの手この手で対日、対欧進出を考えていた。自由貿易とラストフロンティア独占という方向性がアメリカ国内での財界勢力同士の綱引き状態だった。


 自由貿易勢力にとっても海兵隊の展開は望ましいことではあったが、海兵隊はラストフロンティア勢力と結びついていたこともあり、自由貿易勢力には冷淡な対応であった。しかし、それは仕方がない部分もあった。


 33年以後に縮小傾向が続いていた海兵隊にどこもかしこも派兵するというのは現実的には無理だったからだ。36年年始時点では本国に2個旅団、上海の1個旅団、杭州と南京に展開する混成1個旅団の合計4個旅団でしかなかったのだから。それゆえに限られた戦力である以上はスポンサーとなり得る存在と結びつくのは自然なことでもあった。


「何を馬鹿なことを言っているのだ。支那(チャイナ)などに関わってもロクな目に遭わない。悪いことを言わぬから手を退け。他の列強が関わってないのは利益にならんからだと何故わからん。第一、自動車が売れる市場だとでも思うのか? 対日貿易を緩和して彼らに売る方が余程合衆国の利益になるじゃないか」


 ヘンリー・フォードはそう訴えていたが、大統領以下のラストフロンティア勢力には一顧だにされなかった。


ラストフロンティア(支那大陸)は我々にとっての大英帝国で言うところのインドだ。商売相手(ビジネス)ではなく、収奪すべき対象であり、売りつけ買わせる対象だ。対等な取引関係など不要なのだ。合衆国と我々資本家の養分になる存在である」


「合衆国の製品を売り捌くと同時に文明化して支那(チャイナ)を現代社会の一員にするには我々が導かなければならない」


 ラストフロンティア派の本音は多くの合衆国市民にとっても同じだった。欧州大戦の戦勝国として列強における地位の向上、世界の工場として大英帝国を抜き去ったそれは合衆国全体の自意識を引き上げてしまっていた。


 しかし、大恐慌でその肥大した自意識、自尊心をへし折られ、未だ景気回復を実感するには程遠い合衆国市民の感情として残された支那市場(ラストフロンティア)の確保と独占は譲れない一線になっていたのだ。


 こういった事情が重なった結果、海兵隊は何とか命脈を保つことが出来、ラストフロンティア勢力の傭兵的な立場で支那大陸へと派遣されることとなった。


「本国で錬成中の1個旅団を追加で派遣する必要がありますが、これには時間が掛かります。少なくとも7月までは現地で活動することは出来ない状態です」


 補佐官の回答はルーズベルトの機嫌をさらに損ねることとなったが、出来ないことをやれとも言えず腹に収めた様である。


「だが、それでは合衆国市民の腹が収まらんだろう。他に何か良い案がないのか?」


 こういった事態の場合、陸上兵力の展開こそが望ましい。しかし、海兵隊以上に陸軍は予算不足に陥っていたことでとてもではないが海外派兵など望むべくもない。それはルーズベルト本人がよく承知していた。


「現在、陸軍も軍縮によって大規模派兵出来るだけの戦力がありません。まして州兵など動員するわけにもいきませんから……陸軍航空隊のフライング・ドミネーターズが唯一比較的早期に展開可能です」


「フライング・ドミネーターズ・・・・・・あぁ、陸軍の重爆部隊だな。あれはまだ錬成中ではないのか? まだ機体も万全ではないと先日報告があったと記憶しておるのだが、報告したのは他でもない君だぞ」


 ルーズベルトは眉を顰めつつそう言うと面白くなさそうに安楽椅子に腰掛ける。


「そもそも、どうやって運ぶのかね。飛行して輸送するにも航続距離が足りんだろう?」


「多少の改造は必要ですが、爆弾の代わりにドラム缶を満載して飛ばせばいくらかは航続距離を稼げますからそれでハワイなどを経由してクラークフィールドまで向かわせます。あとはクラークフィールドからであれば南京まで往復4000km(2500マイル)程度ですのでなんとかなります」


「そう上手くいくかね? 実験部隊だろう」


「上手くいかせてもらいます。そうでなければ、巨額の投資をした意味がありません。また、世論対策にも丁度良いのです。聖書にあるソドムとゴモラを再現することで我々が裁きを下せるのだと知らしめることで合衆国市民の溜飲を下げることが出来ますぞ」


 補佐官はフライング・ドミネーターズの出撃を重ねて勧める。無論、これは機体名ではなく、陸軍航空隊の一部隊の愛称だが、ドミネーター(支配者)の名の通りに合衆国の威信を賭けて実行されている戦略空軍決戦思想を体現したそれである。


「XB-17はまだ試作機ではありますが、支那人(チャイニーズ)への裁きの鉄槌を下すには十分な性能を現段階でも示しています。大統領閣下、さあ、ご決断を」

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― 新着の感想 ―
[一言] アメリカ、ハワイ、フィリピン、中国を重爆でそのまま移動ってのは日本にとってもすごいインパクトになるでしょうね
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