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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2596年(1936年)

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第一次ノモンハン攻防戦<4>

皇紀2596年(1936年)3月10日 モンゴル タムスク基地


 雪がちらつくも風がそれほどない朝のことであった。


 夜明けの太陽を背にし轟々とエンジンの爆音を響かせながら飛行する4発発動機の重爆撃機が3機、直衛の戦闘機9機を伴って満蒙平原を東から西へと飛行している。


 彼等の目指す場所は満蒙国境から120km程度のソ蒙軍策源地タムスク基地だ。


 九五式指揮連絡機(和製シュトルヒ)によって送り込まれた深部偵察隊から得られた情報によって参謀本部が作戦目標とし、ここにある集積物資を焼き払うことでモンゴル人民軍の戦意を挫こうと考えたのである。


 陸軍中央が望んだ目に見える戦果としては手頃な目標であったからだが、集積物資を喪失させることによる戦略的メリットもそこにはあり、その作戦目標としての設定には何ら問題は無かった。


 元々この地域の制空権は完全に関東軍が掌握していることもあり、この日の飛行も全く敵機と接することなく領空侵犯出来ていた。また、新鋭機である九六式戦闘機(キ27)の護衛は九二式重爆撃機にとっても心強いものであったのだ。


 いくら史実B-29を超える大きさの機体であるとは言っても、鈍重で打たれ弱い以上は護衛の有無で大きく作戦の成否が変わると搭乗員達はよく理解していたのである。


 心強い用心棒に守られた九二式重爆撃機であるが、その腹に多数の焼夷弾と瓶詰めガソリンを抱えており、搭乗員達はそれが故にさっさと投下して身軽になって引き返したいと思っていた。


「こんな燃えやすいモノを抱えて敵地へ飛行するなんて狂気の沙汰だ」


「敵機に遭遇したら一巻の終わりだな」


 搭乗員達は口々にそう言っていたが、いざ敵地上空へさしかかると危惧していた敵機どころか、地上からの対空射撃もなく順調に飛行し続けあっという間にタムスク基地上空へさしかかったことに拍子抜けしていた。


「敵さん、気が抜けすぎてないか」


「いや、罠かもしれんぞ。見張り員は警戒を怠るな」


 九六式戦闘機(キ27)翼を振って(バンクし)高射陣地と思われる地点への機銃掃射を開始するとやっとのことで地上から散発的に対空射撃が始まった。


 だが、その機銃掃射と対空射撃に驚いた放牧されていた騎馬が暴れ出したことでモンゴル兵達はおとなしくさせることに気を取られてしまい右往左往するばかりであった。


「連中、ここを空襲されると思っていなかったのか?」


 爆撃隊司令はあっけにとられるが、目標である集積物資はすぐ目の前であった。野ざらしになっている木箱の山に2番機がありったけの瓶詰めガソリンを投下すると、続いて3番機も同じように投下していく。


「仕上げに掛かるか」


 2、3番機を先行させた1番機は満を持して焼夷弾を投下し絨毯爆撃していく。割れた瓶から漏れ出したガソリンが気化していったところに焼夷弾を投下したことで一気に燃え上がっていった。


「焼夷弾だけで十分だろうに」


 爆撃隊司令はそう呟くが飛行長がそれに補足を加える。


「なんでも、火炎合流というのが起きるそうで・・・・・・あ、司令、あれ」


 飛行長が指し示した物資集積所には炎の柱が周囲の火炎を巻き込む形で成長しているのが見えた。


「なんだ、あれは・・・・・・おい、見ろ、火の付いていない兵舎や木箱が次々と燃え始めているぞ」


「恐ろしい光景ですね」


「今起こったことを記録しておけ、これは司令部へ報告すべきだ。これは我が本土に敵の爆撃があったとき、ああなるかもしれん」


「はっ」


 彼等がハイラル基地へ帰還すると直ちにその報告は新京の関東軍総司令部へ回され、総参謀長である東條英機中将の元へ届けられた。


「ほぅ、この報告を書いた指揮官は見所があるな。良い目の付け所だ」


 東條はその報告書にそう呟くが、副官の赤松貞雄大尉にの頭上には特大のはてなマークが浮かんでいた。


「閣下、閣下はこうなるとわかっておいででしたのですか?」


「赤松、貴様は関東大震災の時はどうしていた?」


「はぁ、第一連隊付で、療養から戻ってきて板橋の兵器庫で衛兵勤務を引き継いでいた丁度その時でしたね。でも、あの時は急な命令で引き継ぎ後も前任を含んで待機を命じられましたね。その直後にあの地震ですから。避難訓練で民達が気を引き締めていたとは言えど度肝を抜かれましたが・・・・・・」


「では、他の地域でどうだったか覚えておるか?」


「確か横浜や小田原では市街が灰燼に帰したと・・・・・・まさか、その火災が今回の・・・・・・」


「あぁ、そういうことだ。それを敵の策源地で意図的に再現してみたのだ」


 赤松は戦慄した。東條がどういう意図で火炎瓶を大量に用意させていたのかを理解したことで、そこにある報告書の意味する内容が脳裏に浮かんだのであった。


「では、閣下、不鮮明ではありますが、この写真もまた敵爆撃によって都市爆撃が行われた後の状況と酷似するだろうと言うことなのですね?」


「うむ。そして、イタリアのドゥーエ将軍の著したIl dominio dell'ariaが示す通り、攻撃側はいつどこでどう攻撃するか常に優位なのだ。しかし、防衛側は兎に角不利となる。いつどこに攻撃があるかわからない以上、防ぐ方法は全国土を針鼠の様に対空陣地や防空戦闘機を配備するか、敵と同じく先手を打って策源地を叩くしかない。しかも、前者は我が国力では不可能ではないにしても相応に負担となる」


 東條の言葉に赤松はこの報告書が示す多くの示唆に気付かされると同時に東條の奥深さに震えを感じた。


 ――この御方は底知れない何かがある。元々カミソリやメモ魔と呼ばれている方だが、それが自身の血肉となっているからこそ、その言葉や行動に重みが増すのだ。


「さて、赤松。例の飛行隊には今回のような爆撃飛行は以後行わないように命じておいてくれ。追って正式な命令書を手配すると伝えておいてくれたら良い」


「敵にその効果を教えてやらぬ為ですな?」


「そういうことだ」

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